第57話 自衛隊、魔都新宿に突入す
「自衛隊が来たので迎えに行こう。このままだと一人しか生き残らないので」
遊がとんでもないことを言ったのだが、これにツッコミを入れられる者がこの場にいない。
異世界から来たセシリアとスノンしかいないからだ。
ということで。
二人と一匹で自衛隊を見に行くことにした。
「ついに私も外に出られるのですね! 遊の戦力になって戦いますよー!」
「いや、通るルートは僕らが解放して安全になったところだけだから。セシリアには指一本触れさせないよ」
「うっ、複雑ながらとても嬉しいことを言われていて、どういう顔をしたらいいか分からないです……!!」
遊としては、プレイヤーキャラクターとやらに選ばれる一人以外には撤退を進言するつもりらしい。
スノンは抱いていた疑問を口にした。
「でもよ、遊。頭数が増えたら弾避けが増えないか? 自分らが困ることはないんじゃないの?」
「一応僕もねー、人死はなるべくない方がいいからねえ」
「えっ!?」
「えっ!?」
セシリアとスノンで大変驚くのだった。
「なんで驚いているの!」
「いや、だって遊、容赦無しで敵を残らす屠っていく最強の救世主が遊じゃないですか。敵対したものは誰であろうと生かして返さないのかと……」
「敵じゃないなら不殺ということで……」
「都合がいいなあ」
だが、こんな甘い男がネビュラゴールドを完膚なきまでに叩き潰し、ドラコニアを救ったのだ。
「最強の男には少しくらい弱点があってもいいのかもなあ」
さっきテレビで見ていたコンボの達人は確かに強かった。
相手の攻撃を相殺できる技があるならば、正面から攻めることもできるだろう。
だが、遊にそんなものはない。
彼の防御とは、避けることだ。
当たれば終わり。
そんな状況で、この男はすべての攻撃を避け、自分の攻撃を一方的に当て、あらゆる敵を蹂躙してきた。
コンボの達人に比べれば地味だが、一切の決定技がないというのに敵に何もさせずに勝ち続けるということは、どれだけ凄まじいのか?
スノンには見当もつかない。
「まあ、遊が言うならそれでいいかあ」
「スノンったら、私よりも遊のことが分かったみたいに!」
セシリアに嫉妬のもふもふをされてしまった。
「うーわー」
移動はのんびり徒歩。
大久保から落合までは、直線距離にして1キロ以上あるのだが……。
今回は向こうから近づいてきてくれた。
具体的には……。
「撤退! 撤退! 牽制しながら後退!」
百人町にて、自衛隊は早速大苦戦していた。
敵は魔王に力を与えられた怪物たち。
そもそも、物理法則が異なる連中である。
銃弾があまり効果を発揮しない。
コンボの達人のような、ルールを破る無法な能力者でもなければ、ルールに入り込んで戦うしかないのだ。
百人町に出現したのは、直立する黒い虎のような怪物だ。
これはグエムル配下として戦った事がある相手だ。
銃を使い、この世界のルール外でやりあうなら……。
風のように突っ走る黒い虎。
狙いをつけることすらままならぬ、圧倒的な速度と機動性。
防弾装備を切り裂く、鋭い爪と牙。
弾が当たったとしても、数十発の連射を加えねば倒せない。
化け物だ。
正しく化け物。
「みなさーん! プレイヤーじゃない方は危険なので逃げて下さい!」
遊が声を張り上げた。
猫探偵の肉体を借りているおかげで、いつものカスカスな声ではなく、よく通る美声だ。
「一般人です!」「君も避難しろ!」
「僕はこの世界のルールの中にいるので大丈夫です。おっ、戦闘モードに入ったな。セシリア、自衛隊の皆さんと一緒にちょっと下がってて」
「はーい。皆さん、ここで見てましょう」
「だ、だが、あの怪物相手にたった一人で……」
猫探偵の無双が始まる。
風のように襲いかかる黒い虎を、全て紙一重で回避しながら、カウンターのひっかきを当てていく。
十分に強化されたひっかきは、タフな黒い虎を一撃で粉砕する。
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
さらに、かなり強化された空き缶がスポーンと飛んでいき、回り込もうとしていた黒い虎の頭に炸裂した。
「ウグワーッ!? なんのこれしき……」
一瞬怯んだところに、ゴミ箱をぶちまけたような空き缶が猛烈な速度で叩き込まれる。
頭上から飛びかかろうとすると、ロケット花火が打ち上がって直撃する。
「ウグワワワワワワワーッ!!」「ウグワアアアアアッ!!」
これには堪らず、消滅する黒い虎。
「空き缶レベルアップするとあんなのになるのな……。ロケット花火も末恐ろしい」
「しかも放たれた空き缶は残らないというエコ仕様だよ。だが……とてもカッコ悪いので僕はあまり使いたくないんだ」
それでも大活躍する空き缶。
近寄ろうとする敵を全く寄せ付けない。
ランダムに敵がいる方向にぶっ放される性質が、遊の死角を完全に補っていた。
まあ、この遊という男は死角であろうが、見えているかのようにそこからの攻撃を回避するのだが。
「な、なんだあれは……!?」「怪物が一匹もこちらに抜けてこない……!」「残らずに退治されていく……!」
「ええ。あれが、この世界のルールに乗って戦うということなのです。ルールの外から殴れるのは、特別な存在だけ。そして相手のルールに乗ったうえで勝ち続けるのは、さらに特別な存在だからです」
一定時間が経過して、出現する百人町のボス。
それはグエムルの色違いのような相手だった。
だが、両手に拳銃を持っている。
「俺は! グエムルとは違うぜえーっ!!」
拳銃をぶっ放す色違い!
そしてやっぱり遊には当たらない。
銃から弾が出た瞬間に、その軌道上にはいないのだ。
「向けられた瞬間に、注意マークが出るでしょ。それに合わせて動けば絶対当たらないからね」
乱射されているように見える銃弾は、一発も遊には当たらない。
そして遊がでたらめに放りだしているような空き缶は、的確にグエムルにヒット。
「ウグワーッ!? なんじゃこりゃーっ!!」
炎の矢が追撃を掛けて、近寄ったかと思ったら猫のひっかきが炸裂し……。
「そ、そんな馬鹿なー!! ウグワーッ!!」
色違いグエムルは消滅してしまったのだった。
唖然とする自衛隊員たち。
彼らの隊長が歩み出てきて、
「詳しい話を聞かせてもらっていいだろうか」
そういうことになったのだった。
一方……。
彼らとは別働隊として動いた隊員の中に、覚醒を果たした者がいた。
彼……いや彼女は、コンボの達人とともに高田馬場に挑むことになる。
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