表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/70

第8話 再び降り立つ救世主

「その赤い容器の飲み物はなんですか? 人がいないのに販売できるのですね……。この世界の人々は決まりを守るのですねえ……」


 セシリアが感心して呟く。

 どうやら聖王国では、自販機があったら壊してジュースを取り出すような輩が多いらしい。

 遊は曖昧に頷きつつ、コーラを2人分買った。


「ええと……」


 いつもの癖で、両替機にコインを入れようとして……思い出した。


「まだクレジットあるんだった」


「はい。昨日のクレジットが残っておりますので、中断地点から遊ぶことが出来ます。当店のゲームは特別ですので……経過する時間がちょっと他とは違うことがございます。ご了承下さい」


「うう、一回のプレイでクリアできないなんて。ストレスだ」


 呟く遊に、信じられないものを見るような目を向けるセシリア。


「まさか……遊。黒船帝国を一晩で倒すつもりだったのですか?」


「うん、そう」


 セシリアの喉がヒュッと鳴った。

 思わずふらついたので、遊が慌てて駆け寄って支えた。

 遊の手には、セシリアの柔らかな感触が感じられ、彼女のいい匂いが漂う。


「だっ、大丈夫……!?」


「あ、ありがとうございます、遊。あまりにもあんまりな事をあなたが言うので、一瞬気が遠くなって……」


 女店主は得意げだった。

 店内でのメイクラブはいけませんからね、と言った後、


「それでこそ救世主というものですよ。さあ、お二人共。本日のゲームには長椅子を用意してあります。どうぞお掛け下さい。そして本日も救世を!」


「あっ、本当に二人がけの椅子だ。シューティングゲームでこういうの使うことあるんだなあ……。2Pプレイはできるけど、一人でやるもんだとばかりずっと思ってた……」


「それじゃあ、失礼します」


 セシリアが隣に腰を下ろす。

 お互いのお尻が触れ合ったので、遊がもじもじした。


「どうしたのです! これから戦うのでしょう? もじもじしてはなりません!」


「いやあ、その、女の子がこんなに密着しているの初めてで……」


 さっきたまたま密着したけど、ともごもごと言い訳をする遊。

 セシリアは、本当に彼が聖王国を救った最強の戦士なのか、疑いそうになった。

 だが……。


“PRESS START BUTTON”


「……」


 無言でスタートボタンを押した遊は、その瞬間から雰囲気を変える。

 いつも困った風な顔つきが引き締まり、鋭い目が画面を睨みつける。


(彼は戦士だ。それは間違いない)


 セシリアは遊に対するさっきまでの印象を改める。

 そして……。


“2nd STAGE 聖王国宇宙港”


 画面にその文字が表示された途端。

 セシリアの意識は、画面の中に飲み込まれていった。


 ハッと気がつくと、見知った研究所にいる。

 既に空母モードで飛行しているようだ。


 ドッグには、メイガスが収まっている。


「遊? いるのですか?」


『ああ。いつでも発進できる。なんていうか……いつもなら自動的に発進してるんだけど、調子が狂う』


「私……あなたという人が分からなくなります。どうして戦場で、そこまでマイペースなのですか?」


『緊張したらいつもの動きができなくなるからね。僕は、いつも通りが最強なんだ』


「……!! 分かりました。頼みます、遊。聖王国宇宙港を解放して下さい!」


『了解』


 メイガスの機体に光が灯る。

 救世主は再び、聖王国に降り立つ。


 ※


 聖王国宇宙港にて、銀甲騎士団は翼を休めていた。

 彼らは総勢十六機。

 その全てが、聖王国の一軍を相手取って圧倒できるほどの、超絶的な力を持つ人型機動兵器である。


 重装甲は生半可なビーム機銃を通さず、盾ともなれば戦艦の主砲をも防ぎ切る。

 装備した武器は魔導装甲をもやすやすと切り裂き、さらに斬撃は光の刃となり、離れた相手をも切り刻む。

 そんな騎士が一体ではなく、複数体による連携で攻めてくるのだ。


 銀甲騎士団は無敗であった。

 騎士団長は、長大な槍を地に突き立て、天を仰ぐ。


『この地にも敵はいなかったか。有象無象どもでは、相手にもならぬ』


 宇宙港の周囲には、無数の残骸が散らばっている。

 それらは、宇宙港を取り戻すために押し寄せた聖王国の軍勢である。

 騎士団長はその残骸を集め、悪趣味な玉座のようにして腰掛けていた。


 己の踏みつけている者共は、ただの一機も、銀甲騎士団に一矢報いる事はできなかった。

 弱い。

 弱すぎる。


 銀甲騎士団はもともと、鋼の肉体に意志を宿した無敵の戦士団であった。

 敗北を知らぬ、宇宙を駆ける戦士たち。

 無軌道に力を振るうことしか知らぬ彼らに、道を示したのが皇帝だった。


『うぬらの力を、余のために振るうが良い』


 圧倒的な力で銀甲騎士団を蹴散らした皇帝は、その手を差し伸べたのである。


『余がいかに強大であろうと、ただ一人でできることはたかが知れている。うぬらが力を貸してくれれば、余の権勢はこの宇宙に轟くことであろう』


 騎士団長は、その言葉に衝撃を受けたものである。

 己らを打ち倒すほどの力を持ちながら、手を差し伸べる存在。

 この方のために戦うことこそが、銀甲騎士団にとっての天命だったのだ。


『我ら無敵の十六機。皇帝陛下の剣となりましょう……!!』


 力こそ全て!

