表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~  作者: あけちともあき
ドラゴンソウル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/70

第24話 ドラゴンソウルとは

「次なる戦場はこのゲーム。メイガス・バレットとは少々毛色の違う世界ですが……」


「ああ、ドラゴンソウル!!」


 遊の声色がワントーン高くなった。

 これは興奮している……!


 このところずっと、彼と過ごしてきたセシリアにはよく分かった。

 彼は日常生活では、あまり感情をあらわにしないのだが……セシリアがくっついてきたり、あるいはゲームをすると感情の色を出すのだ。


「ということは、私とゲームは彼の中で同じくらいの重要さなのでしょう。ふむふむ、悪くありません」


「……少し見ない間に関係が進んでいらっしゃるようで」


「あくまでプラトニックに進みました」


「メイクラブには至っていないと」


「これからです、これから!」


 そんなやり取りをする二人をよそに、遊はゲーム機をぺたぺた触っていた。


「うんうん、このシンプルなコンパネ(コントロールパネル)! レバーとボタン二つしか使わないんだよね。対空ショットと対地ショット。ドラゴンの本格進化はステージ間で行われる方式……リメイク版か。おおおお、このゲームにゲームセンターで出会えるなんて。僕が生まれる前に出たやつだよ。本当に状態も良くて……」


「救世主よ、あなた、若い気がするんですけどどうしてそんなに造詣が深いんですか?」


「あっ、実は父がシューティングゲームマニアで、小さい頃からゲームセンターに連れて行ってもらってたんです。レトロゲームがたくさんある店で、店主の人も趣味で経営してて、それでひたすら通いまくって」


「そこで英才教育が……」


「遊の強さの秘密、その一端が明らかになりましたね」


 セシリアはちょっとうれしそうに頷いた。


「では遊、このゲームについて教えて下さい。この世界も滅亡の危機にあるのでしょう? だから、救世主であるあなたの力を必要としている」


「うん、救世主かどうかは分からないけど、ドラゴンソウルはいわゆるファンタジー世界のゲームなんだ」


「ファンタジー世界ですか?」


 きょとんとするセシリア。

 彼女の愛読書はSFである。

 聖王国そのものが、王制によって統一された惑星が、宇宙まで飛び出すほどの科学力を得た世界だ。

 SF小説との親和性が高い。


 逆に……ファンタジーとは全く馴染みが無かった。


「機械が存在しなくて、魔法を使う世界。それにこのゲームの自機は、何とドラゴンなんだ。星渡りの魔龍ネビュラゴールド。そいつがファンタジー世界、ドラコニアに降り立ち、その世界の住人はネビュラゴールドに寝返ったり、あるいは力を与えられて眷属になった」


「ふんふん……。不思議な世界観ですね……」


「うん、魔法だからね。ネビュラゴールドはドラコニアをものすごい勢いで征服していくんだけど……とある辺境にある村で、竜の巫女と呼ばれる人が立ち上がった。この村には、世界に危機が迫った時、青き竜が現れて悪しきものを打ち払うという伝説があって、要はそれがプレイヤーで、この青いドラゴンを使って世界を取り戻していくわけ」


「なるほどー。なんだか聖王国と近くありません?」


「シューティングゲームは大体構成が似たようなものなんで」


 身も蓋もない遊の物言いに、店長が呆れて肩をすくめた。


「侵略者によって引き起こされた危機の形は、どれも似通っているものですよ。それで救世主よ。一応無駄だとは思いますが聞きます。世界を一つ救ったあなたは戦う必要がない。ですが、行きますか?」


「行きます」


 ノータイムで返答が来た。

 既に遊の姿は両替機の前にある。

 千円札が機械に飲み込まれ、チャリンチャリンと百円玉が吐き出された。


 二人がけの席に腰掛ける遊。

 躊躇なく、コインをスロットに投入した。

 一連の行動に一切の迷いがない。


 チャリーン!


