第36話 原作とは違ってきている
『ドラゴンソウルと流れが変わってきている』
「そうなのですか!? それは一大事なのではないですか!」
『何を言ってるんだがさっぱり分からん』
遊の前には、セシリアと氷竜。
民たちにごめんなさいし、雪原を出奔したアイスドラゴンは、なんと遊に協力することになったのである。
『ドラゴンソウルでは、ドラゴンゾンビじゃないんだ。アイスドラゴンのまま操られてるんだよ。それがゾンビになっててまず驚いた。そして、もとのゲームよりずっと弱くてもっと驚いた』
『やる気がなかったので……すまんね』
『それにしたって弱すぎる。どうしてだろう? 分かるかな?』
『うーん』
アイスドラゴンが宙を見つめた。
『ドラゴンゾンビになってから、完全に魔龍に操られていたが……。ここ最近、いきなりその操る力が弱くなった気がした』
『ここ最近って言うと……』
「遊が、ネビュラゴールドの因子を撃破した時ですよ! あそこできっと、運命が変わったのです!」
『なるほど……。ネビュラゴールドの力の一部が欠けたから、アイスドラゴンを操れなくなったってわけか。だからこんなことに……』
遊とセシリアのやり取りを見て、氷竜が目を丸くしている。
『守りの竜と竜の巫女、随分フランクな関係なのだなあ。昔の守りの竜はもっと厳格だった気がするけど。おっと、海だ』
山を超えて、海が見えてきた。
群青の大海。
ドラコニアの大部分を占める海であり、ここは二つの大海を分ける海峡だった。
『第四ステージに到着してしまった』
「ここがですか? 見た感じ……どこまでも海が続いているだけに見えますけれども……」
『遠くを見てみて。船が見えるでしょ。このステージは海を漂う船を見下ろしつつ、水上の敵と空中の敵を同時に相手取るところなんだ。本来は』
「本来は? ああ、もともとのゲームと違ってきてしまっているということですか。遊、不安なのですね」
『うん、次のドラゴンもドラゴンゾンビみたいに弱かったらどうしようか、怖くて堪らない。簡単なゲームはやる気がなくなってしまうんだ……!』
「なんだか別の悩みを抱えているみたいですね……」
氷竜は憤慨して鼻息をプシューッと吹き出す。
『なんと人聞きの悪い。自分は常にやる気がなかっただけだ。だが、今回は罪滅ぼし。協力させてもらうぜ』
『いや、やめてくれ! これ以上簡単になってしまったら、僕はどうしていいか分からない!』
『竜の巫女よ。今回の守りの竜は随分おかしいぞ』
「分かってます。遊はこういう人なので。アイスドラゴンさんはこの浮き岩を守りながら、私と一緒に見ていましょう」
『今回は竜の巫女までおかしいぞ……!』
だが、仕事をしなくていいと言われたなら、しないのがアイスドラゴンの方針だった。
守りの竜が単騎で、海上に飛び立っていく。
チラチラこちらを振り返っているから、本当に協力して欲しくないのだろう。
「遊は変なところが頑固でへそ曲がりなのですよね」
『巫女はなんでそんな事言いながら笑ってるんだ?』
「世界を救うとなれば最強のへそ曲がりが彼だからです」
※
船上の人々は、頭上を守りの竜が飛んでいくのを見た。
ここは群青の大海。
統べる三柱の竜が全て魔龍に与し、人が行き交うことを許されなくなった場所だ。
船は軍船であり、海竜たちに対して絶望的な戦いを仕掛けようとするところだった。
海が無ければ、人は生きていけない。
世界は海に囲まれているのだ。
その海が全て敵になるということが、どれほど恐ろしいか。
「せめて一太刀でも浴びせられればと思った海路だったが……」
守りの竜が飛翔すると、迎え撃つために海中から次々に怪物が現れる。
岩をも穿つ水流を投げ槍のように放つテッポウウオに、飛び上がって食らいついてくるフライングキラー。
さらに水底からは、小島と見紛うばかりの巨大なカニまで出現する。
人間たちの船であれば、これらの一匹と遭遇してもまともに戦えなかっただろう。
だが、守りの竜は違った。
竜が氷のブレスを吐く。
それは水流を跳ね除け、テッポウウオ周辺の海を次々凍てつかせる。
『ウグワーッ!?』『逃げられぬウグワーッ!!』『な、なんだこれはーっ!!』
フライングキラーは氷のブレスで羽根代わりのヒレを凍らされ、落下していく。
『ウグワーッ!!』『炎のブレスではないのかウグワーッ!!』
カニは甲羅が凍てつき砕け、カニ味噌を吹きながら沈んでいった。
海に住む海流の眷属たちは、炎に対する強い耐性を持つ。
並のドラゴンであれば、この海を超えることなど叶わないのである。
だが。
彼らの弱点は氷であった。
雪原では氷竜を倒せなかったが、ネビュラゴールドの因子から結晶を得た守りの竜。
ブレスを氷化する最小限の備えだけをして、戦場に飛び込んだのである。
『氷のブレスだけ用意していけば、連射と合わせて敵の弾も迎撃できるんだ。正直、これをやるだけで雑魚戦は楽勝になるビルドと言える。よしよし、原作通りだ。これでいいんだよ、これで』
ぶつぶつ言いながら飛翔する守りの竜は、まさに無敵。
飛びかかるフライングキラーを次々紙一重でいなし、すれ違いざまの氷のブレスで水面に叩き落とす。
海上からの攻撃を次々に回避すると、反撃に放たれるブレスの命中は正確無比。
海竜の眷属が面白いように落とされる。
「す……すげえ……!!」「伝説の守りの竜、こんなに強いのかよ!!」
船上の人々は空を見上げ、感嘆することしかできない。
青き竜が、立ち塞がる全てを打ち倒しながら突き進んでいく。
ついにこれを無視できなくなったか、前方の海域が泡立った。
「で、出るぞ! 海竜だ!」
三匹の海竜のうちの一つ。
一本角のシードラゴンが出現したのだった。
『好きにはさせんぞ、守りの竜よ! ネビュラゴールド様のご命令に従い、貴様をここで仕留めてくれる!!』
『そうそう、こういうの。こういうのでいいんだよ』
守りの竜はなぜか、とても嬉しそうなのだった。
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