第67話 魔王の元まで一直線!
「僕は上に昇るけど、達人はどうする?」
「俺も上がろう! ホアチャーッ!!」
達人が飛び上がり、都庁入口から飛び上がった。
ビルの周辺にも多くの怪物たちが浮遊しており、それが次々と襲いかかってきていたのだ。
達人はこれに空中で攻撃を仕掛け、その反動でさらにジャンプし、外側から魔王城を登っていくつもりらしい。
「なるほど、内と外から行動すればお互いに経験点を食い合わなくて済む……イエスだね!」
遊がサムズアップすると、達人もまたちらりといい笑顔を見せるのだった。
こうして二人は、魔王の前での再会をなんとなく約束して別れた。
さて、魔王城こと都庁の内部だが……。
なんと最上階まで吹き抜けになっていた。
さらに二つの塔を繋ぐ場所は天蓋が無くなっており、見上げる遥か上に巨大な球が浮かんでいる。
「あれが魔王の間か。あるいは魔王そのものか。ちょっと原作と変わってる」
遊は呟くと、上を目指し始めた。
どうやって昇るか?
「山車に決まってるでしょー。これは足場にもなるし、お神輿系の武器があるとマップの見立てがね、変わるんだよね」
「変わるの? どう変わるの」
「こう変わる……」
事も無げに、遊が何も無いように見える空間を歩き始めた。
「わわわ! な、何をしてるんだ!?」
「都庁の吹き抜けをね、こう斜めから見下ろして、丸ごと平面マップに見立ててるわけ。多分現実世界だと普通には無理なんだけど……。お神輿や山車は基本的な移動が、高度のあるものを平面に見立てて縦移動するんだよね。この武器の特性に合わせて、僕も縦移動する」
「?????」
スノンは全く分からんという顔をした。
だが、自分も一歩踏み出してみると、何も無い空間を歩いて登れるではないか。
しかも、登っているという感覚がない。
平坦な道を歩いているかのようだ。
「な、なんだこれー!?」
「実際に新宿アポカリプスだと、建物の中のステージはこういう見立てになってるからね。上がるというアクションが無いから、上方向への移動を上昇に見立てる移動になる」
「なんて難しい世界だ……。まるで自分の見方で世界を塗り替えるみたいな……」
「そんなもんかも知れないね」
談笑しながら、遊はペットボトルロケットと山車を展開して突き進む。
さらに、レベルアップで青龍刀を取得した。
遊のスタイルは自ら手にして戦うのではなく、青龍刀を宙に浮かべて周囲を旋回させるのである。
これによって、スノンと青龍刀の二つで近距離を守れるようになった。
「おっ、下の方でエリィさんと岬さんが入って来た。やっぱり裏口で正解だったね。武器も増えてるみたいだ。あの組み合わせなら、エリィさんはHV車ロケットを覚えられるし、岬さんはライフルがそもそもロケランとシナジーがあるからね。あそこに手榴弾と地雷を覚えれば、隙はなくなるってメモでアドバイスしたんだ」
「ゲームのことに関しては、本当に正確無比な助言をするのな……」
「僕の中身は九割くらいゲームで、一割が仕事だからね……。最近は八割ゲームで、一割くらいセシリアが入り込んできた……」
「ほほーん!」
スノンが目を丸くする。
そしてにゅっと笑った。
「なんだなんだ、人間らしいところ見せてくれるじゃないの」
にゃっにゃっと猫パンチしてくる。
遊も照れ笑いした。
なお、照れ笑いする彼の前で、山車が「ソイヤソイヤソイヤソイヤッ!!」とか掛け声を上げながら太鼓を乱打し、突き進みながら周囲の敵を粉砕していっている。
ペットボトルロケットは、現れる端から怪物たちを薙ぎ払っていく。
仕上がっていた。
完璧に、遊は……猫探偵は仕上がっていた。
