表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/70

第7話 次なるステージに向けて

 朝になり、カーテンの隙間から差し込む日差しでセシリアは目覚める。

 熟睡してしまったようだ。

 黒船帝国の侵攻以来、初めてではないだろうか。


 昨日はあれだけのことがあったのに、自分は薄情な人間なのではないかと思う。

 いや、きっとそれは、安心できたからなのではないだろうか?

 ベッドの下で、ぐうぐうと寝ている遊の姿がある。


「私が熟睡できたということは……彼は手を出してこなかったということですよね」


 それはそれで、男性としてどうなのだろうと思わないでもないセシリアだった。

 いや、彼女にもそういう経験は無いのだが。


「遊には遊の考えがあるのでしょう。私は救世主のやり方を尊重します」


 言葉に出すと、そんなものだな、と思うことができた。

 さて、どうしよう。

 起き上がり、カーテンを開けた。


 気持ちよく晴れている。

 そこで、チャイムが鳴った。


「あ、はーい」


 それが部屋につけられた、呼び出しのベルのようなものだと理解し、セシリアは返事をしていた。

 ぱたぱたと玄関まで行き……。


 扉の構造を観察する。


「鍵はこれ。チェーンがある。なるほど……これがあれば容易には侵入されませんね」


 手に、台所のフライパンを持った。

 チェーンを掛ける。


「おーい、安曇野! 朝飯食いに行こうぜ」


「アズミノ……? 遊のことでしょうか」


 ということは、外にいるのは怪しい人物ではない?

 そっと扉を開けてみると、そこには遊と年齢の近そうな大柄な男性がいた。


 彼はニコニコしていたが、セシリアを見るとギョッとした。


「あっ! もしかして安曇野の彼女!? ウグワーッ! 彼シャツ!! あー、こりゃどうも、失礼しました……!!」


 バタバタ走り去っていく。


「あ、あの……!」


 なんだろう。

 勘違いをされた気がする。


「うおおお、み、見られた!」


 後ろで目覚めた遊が頭を抱えていた。

 見られてはまずかったのだろうか……?

 だが、この程度の困難、遊ならば容易く乗り越えてくれるだろうと信じられるセシリアだった。


 朝食は、甘いフレークにミルクを掛けたものだった。


「お菓子みたい! これ好きかも」


 パクパクと食が進むセシリア。

 その間に、遊はセシリアの下着などを洗濯し、一階の乾燥機にかけに行っている。

 やがて、下着を必死に隠しながら遊が戻ってきた。


「見られて困るものではないのに」


「僕が困りますので……! それで、セシリアさんの下着を買いに行こうと思います、今日は。あと、服も!」


「あ、はい! でも私、この世界のお金を持っていなくて……」


「僕、ゲームしか趣味がないんで貯金がありますから。買います」


「そんな! 王国のために戦ってもらって、さらには食事まで用意してもらって、服までいただくなんて……!」


「いいんですいいんです! 行きましょう!」


 勢いで押されて、そういうことになってしまった。

 二人で、バスに乗り込む。

 同じような自動馬車は、聖王国にもあった。


「こちらの世界は、聖王国と近いものがちょこちょこあるのですね」


「そうなんですか?」


「はい。まさかこちらの世界が、これほど文明が発達しているとは思いませんでした。聖王国に負けていませんね」


「聖王国も凄いんですねえ……。僕はゲームの背景でしか見たことないですけど……」


「いつか平和になったら、いらしてください」


「あっはい、ぜひ」


 バスに揺られて向かった先は、巨大なショッピングモールだった。

 これは、聖王国に存在しなかったもの。

 圧倒的な大きさに、セシリアは呆然とした。


「城よりも遥かに大きい……!! こ、これはなんですか」


「ショッピングモール・アイオンです。じゃあ行きましょう。ずっと作業着だとよくないですし……!」


「あ、はい!」


 婦人服売り場に向かい……。


「彼女さんに服を買ってあげるんですか? いい彼氏さんですねえ。そうですね、彼女さんはスタイルがいいですし、メリハリがあるから……」


 色々買ってしまった遊なのだった。

 さらに、普段着用にお安い洋服店で、着回しできそうなものを買う。


 たちまち、遊とセシリアの両手は荷物で埋まってしまった。


「遊、なんだか私……とっても楽しいです! 祖国が今も侵略されているというのに……こんなに楽しんでいいんでしょうか……!」


「あ、セシリアさんの国は僕が救うので大丈夫です」


 サラッとそんなことを言う遊。

 セシリアは遊を頼もしく思うのだった。


 二人でフードコートにて、食事をする。

 ハンバーガーという食べ物は、セシリアもよく馴染んだものだった。

 フライドポテトは、揚げ立てでパリッとしている。

 ジュースも美味しい。


「ああ、こんな状況なのにとっても幸せ……」


「英気を養いましょう。僕ら、今夜は決戦ですし」


「はい! そうか、これは戦うための気持ちを高揚させているのですよね!」


 免罪符を得たか、セシリアはニコニコしながら猛烈な勢いで食べ始めた。

 遊はそれを眺めながら、のんびりとうどんを啜るのだった。


 モールに入っている映画館で、アニメ映画を見る。

 その後のセシリアはずっとボーっとしていて、


「白昼夢を見ていたようです……。凄いものを見てしまいました」


 ふらふらしていてなんだか危なっかしい。

 バスが来るまでの間、ゲームコーナーで休憩することにした。

 残念ながら、ここにシューティングゲームはない。


「女の子は……UFOキャッチャーとかがいいんだろうか……」


 シューティングゲーム以外にはとにかく疎い遊なのだった。

 セシリアはと言うと、ゲームコーナーを見て回るだけでお腹いっぱいになったらしい。


「色々ありすぎて、もう何も頭に入りません……」


「じゃあ帰りますか」


 そういうことになった。

 バスで自宅まで戻り、荷物を置く。

 セシリアは買ってもらったワンピースに着替える……。


 その間、遊はユニットバスに入って待機だ。


「ワンルームはいけない。どこにいても着替えとなると見えてしまう……。引っ越すか……? いや、セシリアだっていつあちらの世界に帰るか分からないんだ。焦るな、焦るな……」


 ぶつぶつ言っていたら、セシリアは着替え終わったようだった。


 ウエストのところをリボンでキュッとまとめた、白いワンピース。

 いわゆる、体型が出るタイプの服装だ。


「体にフィットしていて動きやすいですね、これ! 遊、ありがとうございます!」


「ど、どういたしまして。その姿で戦いに行く?」


「はい。戦いには一張羅で向かうものです。その方が気合が入りますから。とは言っても……私は遊を応援しているだけなのですが」


 こうして二人は家を出て……。

 そろそろ日が暮れようという中、昨日の場所に立った。


 ある。

 消えたはずのゲームセンターが。


 ゲームセンター“ドリフト”が戻ってきていた。


「いらっしゃいませ、救世主よ」


 第二ステージが始まろうとしている。

お読みいただきありがとうございます。

面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんかウグワー史上1番ショボいウグワーを見た気がする、、、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