第59話 これは素敵な移動拠点
一方。
自衛隊と合流した遊とセシリアとスノン。
彼らは、自衛隊からの申し出で兵員輸送車を拠点として使わせてもらえることになった。
「どうやら異常事態のようです。あなたがた民間のエキスパートの力をお借りしたい。我々も、謎のパワーを持つ救世主とか、無双する主人公みたいなものへの理解は深いので」
「あっ、これはどうもどうも」
ペコペコする遊だった。
どうやら、責任者である隊長さんはオタク趣味をお持ちのようだ。
話が早くて助かる。
隊長氏自らがハンドルを取り、道を走ってくれるのである。
「敵が現れたらお願いします。情けないことながら、我々では奴らに対し決定力がありません」
この時点で隊長は、別働隊の岬二尉が救世主としての力に目覚め、怪物たちへの攻撃能力を持ったという情報を得ている。
だが、まだ完全に味方とは限らない遊たちには黙っているのである。
そして遊はそういう話に全く興味がない。
次なる怪物たちの巣窟まで運んでくれるのが、ありがたくて仕方ないのだ。
「ありがたいなあ……。レンタルサイクルでも、遠い距離を戻るのは色々大変だったんだ。ここが拠点になればいつでも強化作業ができる」
「そうですねえ。私も遊が近くで戦っているのは嬉しいです! 私も戦っている気分になりますし。あ、そう言えば」
セシリアが何も無い空間を叩いた。
そこに、操作画面らしきものが出現する。
「ウワーッ」
同乗していた隊員が驚いた。
「ステータスオープンだ!」「本当にできるんだ……」「アニメみたいな光景だな」
みんなやたらと理解が深い。
「私よりも詳しそうですけど……遊、自分で出しておいてなんなのですが、これはなんですか?」
「これはね、僕が戦いながらゲットしたコインを使って、機能を解放するための画面なんだ。かなり溜まったよー。おかげでリロールやBAN、基礎能力の向上を獲得できる」
操作画面を触るため、セシリアに密着して座る遊なのだ。
「きゃっ」
セシリアがちょっと嬉しそうにし、男性隊員たちがなんとも言えぬ表情になった。
目の毒である。
しかも遊はどう見ても、鈍感系主人公だ。
そういうキャラの解像度が高い隊員たちは、ぐぎぎと歯噛みするしかない。
「攻撃力を上げていってもいいんだけど、移動速度も大事、クールタイム短縮はマスト。回収範囲も広げたいし……そしてなんとこれを取るとHPが1増える……! 一発当たっても大丈夫になるんだ。取る必要ないってことだね」
遊がぶつぶつ説明しながら、パネルを操作していく。
「ということで、特に面白みのない強化をしたよ」
「おい遊、この敵の登場数アップにチェックが入ってるのはどういう冗談だ」
「経験点がたくさん稼げるだろ?」
「悪い冗談すぎる……!」
遊は実に嬉しそうだった!
ちょうどパネル操作が終わったところで、外を並走していた隊員たちが警戒の声をあげる。
「敵襲!」「多い!」「警戒!」
隊長がそれを確認して、唸った。
「なんて数だ……!! 今までで最大数の敵だ!」
「遊~!!」
スノンが目を見開いて、遊の足を猫パンチしまくった。
「ハハハ、痛い痛い。じゃあセシリア、行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい!」
一切の迷いも逡巡もなく立ち上がり、輸送車を降りる遊。
その姿を、隊員たちは畏敬を持って見送る。
果たして、雲霞のように群がる怪物の群れ。
彼らは皆、顔に布を貼り付けた真っ白なローブ姿。
手にはナタであったり、ショットガンであったりを装備している。
「ファナティックだ。あいつら、数が多いと迫力があるなあ! 楽しくなってきた!」
戦闘態勢に入る遊。
一人、大群に向かって歩いていく。
その移動速度が増していた。
接近すると同時に、炎の矢が連続して放たれた。
敵は圧倒的多数。
……ということは、貫通効果を持つ炎の矢は何体ものファナティックを攻撃できるということになる。
遊に言わせれば、実に効率がいい……というやつだ。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!!」「うおおお魔王様のために!」「絶対にここから先にいかせるなーっ!!」「あいつら魔王様の方角から来た気がするけど気にするなー!!」「逆方向に向かってる気がするけど逃さーん!!」「いつもより明らかに我々の数が増えてる気がするけどそんなことより突貫だ!!」「大いなる勝利のために!」「圧倒的大勝利!」
わあわあ叫びながら、ファナティックが迫ってくる。
彼らは倒されることを恐れない。
自らの命を顧みず、襲いかかってくるのである。
「だからこのステージ、稼ぎどころなんだよ!」
ニコニコしながら、遊はどんどん接近していく。
お互いが近寄ろうとしているのだから、あっという間に肉薄するほどの距離になった。
「自分は知らん。もう知らん! こんなんヤバいだろ。洒落にならないだろ!」
「そう、洒落にならないくらい経験点が稼げるんだ!」
ドジャーっと空き缶がぶちまけられる。
その一角のファナティックが「ウグワーッ」と消滅し、また後方から来たファナティックが補充される。
その頃には、得た経験点をホクホク顔で消費してレベルアップしている遊。
「そろそろ新しい武器をゲットしようかな。お神輿を獲得!」
「おみこし!?」
「お神輿と、それを担ぐ人たちが一定時間ごとに出現するんだ。そしてお神輿に当たった敵はやられる」
「なるほど分からん!」
「言葉よりも行動! いでよお神輿!」
遊の言葉とともに、ファナティックたちの只中に現れる神輿。
担ぎ手たちが「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」と掛け声も勇ましく、ファナティックの海を練り歩く。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!!」
圧倒的な数を誇るファナティック。
だが、そんな彼らが全く、遊に触れることができないでいる。
さらにこの最中、遊は神輿をレベルアップさせている。
徐々に神輿が大きくなり、ファナティックの邪魔をするようになるのである。
「邪魔すぎるー!!」「触れると跳ね飛ばされる!」「なんだこれはーっ!!」
ファナティックの行動が制限されている間に、遊の方では溜め攻撃の準備が終わっている。
「そろそろボスが出てくる時間だからね。一気に経験点に変えさせてもらう!」
遊が溜め攻撃を指示すると、スノンの姿が数百匹になった。
「また自分が増えたー!! ええい、ままよ! もうヤケクソだ!」
街の一帯が、猫のひっかきに覆われた。
どこをひっかいても、ファナティックに当たる。
数は、ファナティックたちに味方したのではなかった。
遊が喜んだだけだった。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
「経験点~!!」
その姿を、隊員たちがドン引きしながら見つめているのだった。
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