第51話 それはアクションゲームの如く
今回の救世主は、二正面作戦だった。
片方は遊。
もう片方はコンボの達人。
遊は大久保公園をクリアし、この領域を新宿アポカリプスから解放した。
雑居ビルから見える光景は、徐々に色彩を取り戻していっている。
公園の緑が、土の色が戻っていく。
「魔王フルツパラーと言っていたのですよね? それがこの世界を支配する今回の侵略者なのだと思います。フルツパラーからそれぞれの土地を任された怪物が、遊を待ちかまえている……」
話を聞いたセシリアが難しい顔をしつつ、ホワイトボードに何かを書いていった。
それは、新宿の大まかな全図だ。
「遊がいなくなった後、私、事務所を調べてみたんです。そうしたらたくさんメモが見つかって。遊の言っている探偵さんはこれを調べていたみたいですね。新宿は今、十二個の領域に分けられています」
マジックペンで書かれた新宿の地図に、セシリアがマグネットを置いていく。
全てが赤いマグネットだ。
「新宿御苑。信濃町。四谷。市ヶ谷。神楽坂」
反時計回りにマグネットが置かれていく。
「早稲田。落合……ここが一番広い領域です。百人町。大久保……は遊が解放しましたね」
ぐるりと新宿を回って、南下してくる。
大久保にのみ、青いマグネットが置かれた。
「北新宿。東新宿。そして……魔王がいる西新宿」
「東京都庁があるところだね」
「はい。ちなみにテレビの中で、コンボの達人さんが戦っているのは早稲田の辺りになるんですが……。大久保のお隣ですね」
「思ったより近かった! 早稲田は知ってる。早稲田大学があるところでしょ」
「私は知らないんですけどー」
セシリアが唇を尖らせた。
「学生さんの中から素質がある方が、怪物に変わって達人さんを襲っているみたいです」
「達人VS大学生!? どうなるんだろう……。見た感じ、達人のスタイルは……。カミカゼかなあ……?」
「カミカゼ?」
「徒手空拳で戦い、射程距離は短いけど攻撃に敵の攻撃の相殺効果があるキャラだよ。HPが1しかないこのゲームなのに、敵の只中に突っ込む度胸とプレイングの技術が要求される玄人好みのキャラでね」
「遊が語りだしちまった! セシリア、あんまり聞いちゃだめだぞ!」
「いいのですよ。私は遊が楽しそうに喋っている姿が好きですから」
「あー、ごちそうさまです」
「エネルギーを溜めていくと、遠距離の気弾が撃てるようになるんだ。なお、レベルアップしても手数増加とクールタイム減少だけで、間合いは全然近いままで……」
楽しそうに遊は語り続ける。
そんな彼らが見つめるテレビの先で……。
コンボの達人が今、戦いを繰り広げる!
※
「おあたっ! あたっ! あたたたたたたたたたたたた」
パンチ! パンチパンチ! パンチパンチパンチパンチパンチ・キック・エルボーパンチ。
既に達人の基本スキル、我流空手殺法のレベルはマックスだった。
さらに別にアイテムを取っていないのに、常に技を出し続けられる状況になっている。
つまり、この男、ゲームシステムに対応していない。
素である。
「なんだこいつ!」「拳の弾幕で向こうが見えねえ!」「くそっ、つっこめー!」「お前偏差値幾つだよーっ!!」
飛び込んでくる学生が変化した悪魔たち。
それぞれが、それぞれにサークルをイメージした魔法を使い、ありとあらゆる攻撃方法で攻め立ててくる。
だが。
酒を飲んで吐き出した炎をパンチが打ち消し、投げられたビーカーやテニスボールを肘打ちで打ち消し、横合いから来る攻撃「死ねおらー!!」には発生の早い弱パンチ「ハイィッ!」で反撃からの確殺コンボ「ウグワーッ!!」、さらに隙を縫って飛び蹴りした達人は悪魔学生をふっ飛ばした。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」
着地からの全方位打撃連打で、雑魚が次々に経験点に変えられていく。
「くそっ、ならばこいつだ!!」
テニサーの一斉砲撃。
本日ばかりは合コン専門の看板を放り投げ、テニスの腕を披露する。
テニスボールはコンクリート壁をも穿つ。
だが、これも連続パンチで横にスライドしながら全て相殺。
バウンドして襲ってくるテニスボールさえ、的確に軌道を読んで相殺する。
攻撃の手が減った瞬間、達人は飛び込んできて大暴れするのである。
我流空手殺法の他に武器はなし。
それが達人の戦い方だった。
なお、彼は素なので、天使や悪魔で何かを選択という仕組みはない。
「うおー! ダーリンやっちゃえー!!」
「後ろで応援してる女がいるぞ!」「こいつから片付けろ!」「おねーさん暇してるー?」「俺等と遊ぼうぜー!」
「はあ? あたしはダーリン一筋なんですけど!」
次の瞬間、後ろで応援していた女性……エリィに襲いかかった悪魔たちは、全身に急激な重圧が掛かったのを知った。
これは……。
スピードダウンのデバフだ!
