第50話 ボス戦・グエムル
「おいおいおいおい! 好き勝手! やって! くれたじゃねえの!!」
グエムルが吠えながら、ポケットに手を突っ込む。
取り出したのは爆竹だ。
これを放り投げると、辺り一帯に爆発が起こる。
「喋り始めたと思ったら、こいつ喋りながら攻撃してくるぞ! 遊の得意な喋ってる間に攻撃が使えない!」
「別に得意じゃないんだが」
遊は爆竹を回避しながら、炎の矢を放っていく。
それはグエムルに炸裂し、ダメージを与えてはいるようだ。
「新宿アポカリプスはハイペースで進むゲームだから、口上と一緒に攻撃するんだ。だから強制的に聞かされる」
「うぇー」
「俺はなあ!! フルツパラー様がから賜った力でなあ! 任された縄張りをなあ! こうやって平和に支配していたところでなあ! お前みたいな侵入者が出てきてなあ! ……っておい! いつの間に目の前に……!」
「あ、口上自分でキャンセルした」
「うおおお自分のひっかきだー!!」
「ウグワーッ!! なんだこいつーっ!!」
一撃を浴びせた遊が、グエムルの横を駆け抜けていく。
わずかに遅れて、グエムルは懐から取り出した匕首を振り回した。
だが、遊は既に距離を取っていた。
「避けやがった!!」
「あぶねー! なんですぐ離れるんだと思ったら、あいつ寄られたら別の攻撃してくるのか!」
スノンが震え上がる。
「ははは、でもタイミングは分かりやすいし、前動作もあるからね。しっかり見てれば初見クリアもできる難易度だよ。それ、また爆竹攻撃が来るぞ」
大久保公園を所狭しと、爆竹が炸裂していく。
それなりの広さがある戦場だが、あちこちに屋台の跡やら追加で出てくる小鬼やら。
自由に動けるわけではない。
「危ない危ない危ない! 大丈夫!? これ大丈夫!?」
「大丈夫! 雑魚はスノンに任せた! ギリギリ掠めてくからよろしく!」
「うげー!」
まさに有言実行。
遊は小鬼をスノンのひっかきで撫で斬りにしつつ、爆竹の間を縫ってグエムルに接近する。
そして至近距離からのひっかき!
「ウグワーッ! こいつ! こいつーっ!!」
目を血走らせて、匕首を振り回すグエムル。
その時には、既に遊は遠くだ。
「徒歩だからどうなることかと思ったけど、いけるね、これ。猫探偵の体を使えてるのも大きい。生身の僕は弱々だからね。こんなに歩いていられるのは強いよ」
「遊こそ雑談しながらガンガンに相手を追い詰めていくじゃん」
「普段は喋る相手がいないからね。でもスノンがいてくれて張り合いがあるよ。僕は戦闘に集中してるけど、口は別に考えなくても動くからね」
グエムルは既に絶体絶命。
完全に舐めてやって来たものだから、武装は爆竹と匕首しかない。
つまり……。
「も、もうだめだーっ!!」
バリバリーっとひっかかれ、グエムルが悲鳴を上げた。
「フルツパラー様ーっ! お、お、お助けーっ!! ウグワーッ!!」
空に向かって腕を伸ばし、グエムルはパーンと破裂してしまった。
大量の経験点が吐き出される。
これと同時に、周囲にいた小鬼も苦しみだし、「ウグワーッ!!」と叫ぶとやっぱり破裂した。
「経験点が入れ食いだー!! やっぱボスを倒すとテンションが上がるよね!」
遊が目の色を変えて走り回っている。
バリバリと経験点が回収され……。
最後に出てきたのは宝箱だ。
「……こりゃ一体? 罠か?」
「スノン、こいつは一番のお楽しみタイムなんだ。このためにこのゲームやっていると言っても過言じゃない」
「そこまで!?」
「じゃあ開けてみる……」
鍵は掛かっておらず、パカッと開く宝箱。
すると、空中にスロットが出現した。
これがぐりぐりと回転し、数字を表示していく。
「来い! 来い来い来い! ……あーっ」
スノンには分からなかったが、イマイチな数字だったらしい。
¥と記されたコインが飛び出し、遊の懐にチャリンチャリンと収まっていく。
さらに、アイテムが飛び出してきた。
これは……空き缶だ。
「あっ、空き缶がレベルアップしてしまった」
「あの微妙なやつ?」
「どんな微妙なアイテムも、育てきれば強いんだよ……。見た目がカッコ悪いのと動きに癖があるだけで。さあ、一旦戻ろう」
大久保公園を後にし、事務所へと帰還する遊とスノンなのだった。
「ホッとしたよ……。しかし、ドラコニアと全然違う戦いが待ってるんだなあ……。自分はもう、あまりにも変化が激しすぎてついていけない……!!」
「そこは僕に任せてよ。スノンがいてくれて助かってるし、会話できると気が紛れるからさ。このゲーム、ほんとに動きしか気にしなくていいから眠くなることがあって」
「あの戦いの最中に眠くなったのか!? とんでもないな!」
わあわあお喋りしながら帰ってくると、探偵事務所の扉が開いた。
探偵助手姿のセシリアが出迎えてくれる。
「お帰りなさい! 絶対に勝って戻ってくると信じていました! コーヒーが用意してありますよ! ここ、お湯を入れるだけでいい飲み物セットがあるので助かりました。お料理関連が不慣れな私も安心です!」
湯気の立っているコーヒーが嬉しい。
「ありがとうセシリア。じゃあスノンも休んでもらいつつ、作戦会議しよう。それに……コンボの達人が今何をやってるのか気になるし」
「ああ、それなら」
セシリアが指差す先にテレビがある。
その中で、コンボの達人が戦っていた。
どうやら、別の救世主の戦いを見られるようになっているらしい。
「どれどれ……?」
遊はテレビを注視するのだった。
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