第4話 1st STAGE 聖王都上空
最初の遭遇は、五機編隊の黒い戦闘機。
速度こそ自機より速いものの、どこから現れるのかが分かっているのだから対処は容易だ。
最小限の射撃を置いておくようにして、出現場所に放っておく。
戦闘機群はショットに吸い込まれるようにして、破壊されていった。
続いてまたまた五機編隊。
逆側から登場する。
これを最小限のショットで撃破。
倒した敵からは、マギカエネルギーが回収される。
これを貯めることでパワーアップするし、一度に放出することでボムとなる。
正直、シューティングゲーマーとしては、ボムを使ったら負けだと思っているのだが……。
おっと、地上戦力のお出ましだ。
六足で歩行する戦車タイプのエネミーで、前後左右に円を描いて動きつつ、砲撃を行ってくる。
ここからが弾避けのスタートというわけだ。
「とりあえず安地(安全地帯)に移動して……」
コーラを一口飲んだ。
「よし、やりますか」
※
敵機の反応消滅。
空母の中のセシリアは、驚愕に震えていた。
「そんな……! 出撃してからものの一分足らずで、十機撃墜!? これって、王都を襲撃してきた航空戦力の半分に当たるのに……!」
だが、ブラックシップ・トルーパーズの戦力はこんなものではない。
あの戦闘機など、前哨戦もいいところだ。
『行けえっ、ダムダム戦車!! 旧式戦闘機一機がなんだ!? 撃ち落とせーっ!!』
オクトパリスのヒステリックな叫び声が響き渡る。
出現したのは、王城に匹敵するサイズの巨大な戦車だ。
六本の機械式の足を用いて、王都の家々を踏み潰しながら動き回る。
上部には巨大な砲塔が四つ存在しており、ここから火砲による連続射撃が行われた。
隙間など無いような、恐るべき弾幕。
射撃が空を埋め尽くすのではないかと思われる。
「お願い……! YOU……! どうか、生き延びて……!」
『よし、やりますか』
思わず天に祈った時、YOUと登録されたパイロットの声が聞こえてきた。
メイガスは、悠然と空中に浮かんでいる。
どういうことか、空を埋め尽くさんばかりの弾幕が、その一点にだけはただの一発も到達しないのだ。
メイガスは力を溜めているかのようだった。
そして、火砲が一瞬途切れた時、動き出す。
火線の隙間を無造作にスッと抜けると、あっという間にダムダム戦車に肉薄した。
火砲が射撃する瞬間に、ビーム機銃を叩き込む。
たちまちのうちに、砲塔が一つ破壊された。
『なにっ!? させるかーッ! お前たち、攻めろ攻めろーっ!!』
ダムダム戦車上空より、黒い戦闘機の編隊が襲いかかる。
彼らは戦車の火砲と同調しており、味方の射撃を受けることがない。
たたでさえ回避困難な対空射撃の中を、さらに空中戦力と戦わねばならない状況だ。
絶体絶命。
普通であれば、だが。
まず、メイガスは戦闘機群を無視した。
そしてダムダム戦車の第二砲塔を破壊。
旋回してきたところを、第三砲塔に肉薄して破壊。
ダムダム戦車は瞬く間に、攻撃手段の七割を失った。
慌てたのか、その動きが不規則になる。
弾丸が周囲にデタラメにばらまかれる。
弾の軌道が読めない……はずなのだが、これをメイガスは悠々と回避した。
あまつさえ、回避しながら飛来する戦闘機群を次々に撃墜していく。
己に向かって放たれる射撃を、全て最小限の動きで回避しながら、敵だけを確実に落としていく。
戦闘機群は壊滅。
そしてダムダム戦車の残る砲塔が破壊され……。
巨大な歩行戦車は全身から炎を吹き出し、轟沈した。
無傷のまま、メイガスがそれを飛び越えていく。
『ば、ば、馬鹿なーっ! そんな馬鹿なーっ! 我が艦隊主戦力のダムダム戦車がーっ!?』
オクトパリスの悲鳴が響き渡った。
破壊した機体から溢れ出たエネルギーが集まる。
これを吸収したメイガスの形状に変化があった。
左右の翼に突起が増える。
それが砲口になった。
これによって、ビーム機銃とレーザー砲の同時使用が可能になる。
この光景は、開発者であるセシリアにも信じられないものだった。
自らが手掛けた機体のスペックはよく知っている。
これほどの戦果を挙げられるはずが、無いような機体だ。
