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3   最低な男ね

 馬車の手配を頼んだあと、私はすぐさまジェイクに謝る。


「巻き込んでごめんね」

「それはいいけど。リノ、婚約破棄を受け入れて、本当に大丈夫なのか?」

「心配してくれてありがとう。だけど大丈夫。なんとかするわ」

「なんとかって……、親父さんが許すとは思えないんだが」


 ジェイクが眉尻を下げた時、彼の兄であるエイフィック様が走り寄ってきた。ジェイクと髪と瞳の色が同じで体型も似ているが、彼は長髪で気難しそうな顔をしている。


「ジェイク! リリーノのことなんて放っておけ! 会場に戻るんだ! さもないと……」


 私がいることを思い出したのか、気になるところでエイフィック様は言葉を止めた。


「さもないとなんなのです?」

「うるさい! お前のような落ちこぼれには関係のないことだ!」


 私が尋ねると、エイフィック様は唾を飛ばして叫んだ。


 この人ってこんなことを言う人だったかしら? 学園で話をした時はとても優しかったのに、この何年かで人格が変わるような何かがあったのかしら。


「私は落ちこぼれなのかもしれませんが、それは今、関係あるのでしょうか」

「ある! 婚約破棄されるなんて馬鹿で落ちこぼれの証拠だ」

「そうですか? レレーナ様がフリーになったからといって、親の許可もなしに婚約破棄をする男性のほうがおかしいのでは?」


 エイフィック様は鼻で笑うと、私の鼻先に指を突きつける。


「不敬な発言をするなんて、やっぱり馬鹿だな」

「不敬?」

「さっき、第二王子殿下も婚約破棄していたじゃないか」

「第二王子殿下は陛下に話をして許可を取っていらっしゃいます。エイフィック様はしっかり話を聞いていらっしゃらなかったのですね」


 にこりと微笑むと、エイフィック様は不機嫌そうに眉をひそめた。


「減らず口を叩くのは相変わらずだな」

「あら。次期辺境伯になる御方が、減らず口の意味をご存じないのですか? 私は真実を申し上げただけなのですけど?」

「……もういい。馬鹿の相手はしていられない」


 エイフィック様は吐き捨てるように言うと、私に背を向けて会場内に戻っていく。


「兄さんがごめん」

「いいのよ。それよりもエイフィック様ってあんな人だったかしら」

「レレール様にふられてから人が変わったんだ。結婚を決めたのもそれが理由」

「まさか、ヤケになって結婚したの?」

「そういうことだ。あとからそれがわかって、父さんと母さんはかなり怒ってる」

「奥様が気の毒ね」

「そうなんだよ」


 親が決めた婚約者と結婚するのは、愛がないことも多い。だけど、この話については、奥様が被害者のような気もしてきた。


「ジェイク!」


 ジェイクが頷いた時、紺色のドレスに身を包んだ小柄な女性が駆け寄ってきた。


「エイフィック様が呼んでるわ」

義姉(ねえ)さん、悪いけど、今はリノと話をしてるんだ。話し終わってから行くよ」

「……わかった」


 女性が肩を落としてトボトボと歩いていくので、私はジェイクを促す。


「ジェイク、私のことは気にせずに行ってあげて……って、あ、やっぱりその前に、さっきの令息たちの名前を教えてくれる?」

「令息の名は教えるけど、それよりもリノのことのほうが大事だろ」

「久しぶりに会ったのに優しくしてくれて本当にありがとう。気持ちはとっても嬉しい。でもね、今はあなたの義理のお姉様のほうが心配だわ」


 エイフィック様の様子だと、奥様に辛く当たっていそうだし、ジェイクを脅している感じでもあった。

『さもないと』のあとは、奥様に何かすると言おうとしたんじゃないかしら。


 そうだったとしたら、本当に最低な男ね!


「これで全部だと思う」


 ジェイクは自分の付き人からペンと紙を借り、令息たちの名前を書いて渡してくれた。


「ありがとう」

「明日、また連絡する。だから、変なことを考えたりするなよ?」


 こんな風に優しくされたら感動して泣いちゃいそうだわ。

 

「……ありがとう、ジェイク。私は大丈夫だから早く行ってあげて」

「じゃあ、明日」


 後ろ髪を引かれるように去っていくジェイクを見送ったあと、私は待たせていた馬車に乗り込んだ。


 現在の時間は夜の6時過ぎ。王城から魔道具店までは馬車でそう時間はかからない。


 魔道具が売れなくなるので挨拶だけしておこうと思って行ってみたら、すぐに後悔した。


「婚約破棄ですか。それは気の毒に」


 店長はカッカッカと笑って続ける。


「まあ、魔道具はあなたのお父様から買うことにいたしますので、こちらのことは気になさらなくて結構です」

「父は魔道具のことは知らないわよ」

「あなたと連絡を取っていた人を調べれば良いだけです。伯爵ならすぐに魔道具師を見つけてくださるでしょう」

「見つからないわよ」

「はいはい」


 親切に伝えたのに、結局、店長は最後まで信じてくれなかった。


 私は物に魔法を付与することしかできない。もし、人に魔法をかけることができたなら、店長の左右の太い眉毛を繋いで一本線にしてやりたい。

 

「追い出されてもお元気で!」


 別れ際、満面の笑みを浮かべて手を振る店長に私も手を振る。


「閉店しないように祈っておくわ」


 店の入り口に置いてあった大きな猫の置物に、金運が悪くなる魔法をかけて、私は店を出た。


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