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ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~  作者: あけちともあき
ドラゴンソウル

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第32話 インターミッション5

「それじゃあ火竜様は新たに誕生するんですか!」


『火竜がそんなこと言ってた。多分そうなると思う』


 自信なさげな守りの竜なのだが、火竜の民からすると偉大なる竜の言葉である。

 それは絶対の裏付けがある預言となる。


「やったー!!」「火竜の里は蘇るぞ!」「ありがとうございます守りの竜様! 竜の巫女様!」


「ええ、期待していて下さい。遊……じゃなかった、守りの竜が全ての土地を取り戻し、魔龍ネビュラゴールドを永遠に滅ぼすでしょう」


『セシリア、そんな堂々と大言壮語を……』


「でもやるのでしょう?」


『そりゃあもちろん、ネビュラゴールドを仕留めないと話が終わらないからね』


 守りの竜と巫女の言葉を聞いて、火竜の民たちは顔を見合わせた。

 喜びが爆発する。


「うおおおおー!!」「守りの竜様! どうかよろしくお願いします!!」「世界を救って下さい!!」「火竜様の仇を取って下さい!」


 こうして暖かい声援に包まれて、遊とセシリアは帰還したのだった。


「なんて気持ちの良い方々なんでしょう!」


 ゲームセンターの床に降り立ったセシリアは、ニコニコである。

 

「そうなのかな? でも確かに、共和国の人よりは話が通じた気がする」


「なんと言うのでしょうか。権力とかメンツとかそういうものではなく、もっと素朴な共同体的価値観を持った方々でした。だからこそ、私達の話が直接伝わったのだと思います。社会は複雑になっていくものですが、私が進歩だと思っていた世界の変化はギスギスを生むだけでした。本当に社会の複雑化は進歩だったのでしょうか……」


「セシリアは難しいことを考えるなあ……」


「ふむふむ、遊にはまだこの辺りの知識がないようですね! いいでしょう! お夕飯を食べながらそのお話をしましょう!」


 大いに盛り上がる二人。

 店長が横からニューっと首を伸ばしてきた。


「あのー、お話中失礼しますが、そろそろ閉店しようかと」


「あら失礼」


 ごめんあそばせ、と話を切り上げるセシリアなのだった。

 店長の扱い方を心得始めている。


「あ、そうだ店長。差し入れです」


「あっ、またバナナですか。ありがたくいただきますね……。バナナ好きですねえ」


「ゲームしながら食べるために生まれてきたような果物なので……」


「ゲーム中心の生き方してますねえ……!!」


 呆れた店長が閉店したので、遊とセシリアは帰宅する。

 食材はまたスーパーで購入した。

 安くなったお惣菜ばかりでは飽きるので……。


「今日は野菜炒めをですね」


「まあ!! 遊はカレー以外にも料理を作れるのですか!? やっぱりおうちはシェフだったのではないのですか?」


「普通のサラリーマンです。特に野菜炒めは簡単なので。このためにまな板と包丁を新調してるので……」


 キャベツにピーマン、人参と玉葱を、手際よくサクサク切っていく遊。

 中華調味料をベースにして、豚肉と合わせて炒める。


 最後に醤油を一回しし、付け合せのスープはインスタント味噌汁。


「野菜と肉に火を通して混ぜたシンプルな料理なのに、なんて食欲をそそる味なんでしょうか! 後で作り方を教えて下さい!」


「もちろんです。あー、それにしても今日は気疲れした」


「気疲れ……? 遊ほどの戦士が疲れるとは、そこまで恐ろしい敵だったのですか?」


「いや、敵としては全然普通なんだけど、こうね、魂の叫びみたいなのを間近で聞いて色々託されちゃった感じで……」


「ははあ……。遊は黒船帝国のような、全く会話が通じない相手のほうが楽なのですね」


「うん。何も考えないで戦えるからね。操作に集中できる分楽なんだ。今回のドラゴンソウルはこう……。戦うボス、戦うボス、みんな最後に僕に望みを託してくる……!! お、重い……! 期待が重い……! 人生でここまで他人から期待されたことがない……! 親にも期待されたことないのに」


「まあ!」


 セシリアは目を丸くし……。

 すぐに微笑んだ。


「だったら心配ありません。さあ、冷める前に食べてしまいましょう!」


「あっ、うん。心配いらないのかな……」


 悶々としていて、あまり食事が喉を通らなかった遊だったが、七割くらいセシリアが食べたので全く問題がなかった。


「よく食べるなあ!」


「遊はもっと食べるべきです! つまりですね、心配がいらないと言ったのは……。あなたは何を背負っても、どれだけ思い悩んでも、それで戦いに影響が出る方ではないと私は信じているからです」


「ええーっ。それは買いかぶり過ぎでは……」


「では、遊は何かうじうじしたらシューティングゲームが下手になってしまったりするのですか?」


「いや、そこまで技量は変わらないし、何かあっても平常心を保つように意識して遊んでるけど……」


「ならば大丈夫です。聖王国はそんなあなたに救われたのですから。私、遊にたくさん重荷を背負わせて、物凄く期待を掛けてしまった自信があります。聖王国の名だたる兵士でも、あれだけ期待されたらガチガチになって本来の動きができないほどの! ええ。今となっては反省してます……」


「そこまで!?」


 二人は食器を持って洗い場へ。

 温めの水を出して、洗剤と合わせて汚れを落としていく。

 洗い物は溜めない。

 遊とセシリアが作ったルールだ。


「遊は勝ったでしょう。だから今回も勝ちます。私が保証します」


「ほんと?」


 今度は遊が目を丸くする番だった。

 そして、笑う。


「だったら安心だ」


「……私の保証なんてアテになりませんけど」


「なるなる。それじゃあ安心して、ドラゴンたちから思いを託されようかな……」

お読みいただきありがとうございます。

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