第31話 火竜 ファイアドラゴン戦
火竜ファイアドラゴンは、憤怒の火山を支配する竜である。
ドラコニアに存在する竜の中で、最も気性が荒く、彼が機嫌を損ねれば山々が噴火し、辺りは炎に包まれると言われている。
だが、彼は己に従属する人間たちを慈しみ、彼らを守ってきた存在だった。
そんなファイアドラゴンが自ら狂気に陥ったのは、平時の己では抗うことの出来ぬ、強大な敵、ネビュラゴールドが現れたからである。
彼は民を逃がし、その後、正気を炎で焼き尽くした。
ファイアドラゴンは炎の化身となり、憤怒の火山周辺に魔龍の侵入を許さなかったのである。
だが、彼にもタイムリミットが迫りつつあった。
炎は永遠に燃え続けることはできない。
ファイアドラゴンは炎そのものの化身となったが、地の底ならぬ地上近くで憤怒の火山を守る以上、熱は失われていく。
狂気の中にあっても、火竜には己の寿命が分かった。
どうにか……。
どうにかならぬのか……。
魔龍の眷属の攻撃は続く。
己がこの場を離れることはできない。
魔龍の狙いはこれか。
己の寿命の尽きる時を狙ったか。
歯噛みする火竜であった。
そこへ……守りの竜が来た。
彼は魔龍の眷属をことごとく滅ぼし、火山上空にて火竜を見下ろした。
『おお、おお……!』
狂気の中にあっても、記憶を思い起こすことはできる。
火竜の名を継いだ時、ドラコニアを揺るがす戦いが起こった。
敵は強大であり、ドラコニアの竜たちは窮地に陥った。
そこへ、守りの竜が現れ、全てを覆したのだ。
あの時と同じ竜が今、上空にいる。
『おお……! おおおおお……!!』
火竜はその巨体を引き起こした。
マグマを吸い上げて肥大化した肉体は、火口を砕きながら実体化する。
総身は赤熱化し、燃え上がっている。
それでも、己の中にある炎は着実にくすみ、火勢を衰えさせていた。
間に合った。
間に合ってくれた……!
『憤怒の火山は……譲らぬ……!! 我が身を倒してからこの先に進むが良い……!!』
『ストーリーはよく知ってるんだ。ネビュラゴールドに渡る前に、火竜の結晶はいただく』
『!! ……よくぞ吠えた!! 焼き尽くしてくれよう守りの竜よ!!』
火竜の咆哮とともに、周囲の地面が砕けた。
辺り一帯が火口となり、噴火する。
火山弾が降り注ぎ、吹き上がった炎はその場の通過を許さない。
『さあ、どう来る、守りの竜よ!』
※
『よし! 正面から突破できるんだ、このステージは。火山弾が吹き上がる前は地上判定だから、地上の弾で撃破して……』
ぽんぽんと連射される地上用ブレスが、吹き上がる直前の火山弾を撃ち落とす。
切り替えて放つ空中用ブレスが空の火山弾を破壊し、前進。
守りの竜は画面上半分を占める火竜に肉薄した。
『なにっ!?』
そこから連射だ。
周囲からの火山弾攻撃が来る前に、火竜のライフを大きく削っておく。
『さあ来い!』
ここから火竜の攻撃はバージョンが変わる。
地形を利用した攻撃だったのが、自らブレスを吐いて来るようになるのだ。
さらに、肉弾戦による攻撃も加わる。
『ターン制だ。まずは回避に専念……!』
『守りの竜よ!! 我が身の力を見るが良い!! かあーっ!!』
火口から大きく巨体を乗り出し、火竜の口からビーム状のブレスが噴き出す。
右から左への薙ぎ払い。
これを、守りの竜は大きくターンしながら回避。
戻りながらブレスを浴びせ……。
今度は左から右への薙ぎ払いをターンして回避。
さらに振るわれる爪を、ギリギリで回避しながら肉薄し、ブレスを連射する。
『おおっ……おおおおおっ……!!』
火竜は感嘆した。
地形を変えるほどの火竜の攻撃を浴びせかけられながら、その全てを紙一重で回避して攻撃を継続する。
そう。
守りの竜の攻撃はただの一瞬たりとも止まっていないのだ。
攻撃しているはずなのに、じりじりと体力を削られていく。
すべてを捨てて、未来さえ炎にくべて手に入れた力を、守りの竜が単純に地力だけで凌駕して来ようとしている。
そしてついにその時が来た。
決定的な瞬間などなく、常に一定のペースで守りの竜が攻め続け、避け続けた。
その結果が出たのである。
『おお!!』
驚きに吠える火竜であった。
命が尽きる。
もう少し持つかと思っていたが、守りの竜は火竜の命を、瞬間的に大きく燃え上がらせ、燃え尽きさせてくれた。
『ありがたい……!! 我が身が炎に還っていく……!! これならば……。数年の後には、新たな火竜も生まれよう』
実体を失いつつある火竜。
だが、その目は細められ、実に満足げだった。
『火竜の結晶をいただいても?』
『ほ! なんともまあ』
火竜は笑った。
守りの竜が、なんとも間の抜けた物言いをするからである。
息一つ乱れておらず、感情もまた大して動いてはいない。
それでも、守りの竜ならばやってくれる。
そう信頼できた。
『持っていけ! 我が身の結晶だ! 我が身の力を、あの魔龍めの死に際まで連れて行ってくれ!』
『もちろん』
即答だった。
『最高の返事だ。最後に聞けた言葉がそれで良かった。ではな』
火竜は燃え尽きた。
火山のマグマは冷え、固まる。
憤怒の火山はしばしその炎を休めることとなった。
火竜の結晶は赤く輝きながら、守りの竜に吸い込まれ……。
『いやあ……思ったよりも体験してみるとウェットだなあ、このストーリー』
しみじみと竜は呟くのだった。
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