第69話 勝利の鍵は内藤とうがらし
三つの進化武器を手に入れた遊。
そんな彼は、次なる進化武器を求めていた。
だが。
エリィや岬二尉が使っている武器と被るのはちょっとなーと思う遊。
彼はやりこみ勢であるとともに、エンジョイ勢でもあった。
人とはちょっと違うものを好む。
使われていない武器を思わず探してしまうのだ。
内心の捻くれ者っぷりが発揮されていると言えよう。
「うーんうーん」
遊は唸りながら、魔王と正面から撃ち合う。
ペットボトルロケットも、山車も、ガン=カタも、良い働きをしている。
だが、そこに達人の助力を得てなお、互角から抜け出すことはできなかった。
それほどに魔王の弾幕は厚い。
これがローグライクシューティングでなければ、クリアさせる気がないだろうというレベルのものだ。
もちろん、原作よりも強い。
「うーん、うーん。でも三人もプレイヤーがいると、全ての武器種が出てしまう……。僕の知らない間に追加されたアップデートでもない限りは……」
「おい遊! 人と同じでもいいだろ! 勝とうぜ! いつものハングリーなお前はどこに行ったんだよ!」
「スノン、このゲームは選択肢があるだけに、こだわりを持ててしまうんだ……。今回は一回限りの実戦だぞ。となれば、特別な構成で望みたい。舐めプじゃない。僕のこだわりなんだ。テンションと戦闘力が如実に変わるんだ」
「……確かに遊のモチベーションが底辺になった時、自分とすら互角になってたもんな。決着がつかなかった」
「でしょう? だから僕は今! こうやって! レベルアップで獲得するのを強化アイテムにし、そろそろ能力強化アイテムは取り尽くしたので、ここからはお金を取得してるけど! そうやって待ってるんだ! 武器を……新しい武器を……!!」
『随分と余裕だなあ!! だが……貴様に悪い知らせだ。我は時間とともに進化する魔王でな……』
球体に四本脚が生えたような、魔王フルツパラー。
その姿が変わり始める。
球体の上部が展開し、その中からゴゴゴゴゴ……と音を立てて蜂の巣に似た砲台が出現したのである。
放たれるのは、漆黒のキラービー。
『知っているか! 働き蜂は全てメスだ。それが高い戦闘力を持ち、最前線で活躍する。ここにオスバチの居場所などない! 多様性だ』
「何言ってるんだこいつ」
スノンがポカンとした。
岬二尉が顔をしかめて、「悪い多様性です。全然多様じゃないです」と呟いた。
だが、キラービーによる攻撃は強力だ。
果物が放たれる中を、巨大なキラービーが上方から攻撃してくる。
「うわーっ! こいつらタフなんだけど!」
「本当です! 私達の攻撃では一発で倒せません!!」
「では俺の出番だな! ハイヤーッ!!」
飛び上がるのは達人。
連続蹴りでキラービーを「ウグワーッ!!」と粉砕した。
だが、敵の数はあまりにも多い。
遊はその中で、考えながら攻撃を続けていた。
こちらの手数が限界に近い。
多くの弾を放ってはいるが、魔王はそれを上回る手数で攻めてくるのだ。
果物を、キラービーを次々に撃ち落とす。
だがきりがない。
相殺するばかりで、前に進むことができない。
このままでは……敵の手数に押され、じりじり交代するばかりのジリ貧だ……。
「またレベルアップ……レベルアップ……。次は……。おっ、トレジャーボックス!
!」
遊が動いた。
山車を盾にし、あらゆる攻撃の相殺を一瞬だけ止めて、弾幕の只中に突っ込んだのだ。
『馬鹿め!! 焦りおったか! 我の勝ちだ!!』
魔王は勝ちを確信した。
彼の圧倒的な弾幕が、救世主遊を押しつぶす……はずだった。
遊は既に、トレジャーボックスを開けている。
それが、キラキラと輝いていた。
「僕が遊ばないうちに、アップデートがやっぱり来ていた……! そろそろだと思っていたんだ……!」
光の中から武器が出現する。
この間、この世界において時間は停止する。
魔王もまた世界のルールには従わねばならないのだ。
『何を今更……!! この状況を覆せる武器など存在するはずが……』
小さな、真っ赤なものが出現した。
遊がそれを手にすると……。
武器欄に『内藤とうがらし』NEW! の表示が成される。
「なんだこれ……!」
「内藤とうがらし!? 2010年に復活!内藤とうがらしプロジェクトで脚光を浴び、新たな新宿区の名物となるであろう、江戸時代に親しまれたとうがらしです!!」
「へえー!」
『まずい!!』
魔王が焦った。
それは即ち、彼が拠点と定めたこの地、新宿の新たなシンボルとなりうるものである。
遊の手に、加工された内藤とうがらしの袋が出現する。
それはひとりでに開くと……。
真っ赤な粉末となって、遊の周りを浮遊し始める。
「うわーっ、辛そう!! でも自分たちには触れられないっぽいな?」
『させるな! 者共、あれを潰せ! 潰せーッ!!』
襲いかかるキラービー。
それらは、内藤とうがらしの赤いフィールドに触れた瞬間……。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!!」
断末魔をあげ、ポトポトと落ちる。
激辛唐辛子のフィールドが、遊を取り囲んでいるのだ。
キラービーたちは、これを突破することができない。
さらに、落ちてくる経験点を得て、遊は内藤とうがらしを強化していく。
唐辛子フィールドの範囲が拡大し、ダメージを与えられる間隔が縮小し、ダメージが強化され……。
ついに、内藤とうがらしが極まる。
あまりのとうがらしパワーに、接近した果物は燃え上がり、キラービーは粉砕される。
自らの身を守る必要が無くなった遊は、すべての武器を魔王へと向けた。
「それじゃあ……これで終わりだ!」
『おのれっ! おのれ救世主!! なんという引き! なんという悪運!! この土壇場でそのような……!!』
「僕が何回レベルアップし、試行回数を重ねたと思ってる? 逆転の一手を引き当てるまでレベルアップし続ける。これは必然の勝利だ」
ペットボトルロケットが魔王の巨体に無数の打撃を食らわせる。
山車がぶつかると、流石の魔王も傾いだ。
そこに飛び込む、ガン=カタとコンボの達人。
「もうコンボの達人、遊の武器みたいになってない?」
銃撃が、打撃が、連続コンボが、謎のビームとアッパーが魔王を穿つ。
『あがががががががが!! この魔王が! 我がこんな、こんなあっけなく……!! ウグワーッ!!』
絶叫とともに、魔王は一瞬大きく膨れ上がり……。
爆ぜて光の塊になった。
撒き散らされる経験点。
それは大きく広がり、新宿中に撒き散らされる。
破壊されていた新宿の町並みが、修復されていく。
外界とを隔てていた不可視の壁が消えていく……。
新宿は今、解放されたのだ。
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