第47話 新たなる仲間……仲間?
「メルマガが来たけど、普段なら“ドリフト”から閉店だって追い出されてる時間なんだよな……」
夜八時だ。
だが、風営法は深夜24時までの営業を許しているので、“ドリフト”の閉店が早すぎるとも言える。
「メールですか? そう言うのを送ってきたということは、遊に来てほしいのだと思います!」
「そうかなあ」
「そうに決まってるって! あの店長とやら、ひねくれた方法で自分の考えを表現しそうな女じゃん」
「そう言われてみると……」
セシリアとスノンに促され、納得する遊なのだった。
一人と一匹を連れて、ゲームセンター“ドリフト”のある場所までやってくる。
すると……あった。
「あったよ」
「やっぱり! あら? 今日はお客さんがいるみたい?」
「二人いるぞ」
店内に足を踏み入れると、店長がカップルらしき客とお喋りをしているところだった。
一人は肩の破れたジャケットを身に着け、下はどういうわけか道着と下駄だ。
もう一人は、水色に髪を染めた日本人では無いらしい女の子。耳が尖っている。
「ああ、来た来た。お待ちしていましたよ、救世主!」
「はあ」
呼びかけられて、気の抜けた返事をする遊なのだった。
肩が破れたジャケットの男が振り返る。
赤いハチマキを締めている。
「あんたが最も新しい救世主か……。いや、あのおっさんも救世主だったが、まあおっさんは除外しよう……」
「はあ、その、まあ。救世主ってほどでもないんですけど」
遊がもそもそと返答したら、セシリアが「何を言っているのですか!! 遊は二つの世界を救った救世主そのものではありませんか! 今度は遊の世界が危機にさらされていると聞き、三たび世界を救うためにここに来たのでしょう!?」
「あっ、そうそう。そうだった」
ハッとする遊なのだった。
破れジャケットの男はニヤリと笑った。
「分かるぜ……。あんた、見た目通りの男じゃねえな。俺は異世界で、数々の超人たち、強力な怪物たちと渡り合ってきた。あんたからはそいつらと同じ匂いがする。俺は……俺より強いやつと戦うために時空を越えて旅をしているんだ」
「はあ」
「救世主よ。こちら、あなたの前に世界を救った人です。コンボの達人と名乗っていますけど」
「ダーリンが救世主でもなんにもおかしくない! そこのなんか覇気がないやつが強いの? ダーリンが強いって言うなら強いんだよね!」
コンボの達人が連れている、水色の髪の女がまくし立てた。
やはりカップルだったらしい。
「ダーリンではない……」
コンボの達人がなんか複雑そうな顔をした。
途端にシンパシーを覚える遊である。
「なんか、コンボの達人さんが僕と同類だと思えてきました」
「そうか! そうだろう! 俺はたまたまこっちの世界に戻ってきてたんだが、そうしたら故郷の世界がピンチだって言うじゃないか。強い奴のにおいがびんびんするぜ」
「うん、僕も新たな戦いの気配を感じて、ちょっとテンションが上ってきたところだった」
遊とコンボの達人、二人は顔を見合わせて、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、と笑う。
「同類ですね」
「ダーリンと同類っていたんだ」
「救世主ってのは似通ったやつなのかも知れないな」
こうしてゲームセンターに揃った四人と一匹。
彼らを前に、店長が説明を始めた。
「端的に言いますよ。新宿に魔王星が落ちました。つい先日流星群があったでしょう。あれに紛れて、実体を隠しながら新宿都庁に魔王の星がぶつかったんです。これで、この地に魔王が降り立ち、新宿を己の領土としました」
いきなり突拍子もない話をする。
だが、ここにそれを笑うものは一人もいなかった。
セシリアとスノンは、そもそもこの世界のことをほとんど知らない。
魔王なる存在がやってくるくらいの世界なんだろう、くらいの認識だ。
そしてコンボの達人の連れである、女性……エリィ。
彼女はむしろ、魔王が現れるような世界の住人だったらしい。
「なるほどねえ、魔王ねえ! 納得だわ。ダーリンが色々な世界を巡る戦いの中、あたしは魔人フリズドライと融合し、ついにダーリンを助ける力を得た……」
「なんか語りだしたぞおい。その話長くなる? 寝ちゃうんだけど」
「猫は黙ってなさい」
そんなやり取りをよそに、店長の状況説明が続く。
「この状況は、救世主の得意分野であると私は分析しました。そこにコンボの達人も来たことで……二方面からの新宿攻略作戦を考案したのです!」
「ふんふん、つまり今回はマルチプレイヤー方式でのゲームなんだな」
「ドラマチックバトルというわけか。いや、2P協力プレイか?」
遊もコンボの達人も、お互いの文脈で状況を理解した。
完全にやる気である。
「こちらに筐体を用意してあります。ここから、封鎖された新宿に直接アクセスできます。お二人の健闘をお祈りしていますよ」
「あっ、新宿アポカリプスの筐体!? 出たんだ……。これで遊べるのは嬉しいなあ。僕のは慣れたレバーと三つボタンか。コンボの達人のはボタンが六つある?」
「俺の方はシステムが違うみたいだな。得意なのはアクションゲームや格ゲーだからな」
二人を後ろから眺めていたセシリアは、
「遊のような人が他にもいるのですねえ」
と呆れ半分、感心半分。
これに店長が答えた。
「当店で生き残った方は少ないですが、救世を達成した皆さんおおよそ、常識外れなゲームに命を賭けた御仁ばかりですね……」
「なるほど。それはとても……心強いですね!」
「……救世主とともにあるヒロインもまた、変わった御仁ばかりなんですよねえ」
店長はカウンターに戻っていくのだった。
さて、ゲームできるのは二人のプレイヤーまで。
遊はいそいそと両替すると、コインを投入した。
何の躊躇もなく、スタートボタンを押す。
すると大型筐体のモニターが光り輝きはじめ……。
遊とコンボの達人のみならず、セシリア、スノン、エリィを光のなかに吸い込んでしまうのだった。
遠くから店長の、
「では、健闘を祈ります救世主たちよ! ハイスコアのご加護のあらんことを!」
いつもながら無責任そうで、しかし確かに祈りのこもった声が聞こえたのだった。
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