エリィのシルエットに契約している悪魔の姿がある。
悪魔アスモデウスだ。
「えっ!? それじゃあまさか……本当のプレイヤーはこの女の方で……」「あの男は何も関係なしに、生身で俺達と戦っているだけ……!?」
「そういうこと! うりゃー!! オーラキャノン!!」
正式なプレイヤーキャラクターの能力は、エリィに宿っていた。
オーラを使って中、近距離攻撃を行うキャラ、サイキックガールが彼女のクラスだったのである。
つまり、達人は何でもなかった。
エリィについてきたオマケである。
「おぁたぁ!」
「ウグワーッ!!」
オマケが、悪魔の一団を蹴散らす!
溢れ出す経験点は、全てエリィが回収する。
達人をエリィが援護する。
達人はひたすら前進する。
完璧なコンビネーションだった。
「なんだ……なんだこいつら……!!」「大久保でもグエムルがやられたらしい!!」「な、なんだってー!?」「フルツパラー様の支配する新宿は盤石だってのに、何が起こってるんだ……!?」
混乱する悪魔たちの中に、ひときわ巨大な影が出現する。
「静まれ! 静まれーっ! この俺様が! 学長グレーターデーモンが相手を……」
その地のボスらしき姿が現れたところで、達人が跳躍していた。
「なにっ!?」
「トアーッ!!」
「ウグワーッ!」
防御が間に合わず、飛び蹴りで宙に浮くボス。
登場した時に発生する、僅かな硬直時間を達人は見逃さなかったのである。
永久コンボのスタートだ!
達人は着地ざま、浮いたままのボスにパンチを打ち込んだ。
パンチ、パンチ、エルボー、かかと落とし。
ボスが落下してバウンドしたところにパンチ。
そしてアッパーでもう一度打ち上げ、自分は小さくジャンプしてからの膝蹴り。
ここからまた最初の攻撃がループする。
「ウグワッウグワッウグワッウグワッウグワッウグワッウグワッウグワーッ!!」
何度目かの永久ループコンボの後、トドメとばかりに、空中にいる達人の全身がピカピカ輝いた。
「喰らえ! カラテの真髄! ジェット波動ビーム!!」
青白いビームの奔流が、ボス悪魔に降り注いだ。
「ウグワーッ!! そんなの空手じゃねえええええ!!」
叫びながら、光の中に消えていくボス。
それと同時に、周囲の学生悪魔たちも「ボ、ボスがやられた!?」「もうだめだー!」「ウグワーッ!!」と倒れ伏していく。
その姿が、次々に元の学生に戻っていった。
「……精進しろよ……!」
コンボの達人が、腕組みしながら倒れた学生たちに背中を見せつけている。
※
そんな風景をテレビで見ていた遊。
「あ、これはゲームが違うね! 一人だけ格ゲーしてる!」
納得顔で頷くのだった。
「納得するの!?」
スノンは思わず、遊に猫パンチで突っ込むのだった。
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