第5話 インターミッション1
「凄いです……!! いえ、凄いなんてものじゃありません! 帝国の戦力を、旧式のメイガスで一蹴……! あなたは一体何者なんですか!?」
セシリアが興奮しながら問う。
空母に帰還してきたメイガスからは、『ああ、うん……』と戸惑い混じりの声が漏れた。
どうしたというのだろうか。
「あの、戦闘でお疲れでしょう。まずは降りてこられてはいかがですか? 何も無いところですけれど、狭いコクピットよりはくつろげますから」
研究室は、それそのものが空母の格納庫でもある。
これこそ、聖王国に残された最後の戦力であり、聖王家最後の一人であるセシリアの城だった。
王女たる自分が、どこの誰とも知れぬ男を城に招き入れる。
それはとてもふしだらなことなのかも知れないが、国が滅ぼうという今に至っては、大したことではないように思えた。
何より、聖王国を滅びから救ってくれるのは、この人物なのかも知れないのだ。
「ハッチが開かないのですか? 展開しましょうか」
『あ、うん。ええと……。こんなに話しかけてくるシステムあったかな』
パイロットのYOUは妙なことを言っている。
一体全体、どういうことなのか?
訝しく思ったセシリアは、外部からコクピットハッチを開けてしまうことにした。
「出てこないなら、こちらから行きますよ! オープン!」
セシリアは若くして、メイガス戦闘機の開発に携わった才媛である。
彼女は一種の天才であり、古代の魔法兵器を解析し、このメイガスを作り上げた。
その一号機がプロトタイプなのだから、外部からのコントロールもお手の物というわけだ。
『あっ!? えっ!? そんな機能あり!? っていうかいつまでインターミッションなんだよ……!』
慌てる声が聞こえた。
どうやらYOUは、随分変わった人のようだった。
その顔が見られるかと思うと、ドキドキする。
セシリアは開いたコクピットに手を掛け、中を覗き込んだ……。
と思ったら。
彼女は騒がしい空間に立っていた。
「……へ?」
「へっ!?」
眼の前に、黒い髪の男がいる。
ワイシャツの襟元を緩め、スーツとネクタイは横に畳んであった。
彼の顔が迫ってくる気がする。
いや、これは……セシリアが不安定な場所に出現し、彼に向かって倒れ込んでいくところだ。
「わわわわ、わーっ!!」
「うおわーっ!」
セシリアと彼は団子になって、床に転がってしまった。
ごろん、と勢い余って前転し、大の字になるセシリア。
この空間は、何らかの建物の中のようだった。
天井には明かりが灯され、周囲には賑やかな音を立てる機械が幾つも並んでいる。
「こ……ここは……」
「あたた……。あー、コーラがこぼれてしまった。すみませーん! 雑巾貸して下さい」
彼が起き上がり、何か言っている。
そして振り返ると、彼は慌てた風にわちゃわちゃと手を動かした。
それから、ポケットからハンカチを取り出してよく手を拭くと……。
「だ、大丈夫ですか」
手を差し出したのだった。
その声は、メイガスから聞こえてきたパイロットのものと同じ。
「あなたが……! あなたがYOUなんですね!!」
セシリアは跳ね起きると、差し出された彼の手を握りしめていた。
彼が目を白黒させる。
「あ、ああ。俺のプレイヤーネームっていうか、三文字しかアルファベットで入力できないから……」
「そうだったんですね……。いえ、ところどころよく分かりませんけど。でも、私はあなたに言わなければいけないことがあります。……ありがとうございます! 王都を救ってくださって! まだ、聖王国はやり直すことができます!」
「あっはい!」
セシリアに迫られて、彼がぴーんと背をのけぞらせた。
とても困っている。
ここでセシリアは気付いた。
もしや……自分は今、とてもはしたない感じになっているのではないか……!?
「あーっ、困りますお客様。当ゲームセンターはメイクラブ禁止です」
「メイクラブ!?」
言われて慌てて、彼から離れて立ち上がるセシリアなのだった。
のけぞり過ぎた彼は、背後にある背もたれの無い椅子に頭が付きかかっている。
彼を超えて、それが見えた。
メイガス・バレット。
不思議な絵柄で描かれるそれは、そこに映し出されている光景は……。
聖王都のものだ。
「これは……一体どういうことなんですか……!?」
「そうですね。話せば長いことながら」
棒の先に雑巾がついた物を持ってきた女性が、応じた。
どうやら彼女は、この店の主らしい。
王国の執事にも見えるような、男装をしている。
「救世主は一時的に、二つの世界を繋げたようですね。そして残念ながら……本日は風営法の関係で、閉店せねばならない時間になってしまいました」
「はい?」
「ええっ!!」
彼が、悲痛な声を漏らした。
「まだ一面をクリアしたばかりなのに!」
「ご安心下さい。最近のレトロゲームは途中セーブができるんです。またのお越しを~」
店主の女性は床に広がった飲み物を拭き終わり、にこやかに微笑みながら手を振った。
すると、彼女との距離が急速に広がっていく。
まるで床が伸びて、セシリアと彼を外に追い出そうとしているかのように。
「ま、待ってくれ! またゲームを……!!」
「ゲームセンター“ドリフト”のご利用、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。それでは、また明日……」
気づくと……。
二人は真っ暗闇の中、空き地にへたり込んでいた。
「……なんということでしょう」
呆然と呟くセシリアだった。
彼はそんな彼女を見て、ポツリと一言。
「その、とりあえずうち、来る?」
こうしてラブコメパートが挟み込まれます……!
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