第34話 第三ステージ 白銀の雪原
視界が一面の白に覆われている。
吹きすさぶ風は氷雪を運び、ほんの僅かな先も見通すことができない。
ここは白銀の雪原。
憤怒の火山に近い地域でありながら、全く異なる気候にある常冬の地である。
猛烈な雪の中で、氷竜の民たちは身を寄せ合っている。
氷雪にも耐えるように作られた、特製のログハウスだ。
中には獣の毛皮が敷き詰められ、冷気の侵入を許さない。
吹雪の音に混じり、換気の窓から声が聞こえてくる。
『オオオオ……生者は……おらぬか……。温かき血の……流れる……生者は……。許さぬ……存在を……許さぬ……。全て凍てつかせ……雪の中に……埋めてしまおう……』
それらは、魔龍ネビュラゴールドが呼び起こした悪霊たちである。
ウェンディゴと呼ばれる彼らは、氷竜の力を受けて動いている。
彼らに見つかれば一巻の終わりだ。
血の一滴も残さず凍りつき、氷像となって雪原に立つことになる。
吹雪が晴れる一時だけ、人々は外に出ることを許された。
だが、そんな生活が長く続くはずもない。
「おしまいだ……」「もうだめだ……」「氷竜様がやられて、化け物にされちまった」「氷竜様の骸から、ウェンディゴが出てくる……」「私達じゃどうしようもない……」「氷竜の里はこのまま滅んでしまうんだ……」
絶望の声があちこちから漏れる。
人々は生きる気力を失いつつあった。
いつ、自棄になって外に飛び出す者がいるか分からない。
そうなれば一巻の終わりだ。
人間たちの集まる場所を見つけたウェンディゴどもは、一斉に押し寄せてくることだろう。
いつ、こんな状況が終わるのか。
雪原は化け物共に占領され、人が生きる領域など少しも残ってはいない。
保存食もそろそろ底を尽きそうだ。
息を潜めているのにも、限界が来ている。
ウェンディゴの声が近づいてきた。
人々は嘆きを止め、息を潜める。
見つかれば一巻の終わりだ。
早く……早く通り過ぎてくれ……。
だがその時。
子どもが緊張に耐えきれず、泣き出した。
人々は震え上がる。
『聞こえた……! 聞こえた……聞こえた……!! いた……! 人間いた……! 捕まえて、凍らせる……! 人間、凍らせる……!!』
もうダメだ……!!
ログハウスがみしみしと音を立てた。
ウェンディゴが外に取り付いたのだ。
破壊されるのは時間の問題。
ウェンディゴは仲間を呼び寄せ、ここに隠れた人々を一人たりとも逃さないだろう。
かくして、氷竜の里は滅びる……。
誰もがそう思った、その時だった。
突如、みしみし言う音が止まった。
『あれ……なんだ……? 青い翼……吹雪を断ち切って進んでくる……。あれは……あれは、竜……!? ウグワーッ!!』
爆発音!
何かがバラバラに砕け散る音。
何が!?
何が起こっているのだ!?
『竜!』『竜だ……!』『あいえええ、竜なんで……!?』『ブレスが来る……!』『ウグワーッ!!』『あかん』『反撃しろ反撃』『弾幕薄いぞ!!』『おいセリフの雰囲気』『そんな事気にしてる場合か』『打ち返せ打ち返せ』『うわーっだめだーっ!! ウグワーッ!!』
静かになった。
それどころか、吹雪も止んでいる。
民の一人は、恐る恐る換気の窓から顔を出した。
「吹雪が……なくなった……!! うわあっ! ウ、ウ、ウェンディゴが!!」
彼は叫んでいた。
眼の前に信じられない光景が広がっている。
「ウェンディゴがみんな、粉々になってぶっ倒されている……!!」
白銀の雪原に……守りの竜がやって来たのだ!
※
『という感じで、ステージ最初のウェンディゴの群れは稼ぎどころだから、一匹も逃さず釣瓶打ち。これでかなり結晶を回収できるので、火竜の結晶で得た
強化ファイアブレスの距離を伸ばせるわけ』
「あ、圧倒的なのですね……!」
『対策を立ててきたからね。それに、こいつらは弾を吐くまで一瞬だけ余裕がある。そこで撃破すれば実質ノーリスクなんだ。ほら、次が出た。行ってくる』
「頑張って、遊!」
浮遊する巨岩から飛び立つ、守りの竜。
向かう先には、風に乗って襲いかかってくる怪物の群れ。
バンシーという飛行タイプの怪物だ。
叫び声で、範囲攻撃をしてくる、雑魚としては厄介なタイプ。
『オオオオオオオッ!!』『侵入者ぁぁぁぁぁ!!』『凍りつかせるぅぅぅぅぅ!!』
『このためにブレスの距離を伸ばしたんだ。ファイアブレスは棒状の攻撃だから、距離を伸ばすほど強くなる。それっ』
範囲攻撃ということは、弾避けの心配がいらない。
相手が近づく前にどうかしてしまえばいいのだ。
遊にとってこれはとてもイージーなミッション。
長く長く伸びたファイアブレスが、バンシーを左右に薙ぎ払う。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『あいつ叫びが届かないんだけど!! ウグワーッ!?』『わたしたちの届かないとこから弱点の炎で! ウグワーッ!!』
バンシー軍団、全滅。
守りの竜の後ろから、ワーッと氷竜の民たちが飛び出してくる。
あちこちに隠れていたのだ。
「守りの竜だ!」「守りの竜~!!」「強いぞ強いぞ!!」「頼むー!!」「氷竜様を眠らせてあげてくれーっ!!」
さっきまで絶望に包まれていた彼らが、大変元気になっている。
いきなり現れた希望が、どうしようもないと思っていた怪物たちを片っ端から全滅させているのだ。
ここに来て、白銀の雪原で狩るものと狩られるものが切り替わった。
守りの竜が狩る。
徹底的に狩る。
魔龍の眷属が逃げることを許さない。
『結晶は回収しきる……!! ここでの頑張りが後で効いてくるんだ……!!』
『ウグワーッ!!』『に、逃げられない!』『どこに逃げても追ってきて虱潰しに攻撃を仕掛けてくる!』『だめだーっ! ウグワーッ!!』
かくして、守りの竜は眷属たちを残らず結晶に変えながら、白銀の雪原最奥へ。
そこには、巨大な竜の骨があった。
全身が凍りついている。
その双眸がギラリと輝く。
眼窩に嵌まった氷塊が、青い光を放っているのだ。
『おお、守りの竜かあ』
骨となったドラゴンが口を開いた。
『心情的には俺はお前の味方なんだがあ……。ゾンビになっちまったからな。立ち塞がるぜ』
ドラゴンゾンビが、その巨体を起こす。
白銀の雪原でのボス戦である。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




