29 私の自由だ
可愛い娘に問われた父が、なんと答えるか楽しみにしたのに、思い通りにはならなかった。
「私のことはどうでもいい! それよりもお前はリリーノなのか!?」
「いいえ。私はリリーノ様ではありません」
話題を変えた父に向けて、大きなため息を吐く。
ジェイクも聞いているんだから、言い逃れはできないことはわかっているはず。シャゼットの前では答えたくないといったところか。
私は伯爵令嬢ではなく、平民の魔道具師だ。リリーノ・フェルスコットではないので否定すると、父は私を睨みつける。
「嘘をつくな。お前は……っ、育ててやった恩を忘れてこんなことをするのか!」
「私はリリーノ様ではありませんので」
冷たく答え、剣を向けたままのジェイクに話しかける。
「ジェイク様、リリーノ様は婚約破棄されたショックで命を絶ったのではなく、フェルスコット伯爵の策略で殺されてしまったようです。領は違いますが、調べることはできますよね」
「ああ。領は違っていても騎士隊同士の繋がりはあるからな」
「では、よろしくお願いいたします」
「わかった」
ジェイクは剣を鞘に戻し、私の隣に立つと小声で尋ねてくる。
「どうするつもりだ? このままだとフェルスコット伯爵家は終わりだぞ」
「わかっているわ」
父はニースのことを守らなくてもシャゼットのことは守りたいはずだ。
私はシャゼットに体を向ける。
「シャゼット様、あなたのお父様が捕まってしまうと爵位は剥奪されることでしょう。平民生活は大変かと思いますが頑張ってくださいませ」
「ま、待って!」
シャゼットは焦った声で尋ねてくる。
「私は平民になんてなりたくない! どうしたら私は貴族でいられるの!? 捕まる前にお父様が当主の座からおりたら、私は今まで通りの生活が続けられるの!?」
この件については、普通なら王家の判断を仰がなければならないが、王家は私に借りがある。
自分が婚約破棄をしたせいで、多くの女性を悲しませることとなったからだ。一人ひとりに対処しているらしく、第二王子殿下は『困ったことがあったら連絡がほしい。あなたの力になると約束する』と言ってくれているか。
フェルスコット伯爵家を存続させるというお願いを聞いてもらい、貸し借りなしにしましょう。
「そうですね。私は少し変わった魔道具師です。魔道具を作るように言われていますので、その代金の代わりにお願いすることは可能です」
笑顔で答えると、シャゼットは涙を流して訴える。
「お父様……、お願いします! 私、ジェイク様と結婚したいの!」
「貴族でも無理だよ」
ジェイクにはっきり断られても、シャゼットは気にしない。
「お父様っ!」
「……っ」
シャゼットにお願いされて、彼女を可愛がっている父が断れるわけがなかった。
「……わかった。シャゼットが今の生活を送れるというのであれば、当主の座からおりよう。だが……」
『何か文句でもあるクマ!?』
クマリーノが怒ると、父は苦虫を噛み潰したような顔で話す。
「当主が代わっても、レレール様の怒りはおさまらないぞ」
今度はニースが目をつけられると言いたいのね。
「わかっています。輝かせれば良いんでしょう?」
「そんなことができるのか?」
「どう輝かせろという指定はあるのですか?」
「……とにかく自分の存在をアピールしたいそうだ」
「では、お任せください」
具体的にどう輝きたいという指定がないのであれば、どんな風に輝かせるかは私の自由だ。
レレール様には色々と思うことはあるし、彼女が望むようなものにしてやるもんですか。