 圧倒的な力を持つ皇帝陛下が振るう剣こそ、このけっして折れず、破れぬ最強の騎士団。

 銀甲騎士団なり!


『聖王国は落ちた。王都で何かあったようだが、考慮するまでもあるまい。オクトパリス程度の小物が、油断でもしたのだろう。だが、我らは違う。宇宙港は絶対に、聖王国の手には戻らぬであろうよ』


 カカカカカ!!

 と騎士団長が笑った。

 騎士たちもまた、笑い出す。


 巨大な機械の騎士たちが漏らす笑いが、死の荒野と化した宇宙港周辺に響き渡った。


 宇宙港周辺には、この奪還を狙って聖王国軍残党が潜んでいた。

 だが、鋼の騎士たちに隙はなし。

 最大戦力で攻め立てた先陣が、鎧袖一触で蹴散らされたのを目の当たりにした彼らは、絶望していた。


 勝てない……!

 あの化け物どもにはどうやっても勝てない。


 奴らに愚弄される事は許しがたいが、だが自分たちには、奴らに抗うだけの力はない。

 力なき者は、口を開く資格すらないのか……!!


 そこへである。

 小さな空母が飛んできた。

 斬撃が届かぬギリギリで滞空したそれが、搭載していた機体を甲板に持ち上げる。


『なんだあ、ありゃあ?』


 騎士の一人が、それに気付いた。


『団長! ちんけな機体がやって来ています。はあ、戦闘機が一機? そんなもんで、俺ら銀甲騎士団とやりあおうとは! カカカカカ!!』


『長き斧よ。貴様に任せる。仕留めよ』


『御意!!』


 騎士が地を走った。

 背中の翼が広がり、鋼の巨体が舞い上がる。

 手にした得物は、長柄の斧である。


 それが高速で振り回され、光の斬撃を次々に生み出す。


『カカカカカ! 来れるものなら来てみろよ! 俺の斬撃は相手の動きに合わせ、自在に変化するぞ! 誰も! どんな戦闘機も、俺の斬撃をくぐり抜けることはできない!!』


 果たして。

 空母から発進した戦闘機は、斬撃に向かってまっすぐに飛んだ。

 それを回避しようとして、しかしそこにも斬撃が迫っている。


 上にも、下にも。

 そして正面にも。


『詰みだぁ! 戦闘終了!!』


 宣言する騎士。

 だが。

 戦闘機の爆発は起こらなかった。

 斬撃と斬撃の隙間。

 時間を停止した後、目を凝らしてじっくり見れば、確かにそこは隙間だと言える程度の空間を。


 戦闘機……メイガスが迷いなくくぐり抜けた。

 最高速で。


『は?』


 反応が出来なかった。

 ビーム機銃が顔面に叩き込まれる。


 ビーム機銃を弾く装甲を持つ騎士団。

 だが、頭部のカメラアイに限って、その範疇ではない。


 騎士は一瞬で視界を奪われた。


『なんだっ!? なんだーっ!!』


 叫びながら、斧を振り回そうとする。

 だが、敵は今、彼の顔面に張り付いていた。


 密着距離からのビーム機銃連射。


『ウグワーッ!?』


 騎士の頭が爆散した。

 メイガスはくるりと宙返りしつつ、騎士の首に空いた穴目掛けてビーム機銃を斉射。


 騎士の体が、内部から溢れ出した爆発に飲まれて砕け散った。


 溢れるエネルギーが、メイガスに吸収される。

 生み出された兵装は……投げ槍。

 エネルギーチャージによって威力を増す、ビームジャベリンだ。


『なんだと!? 銀甲騎士団が……! 長き斧が滅ぼされただと!?』


 騎士団長が立ち上がる。


『許せぬ!!』『長き斧め、油断したか!?』『油断したとは言え、騎士を落とす戦闘機など!』『なあに、何かの間違いよ!』『カカカカカ! あのようなカトンボ、俺が落としてくれる!』


 騎士たちがざわつき、すぐさま飛翔を開始する。


『うぬら!! 行け! 彼奴を落とせ!! 仲間の仇ぞ!! 生かして帰すなーっ!! 彼奴を逃げ帰らせたとあっては、銀甲騎士団の名折れぞーっ!!』


 叫ぶ騎士団長の声に、向かってくる戦闘機からの言葉が、被さった。

 静かな声だと言うのに、不思議とはっきりと聞き取れたのだ。


『タイムアタックを開始する』

お読みいただきありがとうございます。

面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ただクリアするだけでなくタイムアタックに挑戦するとは……舐めプにも取られかねないけど、どちらかと言うと求道的なアプローチなんでしょうねぇ……なんとストイックな……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