第38話 君までこっち来るのか
海を解放し、いよいよ残るは毒の沼地になった平原と竜都のみ……。
というところで、現実世界に呼び戻された。
「お疲れ様です救世主よ」
「毎回いいところで呼び戻すのなんでなんですか」
「救世主を異世界に送り込んでおける時間に限りがあるんです。当ゲームセンターの持つ力の限界と言いますか……」
「ははあ」
「行ったきり二度と戻ってこれないならば無限にいけますが」
「それは困るなあ」
「私達もこちらで生活基盤を築きつつあるわけですから、小刻みに救世をするのは仕方ないですよ」
セシリアがそう言うなら、と納得する遊。
「うんうん、事情はわからないが自分も賛成である」
横合いから挟まれた声も合わせて、満場一致で、現状のちまちまステージを攻略していく方式に賛意を示すことになったのだった。
「あれ? 今一人多くなかった?」
「ええ? 遊と私と、店長と猫ちゃんと……」
「……当店には猫などいないはずですが」
注目が、店の中央にいる一匹の白猫に集まる。
大きくてむっちりした猫だ。
彼は……恐らく雄だろう……集まった視線を次々に見返すと、
「どこだ、ここは?」
と発した。
「うわーっ、しゃ、喋った!」
「こちらの世界の猫は喋るのですね」
「喋らないですよ。というか、お姫様に続き、異世界の竜までこちらに連れてきてしまったんですか!? 救世主と言えど無法が過ぎますよー!!」
店長が遺憾の意を表明した。
「ええっ、この猫が氷竜!? そんな馬鹿な……」
「そんな馬鹿なってひどい! 自分は竜に決まっているでしょう。えっ、あんた守りの竜!? 嘘だあ」
猫も驚いている。
とりあえず、彼が氷竜であるという証明をしてもらうことにした。
ごおーっと氷のブレスを吐く白猫。
「まあ、この猫さん本当に氷竜です」
「こっちの世界だと猫の姿になっちゃうんだろうか……」
「あのですね、世界のバランスが崩れますよ。お姫様一人ならなんとでもなりますが、流石に竜がこっちにやってくるのは前代未聞ですよ。救世の際によっぽど救世主としてのパワーが余ってもいない限り、こんな事は起こり得ない……あっ」
店長が遊をみて声を発した。
「……今回の救世主は、何一つとして特別な力を使っていないのだった……。そりゃあパワーが余るに決まってる……」
「自己解決しちゃった」
「ともかく! 閉店です閉店! また当店はパワーを溜めて戻ってきますよ。明日の夜にはドラコニアを救えそうじゃないですか。アイルビーバック」
「そうかも知れない。じゃあ店長、一つ相談が」
「なんです?」
「猫を預かって下さい」
「ゲームセンターは原則動物禁止です!!」
遊とセシリアは猫ごと、スライドする床に押し出されて店の外。
ゲームセンター“ドリフト”は消えてしまったのだった。
「なんということだろう」
「あら、いいではないですか。私は猫好きですよ」
「自分は竜なんだが?」
「僕はペット飼ったこと無いんだよ」
「自分はペットではないのだが?」
いちいち遺憾の意を述べてくる氷竜。
「でもやっぱり、竜を野良猫にしておくのも危ないよなあ」
「竜は野生で生きているものだが?」
「では、我が家で飼いましょう!」
「あーれー」
ひょいっと抱き上げられて、だらーんと胴体を伸ばす氷竜なのだった。
スーパーで買物をする際には猫の姿の氷竜は入ることが出来ない。
外で待ってもらう。
「あらセシリアさん、ご主人と一緒なのね」
「はい。これから一緒にディナーを作るんです」
「ご主人という言葉を否定しない……!」
衝撃を受ける遊なのだった。
外に出てきたら、紐で繋がれている飼い犬がギャンギャン吠えている。
犬の間合いギリギリで、尻尾をぺちぺちやる氷竜。
遊んでいる。
「お友達が出来たのですか?」
「たまには犬を相手に構ってやってもいいかと思ったんだ」
「いい性格してるなあ。あ、氷竜、食べられないものが無いか聞くの忘れてた」
「自分は猫舌だから冷めたもので頼む」
「そっか、氷竜だから偶然にも猫と同じ猫舌なんだ……」
遊は一つ学びを得た。
こうして帰宅し、料理をしながら明日の会議。
「ドラゴンソウルの第五ステージが不毛の大地で、その先に竜都がある。ほぼひとつなぎで最終ステージまで行く感じだから、今日みたいに一気にクリアできると思うんだ」
「守りの竜がおっそろしい事言ってるな……」
戦慄する氷竜なのだった。
傍から見ると、厨房の床に座り込み、おこぼれを狙う猫ちゃんである。
「炒める前のキャベツ食べる?」
「もらおうかな。うまあい」
サクサクキャベツを食べる氷竜。
竜は雑食なのだ。
「じゃあ豚肉をキャベツやピーマンと一緒に炒めるのでセシリアは離れていて」
「はい! 遊の料理の腕前を見せてもらいますね! 今日のメニューはなんですか?」
「回鍋肉です」
「ほいこーろー?」
「辛味噌と中華調味料で味付けた、肉野菜炒めの肉多めです」
「とっても分かりやすいです!」
「自分は野菜の切れっ端でもいいから欲しい」
余ったキャベツの芯を差し出すと、氷竜はもりもりと食べた。
これは余った野菜の処理が助かるかも知れない。
でも食費は掛かりそうだ。
さて、遊は鍋に挑むことになる。
ガスの火が踊り、熱伝導に優れたフライパンの上で、肉と野菜がじゅうじゅうと焼ける。
辛味噌の香ばしい香り。
ちょうどご飯も炊きあがる。
本日のスープは、コンソメと中華調味料をちょっと使った中華風スープ。
「それじゃあ、明日の英気を養うために、ご飯にしよう!」
遊の言葉に、セシリアが歓声をあげるのだった。
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