最大進化した武器が二つ。
さらに今、独り占めできる経験点で新たな武器を育てている。
青龍刀の数が増える。
つぎに青龍刀の振るい手が現れる。
明らかに中華系のギャングである。
さらに新たな武器を取得する。
チャカである。
チャカを持った強面の男たちが出現する。
明らかに一昔前のヤクザである。
「おい遊~!! なんだこいつら! 何を増やしてるんだーっ!?」
「青竜刀と拳銃だろ? 射程距離は短いけど、これも手数武器なんだ。シナジーがあるんだぞ」
「いや、武器じゃなくて武器を振り回してる人たちがさ!」
「演出演出。武器のほうがメインで使い手はサブだから」
「ほんとに気にしない人だなあ!」
周囲にあふれる怪物の数はどんどん増える。
魔王の目の前なのだから、当然とも言えるだろう。
吹き抜けのはずの魔王城は、頭上を伺うこともできない。
敵、敵、敵。
敵で埋め尽くされている。
その姿は、ドラゴンであったり、黒い甲冑を纏った騎士であったり、翼の生えた悪魔であったり。
しかもこの敵は弾を撃つ。
遊を目掛けて攻撃を加えてくるのだ。
「来たなあ、弾避け! 楽しい! ほんと楽しい!」
「イキイキしてる!」
「経験点がめちゃくちゃ入ってくる! 嬉しい! 楽しい!」
中華ギャングとヤクザの数がどんどん増える。
遊とスノンだけのはずの行軍なのに、無数のペットボトルロケットと巨大な山車と踊り手たち、中華ギャングにヤクザの大群。
その数は、敵対する怪物たちに匹敵し始めている。
「なんだーっ!? どこからこんな数が攻めてきてるんだーっ!?」「入口をくぐった時は一人だったはず!! でかい車がついてきたけど!」「ええい、こいつをこれ以上行かせるわけにはいかん!! 止めろ! なんとしても止めろーっ!!」
「ここで、青竜刀と拳銃が融合! 進化ーっ! 何と進化武器三つだよ三つ! やったねえ……」
「えっ!? 遊、二丁拳銃の男一人になっちまったぞ。大丈夫かこれ!?」
「これが青竜刀と拳銃の合体武器、ガン=カタだよ! 頼むぞガン=カタ!!」
真っ白なコートを纏った男が、遊の呼びかけに応えて頷く。
そして飛翔した。
ペットボトルロケットと山車がこじ開けた、大群の風穴。
そこにガン=カタが突っ込み、二丁拳銃による銃撃と拳銃を打撃武器とした近接戦闘、そして体術と拳銃を盾とした防御を駆使しながら次々に敵を打ち倒す。
さらに、敵の放つ弾はガン=カタが弾く、撃ち落とす。
「な、なんだこれウグワーッ!!」「我らは魔王様をお守りする最後の壁なのにウグワーッ!!」「ダメだ止まらないウグワーッ!!」
もはや、遊を止められるものなどいなかった。
猫探偵はただひたすらに歩き、ついに二つの塔に挟まれた球体へとたどり着いた。
同時に、「チェイサーッ!!」「ウグワーッ!!」
巨大な黄金の悪魔を蹴り飛ばしながら、コンボの達人がその場にエントリーする。
揃った二人の前で、球体がゴゴゴゴゴ、と震えだした。
『やれやれ……じきに支配が終わろうというのに……。なんというタイミングでやってくるのだ』
球体から、手足が生えてくる。
そう。
魔王城の上に浮かんでいたこの球体こそ、魔王フルツパラーそのものだったのだ。
灰色の太い両足、鋭い鉤爪を生やした四本の腕。
そして球体の中ほどがガバっと開き、牙をむき出した。
巨大な口だ。
三つの目が見開かれる。
『我は魔王フルツパラー。我の司る力は多様性……! 多様な数の力で、貴様らを押し潰してやろう! 我がお気に入りの限られた多様性でな……!』
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