第52話 二人の救世主
「探偵事務所!? 今回も野宿を覚悟していたというのに……」
「見てダーリン! シャワーがある!! ちょっとあたしシャワー浴びてくる!」
「俺背中向けてるから勝手に脱いで入ってね……」
コンボの達人とエリィがやって来た。
遊とスノンとセシリアも合わせて、この五人で東京アポカリプスを攻略していくことになる。
「うわー眼の前で脱ぎだした」
「遊、見てはいけませーん!」
「うちの連れがすまない……!! 極めてフリーダムなんだ」
達人が頭を下げた。
数々の異世界を渡り歩いたコンボの達人だが、エリィはそんな彼にくっついてきた押しかけ嫁(自称)だと言う。
「気持ちは分かります。救世主はとっても魅力的ですから」
うんうん頷くセシリアなのだった。
得意げにしつつ、遊の目を塞いで胸元にぎゅっと押し付けている。
「ああ~後頭部が~」
「そっちも大変そうだな……。おっと、店長からの連絡だ」
電波が悪いのか、時折画面が乱れていたテレビ。
それが突然、パッと切り替わった。
ゲームセンター“ドリフト”店内をバックに、いつもお店長がバストアップで映っている。
『素晴らしい! 二つのエリアを解放しましたね! 流石は二人の救世主!』
いきなり拍手をする店長だった。
スノンが真似をして前足をぺちぺち打ち合わせたが、セシリアは遊の目を両手で塞いでいるし、遊はセシリアの胸に押し付けられて何も考えられていないし、コンボの達人はノリが悪い。
ほとんど賛同を得られず、店長はスンッとなった。
『えー、今回発生している侵略は、遊くんの意見から新宿アポカリプスと命名しました。なるほど、これもゲームに沿った形になっているんですね。実際、SNSなどでは新宿アポカリプスじゃないか、という声が多く上がっているようです。ですが、ゲームと違う点はこれが現実であること。新宿を手中に収めた魔王フルツパラーは、東京23区に手を伸ばしつつあります。既に豊島区と文京区がかの魔王の手中に落ちています。たった一日で、です』
「セシリア、もう目を塞がなくていいから! シャワーの音が聞こえてるでしょ。シャワー浴びてるということは見えないから」
「あっ、なるほど……」
やっとセシリアから解放される遊。
店長の話に参加し始める。
「新宿に侵入できたのは僕らだけ?」
『そうなります。国も動いているようではありますが、魔王に対しては無力でしょう。救世主よ、メルマガに気づき、迅速にご来店いただき感謝しますよ。あれが最後のタイミングでした』
「良かった……。これ、戦えるぞ! って思って走ってきたんで」
遊の返答を聞いて、達人がハッとして振り返った。
そして笑顔になる。
同類を見つけた笑顔だ。
「お前も……自分より強いやつと戦いに来たんだな」
「そうかな……そうかも。難易度が高ければ高いほど嬉しくなっちゃう」
「お前は友かも知れない」
「僕も似たような人と出会ったの初めてかも知れない」
「出会った頃は口下手だった遊が、お友だちときちんとコミュニケーションできています。なんだか私、胸がいっぱいです」
『なんだか良く分からない方向でほっこりするのやめてもらっていいですかね? とにかく、今回の侵略を止めるためには魔王を討たねばなりません。だが、こいつがまあ都庁に閉じこもって出てこない。そして都庁のある西新宿は侵入不可能です。一度行ってみて下さい。外の世界と隔絶した新宿の中で、西新宿はさらに世界そのものから切り離されている。これを突破するには、西新宿を除く新宿区全体を解放する他ないでしょう』
遊と達人が、ポカーンとしている。
長々と説明を聞くのが苦手な二人なのだ。
理解できるのは、ゲーム機の上下に設置されたインスト(インストラクションカード。簡易説明書みたいなもの)くらいまで。
ということで、セシリアがかいつまんで二人に説明してあげた。
「ほー! なるほどー」
「じゃあ一度試しに行ってみようか」
「行こう行こう」
遊と達人、なぜか意気投合する。
「こいつら混ぜるな危険ってやつなんじゃない?」
スノンが呟いた。
その後、エリィがシャワーから出てきたので、また遊はセシリアに目を塞がれることになるのだった。
※
大久保から徒歩で大久保公園から歌舞伎町へ抜け、そうするとこの辺りを根城にする怪物たちが次々に溢れ出してくる。
彼らとしては、通りかかった得物を袋叩きにしようという腹づもりだったのだが……。
「ボーナスステージじゃん。経験値稼ぐぞスノン」
「強いやつはいないのか! なあ! 強いやつを出せよ!」
溢れ出す怪物たちの群れに、遊と達人は突っ込んでいった。
「なんで敵の方に突っ込んでいくのかなあ! にゃあー! ギリギリ! あぶねーっ!!」
ひっかきが、炎の矢が、達人のコンボが炸裂する。
合間合間に、エリィがオーラキャノンを放って支援してくる。
いや、この世界的にはエリィの方が救世主で、達人はオマケなのだが。
「達人、ここで溜め攻撃は使うべきなんだよ。ボスが関わらない経験値稼ぎの局面でこそ、とっておきは輝くからね」
「ほう、ボスに使わなくていいのか?」
「ボス相手には自分だけの力で立ち向かいたいじゃない」
「おっ、なんだ、分かってるじゃないか」
遊と達人が、お互いの拳をコツンとぶつけ合った。
「男の友情ね~」
「なんだこいつら」
エリィが楽しげに、スノンがドン引きして呟いた。
次の瞬間。
遊が依代としている猫探偵が、己の特殊能力を解放した。
それは、猫の霊の大量召喚だ。
絵的には……。
「じ、自分がいっぱいになったーっ!!」
無数に分身するスノン!
パニックになって歌舞伎町を駆け回る!
接触した怪物はひっかきの餌食である。
「ウグワーッ!?」「なんだこれウグワーッ!!」「逃げられウグワーッ!!」「俺等よりも猫の方が多いーっ!!」
時間にして十秒ほど。
だが、この僅かな時間で、歌舞伎町に存在する全ての怪物は狩り尽くされていた。
残るのは、道路上に大量の経験点結晶。
「達人、ちょっと待ってて。これ回収してから西新宿行こう」
「存分に拾ってこい!」
達人に見守られつつ、ホクホクと経験点集めに向かう遊なのだった。
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