第65話 魔王は西新宿に
「おーい、おーい」
市ヶ谷解放が終わり、その場でカレーなどを作ってみんなで食べていると。
達人が神楽坂方面からドタバタ走ってやって来た。
そしてカレーを食べるみんなを見て、とても羨ましそうな顔をした。
「ダーリンの分もあるからね! これ美味しいわね!」
「ほんとか!? 食べるー!」
こうしてコンボの達人も合流した。
彼はもりもりとカレーを食べる。
「こんなこともあろうかと、災害時の炊飯セットを持ってきていて正解でしたね。新宿の救世主たちに、こうして食事を振る舞うことができた」
普段、災害時の派遣では作った料理を食べない隊員たちだが、今回は遊たちと一緒に食事をしているのだ。
英気を養うには、暖かく美味しいものを食べるのが一番である。
ここにいる者たちは皆、新宿解放のために戦う仲間なのだ。
「私、この味を覚えました! 今度家で再現します」
「えっ!? セシリア、料理覚えたてなのに大丈夫!?」
「レシピを伺いましたから。私、こう見えて技術者ですよ? レシピがあれば再現性のあるものならたいてい作ることができます!」
「おおーっ、心強い……!」
「自分は熱いのは苦手だからな……。冷やしカレーとかできる? あるの?」
食事が終わり、しばしの談笑。
ここで、隊長が気付く。
「我々が新宿に侵入してからかなりの時間が経過していると思うのだが……。空の様子がその時から変化していない。というか……ずっと太陽が存在していないのか」
「新宿アポカリプスは曇り空の世界ですからね。一応、半分を攻略すると夜の世界に突入するんですけど、今回はプレイヤー数が多くて一気に攻略したから、曇り空のままラスボス戦ですよ」
「詳しいですね……。なるほど、この世界は遊さんがプレイしたゲームに酷似していると」
「そうなります。ちょこちょこ、ゲームと違うところはありますけどね。ただ、攻略法は通じます。だから僕はやれているんですよ」
「生死が掛かった状況で、ゲームと同じ動きを完璧にできる人間は少ないですよ……!」
「いえいえ、ちょっと練習すればいけます。ほら、自衛隊の方でも同じ能力を得た方がいたじゃないですか」
話題の対象になった岬二尉が、慌てて手をぶんぶんと振った。
「いえいえ、私なんか……! 遊さんの鬼神のような強さと比べたらとても……」
他の自衛隊員たちも頷くのだった。
「まあ、遊と比べたらな。コンボの達人くらいじゃないか? 匹敵できるのは」
スノン、冷静にそんな事を呟きつつ……。
はるか西に、光の柱が出現したことに気付いた。
「おい、遊! 西の方がおかしいぞ!」
「ああ、ラスボスが動き出したんだと思う。都庁から魔王の城に変化するところだから……ちょうどいい時間じゃない?」
食休みも終わった頃合いだ。
皆、やる気は十分。
二台の輸送車に乗り込み、一行は西新宿を目指す。
「完全に新宿に戻ってる……。本当に解放されつつあるんだな……」
隊員の一人が呆然としながら呟く。
小さな視察窓から見える外の景色は、平時の新宿と変わらないものだ。
ただ一つ違うのは、誰一人として人間が歩いていないこと。
解放された新宿であっても、まだ人々が生活することができる場所ではないのである。
ほんとうの意味でこの街を取り戻すためには、大地から突き立つ光の柱……都庁舎を落とさねばならない。
輸送車は、靖国通りをひたすら進んでいく。
この道は西新宿に通じているのだ。
他に車の姿はない。
だが、あくまで輸送者は法定速度を守っていた。
緊急時とは言え、この辺りは色々むずかしいのである。
「そろそろです? 輸送車の中だと窓がほとんど無いから、分からなくて」
「ええ、すぐです。遊さん、準備を」
「了解です」
「遊、頑張って! 最終決戦ですからね! 早く終わって帰りましょう!」
「うん、頑張るよ!」
セシリアとハイタッチしたところで、輸送車が停まる。
降り立った遊が見たのは、紫色に光り輝く都庁だった。
ただでさえ巨大な、二本角を生やしたようなビル。
それが今はあちこちからトゲを生やし、二本のタワーはより長くそそり立ち、光り輝いている。
禍々しく、悪趣味な姿だ。
「現実で見るとこんなにどぎつい姿になってるんだなあ……!! ドン引きだ!」
嬉しそうな遊。
その横に、達人が並んだ。
「ああ、実に楽しみだな! 強大な敵が待ち受けている予感がするぞ! 俺より強いやつに会えるんだろうか」
「会えたらいいね」
「なんで他人事みたいなんだ遊!」
スノンがぺちっと突っ込んだ。
エリィと岬二尉も後に続く。
「ねえダーリン、どこから入るの?」
「都庁舎ならば正面から入れると思いますが……反撃が予想されます。迂回して裏から侵入を進言します」
「なるほど」
岬二尉の現実的な意見に頷く遊。
「じゃあ、僕が正面から行って、みんなは裏から……」
「俺も正面から行こう」
達人、やる気満々である。
「えーっ! ダーリンと遊が表だったら、あたしたちが裏!? それって大変じゃない?」
「同感です。我々の攻撃力はお二人よりも低いです」
抗議の声が上がった。
ここで遊、二人のアイテム構成を詳しく聞くことにする。
「エリィさんがオーラキャノンと電動キックボード? 岬さんがライフルとロケットランチャーかあ。どちらも距離を取って多くの敵を倒せるから、二人は少しずつ進みながら経験点を集めて、レベルアップを目指すといいよ。ええと、ちょっと待ってて」
猫探偵のコートには、何冊もメモ帳が仕込まれている。
探偵という職業柄だろう。
遊はその一冊に、サラサラとアイテムの特徴とおすすめ度を書き込んだ。
「今回取得すべきなのはこの四つのアイテム。これを積極的に取ってね」
「ありがとー! ……読めない」
「エリィさん外国の方ですもんね。私が読みます。なるほど……これは分かりやすいです。あくまで遠距離で戦える武器なんですね。このお神輿と空き缶というのは……?」
「見た目は悪いけど強いから。見た目はよくないけど……!!」
「どうでもいいことを強調するやつだなあ!」
スノンが呆れているのだった。
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