第66話 正門を突破せよ
「ここからがファイナルステージなんだけど、流石の難易度になっていてね」
「ほうほう」
「裏口の方が楽なルートなんだけど、僕らが正門で敵を引き付ければさらに楽になることと思う」
「うむうむ、いいことだ。そうすれば魔王のところにたどり着くのは……」
「うん、僕らが先だ」
「なんでだよー!!」
遊と達人がいい顔で頷き合っているところに、スノンがツッコミを入れた。
「こっちで敵を引き付けるんだろ? ってことはたくさんの敵が自分たちを止めるためにやってくるってことだろ? なのになんで自分たちの方が魔王のところに先にたどり着くんだよー!」
そこまで言われても、遊はきょとんとしている。
「いや、だってさ。たくさん敵が出てくるってことはたくさん経験点を得られてパワーアップできるってことだろ? そうしたらどんどん先に進めるじゃないか」
「おかしいおかしいおかしい。敵が多かったら進みにくいはず……」
「達人は経験点が必要ないから、総取りだよ? どう考えても勝つ流れしか見えない。まあ僕を信じてついてきてくれスノン」
「くそーっ、今までの実績から信頼するしかねえ」
「俺はどうする? 何かやってほしいことはあるか?」
「強そうなのが出てきたら自由に戦って」
「心得た!」
ニヤリと笑う達人なのだった。
彼の一番好ましいと感じる言葉だったらしい。
こうして戦闘がスタートする。
都庁……魔王城の正門前に立った時点で、次々に迎撃のため怪物たちが集まってきていたのだ。
数えることすらばからしくなるほどの大群。
それが、遊と達人を待ち構えている。
二人と一匹は、全くなんの対策も講じることなく、その只中へと歩みを進めた。
「先に行くぞ。セイヤァァァァァァァーッ!」
達人が飛翔した。
怪物たちの見た目は、いわゆる守衛をさらに重装甲化したもの。
現代風の騎士にも見える。
その一体に、達人の飛び蹴りが炸裂……いや、守衛は盾でそれを受け止めている!
「我々は魔王軍の守り! 今までの連中と一緒にしてもらっては……」
「ほあたっ! あちゃーっ!!」
ガードされてから空中に跳ね上がった達人が、再び全く同じ盾に向けて中キックを放った。
「なにぃーっ!」
盾が跳ね上がる。
その下にある本体に、大キックが炸裂。
「ウグワーッ!!」
守衛が吹っ飛んだ。
達人は着地ざま、周囲の盾狙いで連撃を繰り出し始める。
「うおわたっ! わたっ! わたたたたたたたたたたたたたほわあーっ!!」
パンチパンチパンチパンチパンチエルボーエルボーエルボー裏拳。
一撃ごとに新たな守衛を巻き込み、コンボを決められて宙に浮く怪物の数がどんどん増えていく。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「馬鹿なこいつ!」「盾を狙うことで、守られても攻撃が成功した判定にしているーっ!?」「ウグワーッ!」
最後の裏拳で、まとめて数十体が吹っ飛んだ。
圧倒的。
無数の敵の一角を崩したに過ぎないが、これは達人が一呼吸の間に行った飛び蹴りからの連携でしか無い。
さらに、そこを目掛けて悠然と歩いてくる遊の姿がある。
ペットボトルロケットが遊の背後を埋め尽くさんと出現する。
さらに……傍らに巨大な山車。
「な、なんだこりゃーっ!!」
叫んだのはスノンだ。
その驚きをきっかけとして、ペットボトルロケットの一斉射撃が開始された。
「な、なんだこいつは!」「こんなもん盾で止め……ウグワーッ!!」「ウグワーッ!! 手数が! 手数が多すぎるーっ!!」「全面全てが敵襲! たった一人なのに、攻撃の数は我々よりも多い……!!」
「まだまだ。ここからが山車の出番だぞ」
山車が走り始めた。
その周囲に踊る人々が現れ、山車の上には太鼓を叩く男の姿。
お祭りである!
浴衣で踊る人々が、山車を引っ張る人々が、太鼓を叩く男が、山車本体が!
守衛の群れがまるで無いかのように、ずんずんと突き進む。
何人もこれを止められない。
「ウグワーッ!!」「なんだこれウグワーッ!!」「邪魔すぎるウグワーッ!?」「触っただけでやられるウグワーッ!!」
とても大きく、ゆっくりと進むだけに、これは怪物たちにとってとんでもない障害として立ち塞がるのだった。
「設置型武器の最高峰、山車! 完成させてしまったなあ」
しみじみと呟く遊なのだった。
遠ざかればペットボトルロケットが敵の群れを叩き潰す。
中間地点は、練り歩く山車が縦横無尽に蹂躙する。
近づいたと思うと……。
「極まってるんだよね、炎の矢!」
通過した場所に炎の道が残る。
炎の矢は敵を貫き、炎の道で敵の動きを阻害し……そんなものが何本も同時に放たれる。
そんな猛攻をかいくぐって近寄れば……。
「やっと! やっとだ! だがこの距離ならば……」
守衛の怪物は、そこで白猫と目が合った。
スノンだ。
そこは既に、彼の攻撃範囲内。
空間を引き裂くようなひっかきが発生した。
一撃二撃三撃。
最大まで強化された威力が連続だ。
「た、盾が役に立たウグワーッ!!」
盾ごと守衛を粉砕する攻撃が三発。
これが、接近する全ての相手に加えられるのだ。
誰も、遊に触れることができなくなっている。
「よーし、じゃあ正面突破だ」
遊はただ一人にて大群を圧倒しながら、堂々と正門より入庁したのだった。
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