「す……凄い!! 帝国の機体が全く相手にならない……! 技術力では何世代も先を行っているはずなのに……! パイロットの操縦能力だけで、こうまで戦えると言うの……!?」
ついに、聖王都を襲った敵機のほとんどが破壊された。
残るは指揮官機。
触手を持つ異形のマシーン、オクトパリス。
王城の上に鎮座するこのタコ型マシーンは、目のようにも見えるカメラアイを真っ赤に輝かせた。
『うおおおおおっ! 許さん! 許さんぞ王国の戦闘機!! 皇帝陛下から賜った貴重な戦力を、よくも、よくもーっ!! お前ごとき旧式にこうまで蹂躙されたとあっては、みどもの名は地に落ちる!! だが! せめてお前を討ち取って陛下のお怒りを鎮め────!!』
※
一面ボスの口上が始まった。
このゲームのいいところは、口上をキャンセルできるところだ。
トトンっとショットボタンを押し、口上を途中でストップさせる。
※
ビーム機銃がオクトパリスの顔面に叩き込まれた。
気持ちよく口上を喋っている最中に、水を差された形だ。
『な、ななななななっ!! お前っ! お前ーっ!!』
激昂する間にも、メイガスが懐に入り込んでくる。
ビーム機銃とともに放たれるレーザー砲が、恐るべき連射でオクトパリスの装甲をむしり取って行った。
ここに来て、ようやくオクトパリスは理解する。
『お前は……! お前は敵だ!! みどもたち帝国の脅威だ!! 認めよう!! お前をここで全力で倒さねば、お前は絶対に帝国へ大いなる災いをもたらす!! まさかこんな辺境の惑星の片隅に、これほどの敵が潜んでいたとはな……!!』
叫びながらも、触手が蠢く。
触手の先端からビームが伸び、鞭のようにしなった。
上から、下から、左右から。
触れれば即蒸発する光が襲い来る。
だが、それを常にギリギリで回避するメイガス。
それどころか、攻撃をやり過ごすと同時に、射撃によって触手に攻撃を加える。
一本が一瞬むき出しになった関節部を的確に狙い撃たれ、爆発とともに分離していった。
そしてもう一本も弾け飛ぶ。
『おのれッ! おのれおのれおのれーッ!!』
全ての触手からビーム鞭を発生させ、メイガスを滅多打ちにせんとするオクトパリス。
だが、当たらない。
まるで全ての動きが読み切られているかのように、ただの一発もメイガスを掠めることすらできない。
反撃で落ちていく触手。
ついに全ての触手を失ったところで、オクトパリスは覚悟を決めた。
『こうなれば……王都ごと、このオクトパリスの動力を暴走させて爆発を……!!』
接近するメイガス。
『邪魔はさせんぞ! 動力炉から直結した拡散ビームを喰らうがいい! わはははははは!! 隙間などないぞ!! 貴様はみどもに近づくことはできぬ……』
タコの墨のごとく広がった拡散ビーム。
それは目眩しと同時に、オクトパリス自爆までの時間を稼ぐ役割を果たす。
攻撃であり防御でもあった。
だがそのビームの、ほんの僅かな隙間。
そこからメイガスが抜けてきた。
ただの一秒たりとも、時間稼ぎなどできてはいない。
『は?』
レーザー砲が瞬く。
オクトパリスのカメラアイが破壊された。
『ぐわああああああああ!! そんな! そんな馬鹿な! このオクトパリスが! このみどもが! 辺境の戦闘機ごときに!!』
破壊されたカメラから、ビーム機銃が機内を穿っていく。
オクトパリスの全身から炎が上がった。
動力炉を暴走させるどころではない。
動力炉を構成するパーツが次々に破壊され、王都に降り注いでいく。
これでは、自爆することすら許されない。
『そんな! そんなーっ! あんまりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 何も、何もさせてもらえないなんてーっ!! ウグワーッ!!』
最後の一欠片になるまで、ビーム機銃でバラバラにされたオクトパリスは、王城の上で小さな小さな爆発を起こし……。
全反応を停止した。
ブラックシップ・トルーパーズの軍勢の一つが、今、全滅した。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。