第3話 チュートリアル
コーラを一口飲む。
始まった。
チュートリアル画面が表示され、操作の仕方、ショット、ボムの説明が流れる。
全ては聖王国の王女、セシリアが解説をする形だ。
そうそう。
メイガス・バレットは自機の表示と比べて、当たり判定が小さい。
弾が接近した時に光る、中心部の数ドットに当たりさえしなければ、撃墜されないのだ。
これを把握した上での弾避けが、メイガス・バレットの醍醐味となる。
「全て分かっているさ。行こう」
思わず声を出していた。
らしくもない。
ふと、画面の中のセシリアが表情を変えているように見えた。
お決まりのドット絵のはずなのに、それはまるで驚きの感情を表しているような……。
自分が知らない、新しいバージョンなのだろうか?
※
「いいですか。機内のあなたにお伝えします!」
王女セシリアは、己の願いに応えて、このプロトタイプメイガスの中に現れたパイロットに告げる。
「機体のコントロールは内部のレバーを通じて行います。攻撃は専用のボタンに割り振られ、押すだけでビーム機銃の使用が可能です。ですが気をつけて下さい。搭載しているエンジンだけで作り出すエネルギーには限界があります」
プロトタイプメイガスの機体は小さい。
人が収まる、直径2メット(メートル)の球体……コクピットモジュールを核とし、片側4メットのウイングユニット、後部2メットのエンジンユニット、そして前方4メットの二等辺三角形型の機首ユニットで構成される。
その全長はおよそ8メット。
翼長は10メット。
聖王国の魔科学が生み出した、最小の戦闘機。
それがメイガスだ。
大気圏内、宇宙空間、どこでも活躍ができる。
だが、その大きさ故に搭載されているエネルギー量は少ない。
継続しての飛行時間はおよそ十分程度となる。
現在使用されている量産型メイガスは、この航続距離の問題を解決するため、エネルギーユニットを搭載。
そのために、サイズはプロトタイプに比べて二倍に膨れ上がっている。
「……ですが、プロトタイプにはこの機体だけの利点があります。それがエネルギー変換装置。敵を撃墜することで、そのエネルギーを吸収、自らの動力源とします。これによって、一時的に運動能力と攻撃能力の向上が行われます。理論上は、無限に戦い続けることができる……。それこそがプロトタイプメイガスです」
理論上は。
敵の攻撃を全て回避し、こちらの攻撃で敵を落とし続ける。
そんなことが可能であれば、メイガスは永遠に飛び続けることだろう。
だが、そんなことができる人間がいるだろうか?
いようはずもない。
それでも、セシリアはこのメイガスと、そして謎のパイロットに望みを賭ける他無かった。
「溜め込んだエネルギーが一定量を超えた場合、バーストエナジーとしてストックされます。最大で三発。これは周囲500メットの攻撃性エネルギーを相殺し、メイガスの身を守ります」
謎のパイロットは何も言わず、説明を聞いている。
コクピットの中から、何かを飲む音がした。
飲食物を持ち込んでいるというのだろうか?
だとしたら、とんでもない度胸の持ち主だ。
「以上で、メイガスの操作に関する説明は終わりです」
その言葉とともに、研究室周辺が大きな振動で揺れる。
きっと、王城のほとんどは破壊されてしまったことだろう。
既に猶予はない。
今この瞬間にも、研究室を破壊してあの怪マシーン、オクトパリスが飛び込んでくるかも知れないのだ。
「それでは、あなたのパイロット名を登録して下さい……」
セシリアに応えて、三文字が入力された。
Y O U 。
異世界の文字であろう。
意味はわからないが……。
「説明が分からない場合、もう一度いたしますが……。すみません。猶予はもうあまりなく」
『全て分かっているさ。行こう』
メイガスから、言葉が漏れた。
単純にして、力強い一言。
この人を信じよう……!!
セシリアは心を決める。
「では、発進どうぞ!」
彼女はコントロールパネルに取り付き、操作を行った。
研究室が動き出す。
その真の姿は、城内に格納されていた小型空母。
崩れた城の中からゆっくりと浮遊し、オクトパリスの足元を抜けて王都の外部まで飛翔する。
『出たな、最後のあがきが!! お前たち! 追いかけろ! 逃がすな!! いやぁな予感がするんだ! 落とせ! 落とせ! 落とせーっ!!』
オクトパリスが叫んだ。
その命令に従い、上空を飛んでいた漆黒の戦闘機が五機、編隊を組んで飛来する。
圧倒的に空母よりも速い。
一瞬で追いつかれる……!
だが、戦闘機群はそれを見て目を見張った。
空母甲板に、小型の戦闘機が出現していたのである。
空間が光り輝く。
移動を続ける空母が、後方に向けて光カタパルトを展開したのだ。
聖王国の魔科学が可能にした、実体なきカタパルト。
そこを、メイガスが疾駆する。
離陸。
今、聖王国最後の翼が空に舞った。
『たかが一機の戦闘機が! これまで、我らに一矢報いることすら出来なかったではないか!』『おい見ろよ、今までのヤツの中でもとびきり小さいぜ! あんなもんでどうしようって言うんだ!』『例え弱敵であろうと侮るな! 行くぞ! フォーメーションテンタクルで行く!』『了解!』
漆黒の戦闘機が、圧倒的な速度でメイガスに迫る。
今まで、聖王国の多くの機体を葬ってきた無敵のフォーメーションが、メイガスに襲いかかろうとしていた。
『ターゲット捉えた! 遅い遅い遅っウグワーッ!!』
先陣を切っていた一機が、メイガスを射程に捉えた瞬間。
彼は通信の最中に爆散した。
『えっ!?』『おい!?』『何がおきた!?』『射撃だ! ヤツがビーム機銃を……! 馬鹿な、あんな原始的で直線的な兵器で、最初の撃墜者が出るだと!? なんという不名誉! この俺が晴らす……!』
編隊を外れ、一機が圧倒的な性能でメイガスに襲いかかる。
一瞬で敵機の上方を取り、反応も出来ぬままに一方的に撃墜……するはずだった。
だが、その機体が到達する場所に……弾があった。
『えっ? ウグワーッ!!』
何も理解できないまま、爆散する機体。
脱出など許さない。
エンジンとコクピットを、一斉射のビーム機銃が貫通している。
ほんの一瞬で、二機を失った。
『ば、馬鹿な!』『何が起こってる!?』『落ち着け! 三機編隊に組み直しを……』
三機が集合した場所に、三斉射。
最小限の射撃が既に行われていた。
彼らは、自ら撃たれるため、そこに集合してしまったのだ。
まるでメイガスが、全ての動きを読んでいたかのようである。
『そんなっ! ウグワーッ!?』『ありえない、ありえないウグワーッ!!』『オクトパリス! こいつは……こいつは違います! 何もかも違う! 何も……何もさせてもらえないっ!! ウグワーッ!!』
爆発する戦闘機群の只中を、悠然とメイガスが通過する。
黒い戦闘機が吐き出したエネルギーを吸収し、救世主の機体はギラリと輝くのだった。
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