第62話 達人・ビーム・自衛隊
一方、達人は……。
神楽坂にやって来ていた。
ひたすらに坂道になった一本道を進み続けるステージである。
そのように、この地域自体が作り変えられている。
「ほう、この地区の敵は阿波踊りか……。こういう踊る連中は強いんだ。俺は勘で分かる」
阿波踊りが通りを覆い尽くすほど大量に出現し、迫ってくる。
達人は不敵に笑いながら身構え……。
「撃ってしまえばいいのではありませんか?」
岬二尉がロケットランチャーをぶっ放した。
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
吹っ飛ぶ阿波おどり軍団!
「あーっ、な、なんということをー!」
達人が悲しそうな叫びをあげた。
「ダーリン、美学もいいけどきちんと攻略して行かなくちゃ! このままだと、あの遊って人にどんどん他の地区も攻略されちゃうよ?」
「それは困る!」
エリィにせっつかれて、慌てて戦いに入る達人なのだった。
「結構阿波踊りの中にもバリエーションあるね……着てる衣装が微妙に違うし」
エリィは観察しながら戦いを進めていく。
衣装によって、相手の動きにも違いがあるのだ。
小学生であったり、病院であったり、商店街の有志であったり……。
「……と思ったらなんか武器がパワーアップした! 電動キックボードが最大レベル? っていうのになったみたい」
四台の電動キックボードが疾走する。
そして阿波おどり軍団に突撃して乗員ごと爆発した。
「わお! 威力に効果範囲が増えてる!」
「ウグワーッ」
「あっ、ダーリンが巻き込まれてるし!」
「達人さん、接近戦専門ですからね」
岬二尉は淡々と続け、まあ死なんやろの精神で強化されたロケットランチャーとパンツァーファウストを撃ち込む。
「ウグワーッ」
また達人が吹っ飛んだ。
だが、達人もただでは起きない。
ふっとばされた空中から、飛び蹴りの姿勢になって急角度で降りていく。
きっと降りた先で大暴れすることだろう。
暴れるのは彼に任せ、岬二尉はエリィと背中合わせで迫りくる怪物たちを迎え撃つ。
岬二尉が主に入手するアイテムは、銃火器系のようだ。
ロケットランチャーはパンツァーファウストの同時攻撃に進化し、さらに爆発力が増していく。
対してエリィはオーラキャノンと電動キックボードの他に、ドローンを獲得。
頭上を飛び回るドローンが、搭載している爆発物を落としていく。
この二人で、小さな軍隊のような攻撃力である。
背後では自衛隊員たちも、牽制のための射撃を行っている。
威力を発揮しなくても、雑魚の気を散らすことはできるのだ。
遊とは違い、チームの力、集団の力で敵を神楽坂の奥へと押し返していく……!
このまま行けるか!?
そう思った時だった。
坂を上がっていっていた先に、進路がぐるりと入れ替わる。
さっきまで見上げていた場所に、彼らは立っていた。
「なに!? えっ!? どういうこと!?」
慌てるエリィに、岬二尉が説明をした。
「これは恐らく、神楽坂の交通ルールがこの地区の法則になったものだと思います。午前中は坂の上から下への一方通行。午後は坂の下から上への一方通行になるんです。私達は最初に、午後のゾーンからスタート。そしてある程度進んだところで、午前のゾーンに入り込んだものと思われます」
「ひええ、ややこしいんだね! じゃあダーリンは……?」
「ほあたあー!!」
「楽しんでるみたい」
「あの人は上とか下とか何も関係なさそうですからね……」
人数が増え、手数も増え、攻略は難しくなくなってきている。
敵の数を二人で分散しているから、手に入る経験点はそこまで多くはないが……。
足りない攻撃力は、達人が補ってくれる。
バランスの良いチームだった。
ついに、坂下に向かう進軍の先にボスが出現する。
神楽坂駅が見える神楽坂下に、それは立っていた。
毘沙門天を悪意的にイメージして作り上げたからくり人形。
それが武器を振り回しつつ、道を塞いでいるのだ。
『この先に行かせるわけにはいかん! 市ヶ谷にはフルツパラー様の結界の発生源そのものがあるのだからな!』
「なんですって! つまり、あたしたちが求めるものはその、イチガヤ? っていうところにあるのね!」
「市ヶ谷なら我々が詳しいです。絶対にここを突破し、向かいましょう!」
エリィと岬二尉の二人が、毘沙門天に向かい合う。
後ろでは達人が、楽しげに押し寄せる巨大阿波おどりをなぎ倒している。
彼は戦えさえすればいいのだが、逆に言えば戦うこと以外何もしないので、上手く誘導しないとああやって他所でドタバタやり始めるのだ。
「今回はダーリンの誘導失敗したなあ! あたしたちでやるしかない! 行こう!」
「ええ! 後退しながら射撃! 砲撃!」
「いけーっ、電動キックボード軍団!」
『ぬううおおお! 飛び道具ばかりとは卑怯なりぃぃ!!』
二人とも、遠距離タイプだっただけである。
次々に攻撃を仕掛けるが、やはり二人だけでは決め手に欠ける。
毘沙門天が槍を伸ばして攻撃してくると、攻めの手を止めて回避に専念しなくてはならない。
「ちょっと厳しいかも……!! 岬! ダーリンのところに誘導するよ!」
「くっ……民間人を頼りにするのは心苦しいのですが……」
背に腹は代えられない。
二人は牽制程度の攻撃にとどめつつ、回避に専念。
毘沙門天を達人まで連れて行くことにする。
「二尉! 神楽坂の坂上が断崖絶壁に!」
「なんですって!? つまりこれは……毘沙門天に詰め寄られ切ったら負ける……!!」
この地区は、時間制限付きのボス戦闘だったようである。
二人だけだったら危ないところだった。
新宿アポカリプスの世界は、ルールに則って戦うならば一切の甘えを許さない。
だが、今回は理外の存在である達人がいる。
「ダーリン! 強いボス連れてきたから!」
「なんだと!! 今行くぞ! アチャアーッ!!」
阿波踊りを蹴散らしながら飛翔する達人。
『ぬおおーっ!』
これを剣を交差して受け止める毘沙門天。
だが、空中で達人が小キックからの中キック、中キック、大キックの連続攻撃を決める。
これで毘沙門天が弾かれ、坂下まで押し返されていった。
「ここは任せろ!! 先に行け!! ……一度言ってみたかったんだ」
達人がちょっと嬉しそうにしながら、毘沙門天と戦い始める。
「うん、任せたよダーリン! 岬、案内して!」
「はい! 市ヶ谷へ! 恐らくそこで……お二人の協力者だという方と合流できると思います!」
二人は自衛隊とともに、市ヶ谷へ向かう。
そこには、四谷をクリアした遊も向かっているところだった。
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