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ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~  作者: あけちともあき
ドラゴンソウル

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第33話 エネルギー充填!

 朝。

 早起きし、セシリアを起こし、定食屋に向かった。

 おばあさんが一人で経営するこの店は、朝早くに開き、おばあさんの気が済むと閉店する。


 この独特な開店時間を利用することで、仕事前にモーニングを食べることができるのだ。


「朝からこんな豪華な食事ができるなんて……! この世界は本当に素晴らしいところです」


 セシリアが感激した後、焼鮭定食を食べ始めた。

 箸の使い方がかなり上手くなっている。


 付け合せの味海苔を御飯の上に散らし、醤油をひと垂れ掛けてから食べる。

 次に焼鮭をほぐしてご飯に掛けて食べる。


「変わった食べ方だなあ」


「私はまだ、遊のように何かを食べながら別のものも食べるのは苦手なのです。遊は器用なのですねえ」


「物心つく前からやってたからね」


 口内調味というやつだ。

 セシリアの世界には存在しないやり方だったらしい。


 こうして二人は朝のエネルギーを補給し……。


「では今日の活動費の三千円……」


「二千円でもお釣りが出るのに。それに私、今日は面接ですよ」


「あ、スーパーの! 頑張って」


「頑張ります!」


 こうして工場前で別れる。


「安曇野くんがまた外人の彼女さんと一緒に出勤してきた」


 ちょっと羨ましそうな上司である。

 最近は家でも奥さんと会話がないのが悩みらしい。


「僕をご同輩みたいに見るのを止めてほしいなあ……」


 そんな事を思いつつ、仕事に邁進する遊なのだった。

 この後はゲームセンターが待っている。

 そう思うと、やる気も湧いてくるというものだ。


 セシリアは今頃どうしているだろう。

 面接は上手く行っているだろうか。

 外国人だということで、変な目で見られていないだろうか。


 彼女はスマホを持っていないので、連絡ができない。

 心配だ心配だ……。


 悶々としながら過ごす遊だった。

 そうだ、ドラゴンソウルをクリアしたら、セシリアにスマホを買ってあげよう。

 いや、彼女も自分の収入を持つようになるのだし……。


 ここはお互いの自主性を尊重して……。

 いやいや。


 そんな事を考えていたら、就業時間が終わったのだった。

 思考しながら手を動かし続けていたので、仕事はきちんと出来ていたらしい。


「安曇野くん、心ここにあらずという感じだったね! やはり新婚はいいねえ」


 わっはっはと笑う上司。


「や、結婚はしてないです……!」


 それだけ告げて、退勤する遊なのだった。

 すると、工場の門でセシリアが待っているではないか。


 帰宅する早番の人々からちらちら注目されていた彼女は、遊を見るとパッと表情を明るくした。


「遊~!! 受かりました~!! 明日から仕事ですー!」


「本当!? 一発で受かった!? 凄い! 優秀……!!」


 遊はすっかり感心してしまった。

 セシリアは勝手の分からない異世界に来ても、たくましい。


「大丈夫だった? 変な質問とかされなかった?」


「故郷のことを聞かれました。王女だと言うと色々面倒だと思いましたので、ここは謙遜して父が貴族だったということにしてですね」


「それでもかなり凄い話になってるよー!」


「それと不思議だったのですが、面接終わりに出勤して来た女性たち、皆さん私が遊のところでお世話になっていることを知っていたんですよ。本当にどうしてなんでしょう。不思議ですねえ……」


 田舎は噂が広がるのが早いのである。

 何よりの娯楽が、人間関係についてなのだから。


 しかも、スーパーに働きに来る女性たちは、皆工場に勤める男たちの妻であったり母であったり娘であったりする。

 相互に情報を補完し合うことで、セシリアと遊が同棲していることはこの地域の人々周知の事実となっていた。


 商店街で食べられるものを買って、ゲームセンターが出現する場所で待機。

 二人で食べていると、通りかかる人々から注目されたりもする。


「……ここなら家から近いから、一旦帰ってご飯食べてから来てもいいかもね」


「あら、私は遊と一緒に外でお食事するの好きですよ?」


「僕も嫌いじゃないけど、人の目とか噂がね」


「いいではありませんか。私達、何もやましいことはしていませんし」


 そんな話をしていたら、眼の前にゲームセンター“ドリフト”が出現した。

 じーっと遊たちを見ていたおじさんが、ギョッとしている。


「あ、このゲームセンター、僕ら以外にも見えるんだ?」


「えっ!? 遊は見えないと思っていたんですか?」


「うん、こっちの世界にはこういう、怪談みたいなのがあってさ。後で詳しい話はするけど……」


 遊は、随分自分は喋るようになったなと思う。


「こんばんは、救世主と姫君。今宵も異世界が、お二人の救世を必要としています」


 店長が現れて、手招く。

 遊は入店前に、いつものジュースを買うことにした。

 セシリアもあげた三千円の半分以上が残っていたようで、自分でジュースを選んでいる。


 外でゲームセンターをみていたおじさんがふらふらと近寄ってきた。


「おや、新たなご入店は歓迎ですよ。楽しんでいってください。ただし……招かれた方以外は命の保証は致しかねますが」


「僕の命の保証だってしてくれなかったじゃない」


「それを言われると弱いですねえ!」


 遊に突っ込まれ、店主が笑った。

 おじさんはこのやり取りを聞きながら首を傾げていたが……。


「この町にゲームセンターがあったなんてなあ。俺が学生の頃まではあったんだよなあ」


 そんな事をいいつつ入店したのだった。

 後から入った遊とセシリア。


 既に、おじさんの姿は店内のどこにも無い。


「どういうこと?」


「どういうことでしょう? ……私、あの店長は絶対に善良な存在ではないと思うんですよね……」


「そうなの? 善人では無いとは思うけど、悪人では……いや、悪い人かなあ……」


「ひどいことを仰る」


 店長の笑顔が引き攣っているのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
このおじさんもどこか別ジャンルの世界を救ったりするんだろうか。
あー…… これ、おじさんのご冥福をお祈りした方がいいやつ? ナムナム。
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