第0章 時が止まった少年達
新しいジャンルに挑戦します!
「私ね、異世界に行ってたんだ。」
俺達幼馴染4人組の目の前で姉貴分(正確には幼馴染の1人の実姉)として慕っていた女性は、困ったような顔でそう告げた。
「「「「……んん??」」」」
俺達4人は怪訝な表情で『何言ってんのこの人?』と同時に思った。
なぜこうなったかというと、話は数時間前にさかのぼる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
事の始まりは7年前だった。東京のような都市と森に囲まれたド田舎の中間くらいの…まぁ、ぶらり旅的番組で1回くらい特集されるだろうな位ののどかな街に俺は生まれた。ありふれた普通の家庭に生まれた俺、或田 冬史郎(あだ名:トシ)は、近所に住んでいた3人の幼馴染と一緒によく遊んでいた。
シャイなメガネ小僧、米賀 春彦(あだ名:ハル)。
弁当屋に生まれたのんびり小太り少年、出鍋 秋良(あだ名:アッキー)。
生真面目で黙っていれば普通に可愛い女の子、脛久 夏香(あだ名:ナッチ)。
そして自称平均より少し顔がよくて行動力がある少年の俺。たまに喧嘩もするけど、それなりにいい付き合いをしてきた。あと俺には、子供ながら恋心を抱いていた女性がいた。
『トシく~ん!』
柔和な笑みと澄んだ声色で俺の声を呼んでくれる女性。
ナッチの実姉で俺達の7つ上のお姉さん的存在、脛久 カイ(あだ名:カイ姉)。
ちょっぴり天然だが優しく、早くに両親を亡くした姉妹だがナッチのために母親代わりとして支えてきた献身的で強い人だ。だから俺はカイ姉に恋心を抱いていたと同時に、1人の強い人間としてあこがれを抱いていた。俺はそんな人を含めた5人で、今を淡々と生きていくのだと思っていた。
しかしある時、カイ姉の行方が分からなくなった。
それは俺達4人が小学4年生、カイ姉が高校2年生の時だった。夜遅くになっても中々帰って来ないらしく、一夜明けても帰って来なかったとナッチから報告を聞いた。何度電話をかけても応答がなかったし、よく行く場所を回っても見つからなかった。警察にも相談し捜索願を出してもらったが、全然見つけることができなかった。
当時まだ10歳だったナッチを1人にするわけにもいかず、しばらくは俺の家で預かることになった。いつかカイ姉が見つかることを信じて待っていたが、2年3年経過しても見つかることはなく、俺達も次第に諦めの感情を抱くようになってきた。
カイ姉が行方不明になって7年…俺達は高校生になった。
まずは俺、冬史郎。黒髪だった俺は高校進学に合わせて金髪にした。理由は大したことじゃない、ヤンキー漫画を読んで『俺もツッパろう』と考えたからだ。しかし、高校は偏差値が普通で治安も悪くないし、札付きのワルもいない。俺自身もカッコつけを理由に染めただけで問題は起こしていない。たまに後輩に怖がられる程度だ。
「…おはよう、或田。」
通学路を歩いていると、幼馴染みの1人、春彦と出くわした。小学生の頃は4人の中で1番背が低かったハルは、成長期を迎え今では1番背が高くなった。カイ姉が行方不明になって以降は遊びより勉学に励むようになり、今では学年ベスト3になった。
「トシ、ハル、おはよう。」
次に合流した小太りな少年は、同じく幼馴染みの秋良。こいつも小学生の頃からそれなりに背が伸び、4人の中では2番目に背が高い。こいつは昔からあまり変わらず、今でも俺達をあだ名で呼ぶ。弁当屋の手伝いを積極的にするようになっただけで、それ以外の変化はない。ある意味では尊敬できるヤツだ。
「或田君、米賀君、出鍋君、おはようございます。」
最後に合流したのが、幼馴染み4人組の紅一点、夏香。おそらく1番変わったのはこいつだ。幼い頃の明るく強気な一面は鳴りを潜め、物静かで礼儀正しくなった。実姉のカイ姉が消えてからしばらく落ち込んだが、すぐに自立しようと一人暮らしで努力してきた。今ではクラス委員長としてクラスをまとめており、冷徹ながらも頼られる存在になった。
・・・・・まぁ、何が言いたいかというと、俺達の関係はカイ姉を失ってから変わった。勿論関係を戻そうと考えたことはあった。しかし、そうするとどうしてもカイ姉が関わり、自分なりに立ち直ろうと歩いた足をそのまま止めてしまいそうで怖かった。アッキーが唯一正直に向き合おうとしてくれる分、申し訳ない。
「或田君。」
「うん?」
「先日の課題の提出がまだです。提出をお願いします。」
「…締め切りまでには出すっての。」
「分かりました。出鍋君もまだですので、お願いしますね。」
「う、うん…あのさみんな、今度の日曜日、カラオケ行かない? しばらく4人で行ってないからさ。」
「悪い、俺その日用事。」
「同じく。」
「すいませんが、私も。」
「そ、そっか…。」
しょんぼりするアッキー。…あぁもう、なにやってんだ俺、というか多分俺達。せっかくアッキーがよりを戻すチャンスくれたってのに…。2人を見ると、別々に視線を逸らす。多分俺と同じ考えだ。ただ、俺には指摘する資格がない。俺も切り出すのが怖い。
「(どうすればいいんだよ…カイ姉…。)」
俺は既にいないであろう憧れの女性に助けを求める。俺達ももうガキガキ言われる年齢じゃねぇのに。いつまでも子供じゃいられないのに…俺は髪を掻きながら、雲一つない空を見つめる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
冬史郎が見ている先とは別の地点の空に、円形の魔方陣が現れ、そこからとんがり帽子を被った黒衣の女性が現れる。
「…帰ってこれたの?」
女性が空から見た街並み。それは、昔一番高いタワーから見た街と全く同じだった。
「ふふふ…忘れ難き故郷よ、私は帰ってきたああああぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
女性はガッツポーズをとりながら、スカイダイビングの如く勢いをつけて落下していく。
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