第61話 空き缶とロケット花火、進化!
「そう言えば遊、ロケット花火使ってなかったみたいだけどさ」
「ああ、あれはね。空き缶を最大成長させるために経験点を割り振ったから、目立たなかったんだと思う。四谷ではロケット花火を集中的にやって、それで進化を狙うよ」
「進化かあ……。空き缶とロケット花火を最大まで成長させたら、どういう形に進化するっていうんだ」
スノンは首を傾げているのだった。
そんな彼を、パタパタ走ってきたセシリアが抱き上げる。
「遊、お帰りなさい! 今度は四谷ですよね? ここから市ヶ谷までを解放したら、神楽坂でコンボの達人さんと合流できるはずです。そうしたら残りは、北、東、西新宿だけですよ!」
「おおーっ、もうすぐだ! セシリア、マッピングしてくれたんだね。ありがとう」
「本当は私も一緒に戦いたいんですけど~」
「自分の肉球をくりくりしながらもじもじするのはやめて欲しいなあ」
こうして一行は四谷へ。
この地の怪物たちは、なんとお祭りルックだった。
「四谷近辺と言えば、新宿の下町。歴史のある土地だから、そこに根ざしたイメージが怪物化したというわけか……」
隊長が苦虫を噛み潰した顔で呟く。
説明が大変わかりやすい。
遊とセシリアとスノンが、「ほー」と感心してこれを聞いているのだった。
「話を聞いている姿を見ていると、本当にこの人たちに任せて大丈夫なのか心配になるな……」「だけど信濃町の戦いを見ていたら、彼らが本物のエキスパートであることは分かるからな」「くっ、我々もせめて支援がしたい……!」
自衛隊の装備では、怪物たちに痛打を与えることができない。
これは武器の強さ弱さの話ではない。
新宿のルールの上にあるかないか。それだけだ。
遊は新宿アポカリプスのルールに乗ったうえで、それを完全に行使しきって強さを発揮している。
コンボの達人はルールの上にいないのに、自分のルールを押し付ける形で強さを発揮する。
現実の延長線上にある軍隊では、この新宿において力を発揮できないのである。
さて、新宿通りにお祭りルックの怪物が溢れ出してきた。
誰も彼もがお面をつけていて、顔が見えない。
実際は顔など存在しないのだ。
面の下は虚無。
遊はその只中に降り立った。
お祭りにはお神輿である。
遊が呼び出したお神輿が、お祭り軍団と激突する。
空き缶が撒き散らされ、ロケット花火が飛び回る。
「明らかにこっちのほうが治安悪くない?」
スノンがぼそっと呟いた。
「そうかも知れない」
遊が同意する眼の前で、空き缶雪崩に「ウグワーッ!?」とお祭り軍団が流されていく。
集まってくる経験点で、遊は楽しげにアイテムラインナップを選んでいる。
戦闘の度に、ラインナップにあるアイテムをリロールできる回数がリセットされるのだ。
「予告通り、ロケット花火!」
ロケット花火の弾数が増え、さらには規模が大きくなる。
打ち上げ花火に近づいたのだ。
「なるほど、現実として見てみると、これはかなりド派手だなあ……!!」
ロケット花火は上に向かって発動する関係上、横から襲ってくる相手には当たりづらい。
これが効果的にヒットするのは……。
「ウグワーッ!!」
「あっ! 空を美味しそうな匂いの魚みたいなやつが泳いでると思ったら撃ち落とされた!」
「たい焼きの怪物だね。なんでだろう……」
四谷にはたいやき屋の名店があるのである。
東京たい焼き御三家に数えられている。
これになぞらえた怪物のようだ。
空を泳ぐたい焼きの怪物が次々に襲いかかるのだが、ここにロケット花火がバッチリマッチした。
空の怪物を次々撃ち落とす。
そして経験点がバラバラ降ってくる。
たちまち、ロケット花火を極めるだけの経験点が溜まり……。
「来た! ロケット花火(極み)!!」
打ち上がったロケット花火が、上空で大輪の花を咲かせた。
そこに巻き込まれたたい焼きたちが、「ウグワーッ」と落ちてくる。
「すげえ! 規模が今までの何倍もある! たくさんの敵を巻き込めるぞこれは!」
「しかも弾数は今まで増やしたロケット花火のままなんだ。空はもらった」
勝利は確定か!?
と思われたその時である。
この地域のボスが出現した。
これは、言うなれば闇落ちしたお神輿とでも言うのだろうか。
巨人たちが担ぐ、超巨大お神輿。
ロケット花火や空き缶が飛び交う中を、ずんずん歩いてくる。
「これはかなりタフネスが高い! 現状の武器を散発的にやってても、効果は薄いね」
「マジか!? これだけ鍛えてもなお通用しないの!?」
闇落ちお神輿が、「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」と近づいてくる。
空き缶もロケット花火もお神輿も、闇落ちお神輿の動きを止めるには至らない。
「ここからは、進化した武器が必須になるわけだ。そして今、条件は満たされた!」
経験点を手に入れていないというのに、遊の眼の前にはアイテムピックアップが出現する。
そこにはただ一つだけのアイテム表示がある。
空き缶(極み)+ロケット花火(極み)=……。
「誕生……! ペットボトルロケット!!」
「ペットボトルロケット!? えっ!? なんかめちゃくちゃ小さくなってない!?」
「ふふふふふ! 見た目じゃペットボトルロケットの強さは分からないけどね」
遊が歩き出した。
無造作に、闇落ちお神輿に向かっていくようにすら見える。
「お、おい遊! 危ない! 踏み潰されるぞ!」
「大丈夫! ペットボトルロケット!」
遊の周囲、そして背後に、無数の光の渦が出現する。
その高さは東京タワーにも届くほどだ。
そして渦からゆっくりと顔を出すのは……ペットボトルだ。
中では炭酸水らしき液体が爆発寸前に泡立っており、なるほど、この爆発がロケット花火成分なのであろう。
「えっ!? 多い!?」
「そういうこと! そしてこの全てが!」
発射されるペットボトルロケット。
それは炎の矢に匹敵する速度で敵を目掛けて突き進み、炸裂すると同時に……打ち上げ花火の爆発を引き起こす。
中身は炭酸水のはずなのに爆発するのだ!
「ウグワーッ!!」
闇落ちお神輿の全身で、ペットボトルロケットの炸裂と、爆発、二段構えの攻撃が炸裂した。
しかもこの攻撃はとにかく手数が多い。
空き缶とロケット花火という、手数武器の融合した姿なのだ。
手数と爆発による範囲攻撃を同時に実現した進化武器……。
それが、ペットボトルロケットなのである!
「これ一つあれば、魔王まで行けるぞ!」
倒れ行く闇落ちお神輿をバックに、遊は不敵に笑うのだった。
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