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ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~  作者: あけちともあき
新宿アポカリプス

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第55話 砕け、超巨大温室ロボ

「うん、よく見てみたら、これは原作にないぞ」


「前知識ゼロってこと!? まずいじゃん!!」


 攻撃を行う至近距離まで向かい、ポツリと洒落にならないことを呟く遊なのだった。

 スノンが真っ青になる。

 もともと白いから、文字通り青白くなった。


「つまり燃えてくるってことだよね。嬉しいなあ」


「嬉しくなーい!?」


『グオゴゴゴーッ!!』


 建造物が軋む音を鳴き声のようにあげながら、動く巨大温室が襲いかかってくる。

 見た目は、長い前足を持つゴリラのような怪物だ。

 全身がガラス張りで、内側から怪しい光を放っている。


 常に曇り空の新宿アポカリプスでも、自ら光るなら目立つのである。


「どーれ」


「危ない! 危ない! 近い近い近い!」


「スノン、相手が大きいから遠近法で近く見えてるだけで、実は猫ひっかきの射程外なんだよ」


「なんで遊は冷静なんだよ!?」


「僕は現実をドット単位の間合いで見る力がある。二つの世界を救って気付いたよ。ゲームをやりすぎて身についた現実改変能力だ」


「なんて使い所が限定的な力なんだ! しかも見えるだけなのか!」


「そう。だから微妙な間合いコントロールは僕の技量次第……ここ」


 ぴったり立ち止まったところで、ひっかきが発動した。

 動く温室……仮に温室ロボと名付けよう……の壁面にひっかき傷が生まれ、『ウグワーッ!!』と咆哮があがる。


「あっ、効いてる! 猫のひっかきが!」


「1ダメージでも与えられるなら倒せるってことなんだよ。これは勝てるぞ」


「前向きすぎる!」


 そこに、一瞬だけ巨大な影が差す。

 遊は無言でサッと横に移動した。

 次の瞬間、さっきまでいた場所に前足が振り下ろされてきて激しく地面を叩く。


「ひぃーっ!!」


「質量攻撃があるわけだね。それから……」


 温室ロボが『グオゴゴゴゴゴゴ!!』と吠えると、中から怪物化した植物が飛び出してくる。

 たちまち、周囲は植物によって埋め尽くされていく。


「落下地点の法則性……ランダムだけど、だからこそ明らかに落下が少ないところがある。そこまで移動してっと。攻撃!」


 十分に動き回れるスペースがある場所を確保。

 遊は歩き回りながら、炎の矢と空き缶を連射した。

 さらに近い怪物にはひっかき。


 植物モンスターたちには発声機能が無いので、無言のまま消滅、経験点に変わる。


「ありがたいなあ、レベルアップが」


「ほんとたくましいなあ……って、おいおい、また来たぞデカブツが!」


「了解了解」


 頭上に差した影を、遊はあろうことか懐に入り込むことで回避した。

 至近距離から、ひっかきをバリバリとぶつける。


 巨大な怪物の懐なら、範囲攻撃も連続攻撃のように使えるのだ。

 バリバリと温室の内側が音を立てた。


『ウグワーッ!!』


 地団駄を踏み、大暴れする温室ロボ。


「危ない! 危ない!」


「後足が短い割に間合いが広いね。前足はここなら脅威じゃないけど、暴れ始めたらちょっと離脱したほうがいいみたいだ。それに……」


 ここまで溜めていた経験点で、遊はレベルアップしている。


「不本意にも空き缶をマックスレベルまで上げてしまったんだが、この使いづらいランダム投擲武器、組み合わせで進化するんだ」


「何を言っているんだ……? ええと、つまり他にアイテムを取得したらいいの?」


「そういうこと。新宿アポカリプスは基本攻撃を除いて、加護による攻撃とあと5つの武器を装備できるんだ。アイテムは六つだね。今はクールタイム短縮に攻撃増強、弾数増加、攻撃貫通と回収範囲と攻撃範囲で全部埋まってる」


 淡々と呟きながら、遊はあろうことか温室ロボの股の間を後ろに抜けた。

 ギリギリのところを地団駄が通過する。


「こえー!」


「ちょっと見てて、この辺りは攻撃範囲にならないのが分かった。割と規則的な動きだよこれ」


「冷静だなあ!」


「よし、取得武器はロケット花火」


「冷静だなあ!!」


「そりゃあもちろん。平常心こそ僕の武器だからね」


 背後で、温室ロボが振り返ろうとしている。

 遊はそれに背を向けながら、ロケット花火を取得した。


 パシュッと飛び出す、ロケット花火。

 しゅるしゅると飛んで、温室ロボの頭に当たった。


『?』


「効いてないし!」


「そりゃあ取得したてだからね。これをレベルアップさせていくんだ。だけどこの武器、想定以上にいい感じだぞ」


「効いてないのに!?」


「巨大なボスの頭に直接ぶつけられた。これ、つまりかなり高いところまで届く武器ってことだよ。パワーアップのための材料程度のつもりだったけど、これは使い勝手がいいぞ!」


 そうこうしている間に、温室ロボは再び配下の植物モンスターを吐き出している。

 遊はこれの落下地点を再び分析。

 敵のまばらなところに素早く移動した。


 そして攻撃。

 経験点が集まってくる。


 ロケット花火の本数が一本増えた。


「微妙だなあ……」


 スノンの感想とは裏腹に……。

 二倍になったロケット花火は、弾数増加の効果を得て四本になる。

 それは空をピュンピュン飛び回り、温室ロボの視界を邪魔する。


『グゴゴゴゴーッ!!』


 吠えながら、ロケット花火を気にする温室ロボ。

 その懐に、再び飛び込む遊。


 炎の矢が、空き缶が、ひっかきがばりばりと炸裂する。

 さらに内部で放たれるロケット花火が飛び回り……。


『グゴゴゴッウグワーッ!!』


 温室ロボの巨体が膝をついた。

 そうなると頭部が低くなる。


 当てやすくなったと判断すれば、遊が狙わないわけがない。


「よし、ここでとどめだ!」


 嬉しそうに、下がってきた頭部ギリギリを歩き回る。

 ひっかきが連続炸裂し……。


『ウグワーッ!!』


 ついに温室ロボの頭部ガラスが破壊された。

 全身のガラスに亀裂が走り……。

 温室ロボの巨体がバラバラになっていく。


「……ここで温室が壊れても、実際の新宿御苑の温室は無事だと信じたい……」


 崩壊の光景を眺めながら、ちょっと素に戻って呟く遊なのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
グオゴゴゴというとレオパルドンを思い出しますな。 すみません、ここで聞いていいのかわからないんですが、 章タイトルがドラゴンソウルなんですがこれはいいやつですか?
現実をドット単位で見切る……汎用性がなさそうでありそうな、なんたる微妙チート!w ものづくり系の才能があるか検査の仕事なら活かせそうな気もするけど。
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