18 それって失礼すぎない?
シャゼットは包帯姿の私をまじまじと見つめたあと、口を開く。
「確信も何も顔を隠すなんて怪しいわ。やっぱりあなたはお姉様よね?」
「顔を隠しているのはあなたも同じだと思うのですが?」
「わたしの場合は剥がれないのよ! 隠しているんじゃないわ! お姉様、あなた魔道具師なんでしょう? 魔道具の効果はかけた魔道具師にしか解除できないんだからなんとかしてよ!」
シャゼットはもう、包帯女が私だと確信しているらしい。まあ、こんな格好をしていたら怪しすぎるものね。よっぽど顔を見られては困るのだろうと思われても仕方がない。ただ、何も知らない人から見れば、シャゼットも十分怪しい。
とにかく、もう少しだけ茶番を続けてみる。
「何か悪いことをしたからくっついているんだと思いますが、何かされましたかぁ?」
「していないわ! せっかく来てあげたのに休みだったから、張り紙を剥がして破れって言っただけよ!」
「普通の人はそんなことはしないんですよねぇ」
「わたしは普通じゃないもの! 美しい貴族よ!」
「うーん。どうしても美しいとは思えないんですけど。あ、名前だけが美しいとかですかね」
「違うわよ! 身も心もに決まってるでしょう!」
自分でここまで言えるのだから、ある意味感心してしまう。彼女の心が美しいと言うのならば、彼女よりもまだマシな心の持ち主であるはずの私は光り輝いているんだろうか。
「ちょっと! 話を聞いているの!?」
「これは失礼いたしました。ちゃんと聞いておりますよ。ところで、私があなたの姉だったとした場合、死んだと公に発表したことについては、なんて言い訳するんですか?」
「そ、それは、その勘違いよ」
「葬儀までしたんですよね?」
「お姉様に似たような死体が見つかったから、その人がお姉様だと思ったの。大体、わたしが葬儀をしたんじゃないわ!」
「姉によく似た死体……ですか」
どんなのだろう。普段の私って死体みたいな顔をしていたということ? それって失礼すぎない?
密かに憤っていると、シャゼットは自分の顔部分を指さす。
「とにかく早くこの張り紙を剥がしてちょうだい!」
「魔道具師に連絡しておきますね」
「だ、か、ら、お姉様が魔道具師なんでしょう!? ねえ! せっかくすごい力を持っているんだから戻ってきて家のために働いてよ! お父様も反省しているの!」
反省していると言われても、それだけなら猿でもできるという言葉を聞いたことがあるので、心に響かない。シャゼットたちと同レベルにされるお猿さんが気の毒ね。
「私には知ったことではありませんので、他所を当たってください」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 他所を当たれって、私はあなたを探してたのよ!」
「あなたを探していたと言われましても迷惑ですね。私はあなたの姉ではありませんから」
「ふざけないで! 見ただけでわかるのよ! あなたはお姉様だわ!」
見ただけでわかる? そんな仲ではないでしょう。
「見ただけでわかるってすごいですね」
「どういうことよ」
「だって、私の顔はあなたに見えていないのです。ということは、あなたの姉ってミイラだったんですか?」
「そんなわけないでしょう!」
シャゼットは言い返したあと、私を二度見して口を閉ざした。私はシャゼットの前でミイラ姿しか晒していない。だから、見ただけで姉だとわかると言うと、彼女の姉はミイラ女になってしまう。
「「…………」」
私とシャゼットは無言で見つめ合う。……たぶん、見つめ合っていると思う。シャゼットの目の穴が小さすぎて、こちらからではわかりにくいから、絶対とは言えない。
「とにかく今日はお帰りください。魔道具師には話をしておきますので」
「怪しい人物が言い争っているという連絡を受けたんだが……」
しばしの沈黙のあと、女将さんがシャゼットに話しかけた時、騎士団の人たちがやって来た。その中にはジェイクもいて、シャゼットは彼を見て喜んで飛び跳ねる。
「ジェイク様! お会いしたかったです! わたし、わたしです!」
ジェイクは張り紙女がシャゼットだとわかっているはずだ。だけど、私がジェイクの立場なら知り合いだと思われたくない。
まあ、今の私がシャゼットのことを言える立場ではないが――。
「ジェイク様! 相変わらず素敵ですわ! わたしのこと覚えてくださっていますよね?」
「……誰だよ」
張り紙を顔に貼り付けているシャゼットに話しかけられたジェイクは、訝しげな顔をして彼女につっこんだのだった。