 PRESS START BUTTON


「よし、それでは」


「私もともに行きます」


「えっ!?」


 遊の隣に、当たり前みたいな顔をしてセシリアが座った。


「私もともに行きます」


 聞こえなかったのかな? と思ってもう一度繰り返すセシリア。

 いやいや、と遊は顔を左右に振った。


「危ないよ。待っていてくれた方が」


「遊一人を危険に飛び込ませて、待っているなんてできません。私も何かの形で手伝います! ほら遊! ボタンを押すのですよね! 一緒に行きましょう! せーの!」


「あーっ」


 遊の腕を引っ張って、二人でスタートボタンを押した。


 光りに包まれ……。

 二人はドラコニアに降り立つ。


 そこは高い山の上だろうか?

 雲が視界の下にある。


 振り返ると、山々が連なる。

 その中ほどに点々と家が見える。

 どうやら、山上にある村らしい。


 遠くでは、暗雲が立ち込めて雷が降り注いでいる。

 周囲に広がる青空が、そこでスパッと切り離されたようになっていた。


「ここがドラコニアですか……!」


「うん、そのようだ。そして僕ら……なんか実体がないみたい」


「まあ!!」


「つまりは、こう、何かに憑依する形になるんじゃないかな。ほら、自機がドラゴンだから……例えばあそこの岩なんか、明らかにドラゴンっぽい形だし……」


「あれがドラゴンですか……! 大きい! メイガスよりも大きいのですね! あのような巨大な生き物が空を飛ぶのですか? 信じられない……。あっ」


 セシリアが何かを見つけた。

 それは、ドラゴンの形をした岩のもとに掛けていく少女の姿である。


 後ろから誰かが追いかけてくる。

 追跡者は少女に追いつくと、手にした刃物で切りつけた。


 少女が倒れる。


「な、何か大変なことが起きているようだけど。このゲーム、サスペンスだったかな?」


「遊! 放っては置けません! 実体がないとは言え、私たちにもできることがあるはずです!」


「う、うん! 行こう!」


  走ろうと思った二人は、ふわっと浮かび上がって、倒れた少女の元まで一瞬で到達していた。


「やった……やってやったぞ! ネビュラゴールド様! 御身を脅かす竜の巫女はここで死にました! 守りの竜は現れません! 世界はネビュラゴールド様のものです!」


 男が天に向かって叫ぶ。

 すると……。

 遠方にあったはずの暗雲が、あっという間に山々の上空まで広がってきた。


『よくぞ成し遂げた』


 響き渡るのは、低い男の声だ。

 エフェクトが掛かってなんともおどろおどろしい。


「ははーっ! ネビュラゴールド様!! これでドラコニアはあなた様のものでございます! ですので、私めを人間たちの王に取り立てていただければ……」


『うむ、良かろう』


「ありがたき幸せー!!」


『貴様は王にしてやろう。死した人間どもの王だ』


「へ?」


 空から雷が降り注ぐ!

 撃たれた男は、「そ、そんなーっ!! ウグワーッ!!」と叫んで消し炭になった。

 空に立ち込めた暗雲が晴れる。


 ネビュラゴールドと思われる魔龍の、笑い声とともに。


 こうして静寂が戻るのだが……。


「遊! 私、この娘に入れるみたいです!」


「ええーっ!? つまり……そういう展開なの?」


「そういうってどういう展開ですか! あっ、これで……この娘を動かせますね! えっ? 祈りを捧げないといけないのですか? なるほど、分かりました。やりましょう! いえいえ、感謝されるほどのことはありません」


「もとの肉体と会話してる……」


 倒れていた少女が立ち上がる。

 表情が、セシリアのものになっている。


 彼女は竜の形の石の下まで歩くと、祈りを捧げた。


「聖なる守りの竜よ。ドラコニアに危機が迫っています。今こそ、お力をお見せください……!!」


 少女……竜の巫女の祈りが竜の岩に届き……。


「うわーっ、吸い込まれるーっ!!」


 遊を吸い込んだ岩は、その全身を変化させた。

 真っ青な鱗を持つ、美しい竜の姿に。


『ああ、うん。竜になってやっとしっくり来た。これは確かにドラゴンソウルだね』


 青き竜が羽ばたく。

 その巨体が、ふわりと舞い上がった。


 そして竜の巫女もまた、周囲の岩が持ち上がり、その上に立つ。


「私も一緒に行けるみたいです」


『インターミッションで、竜が帰って来る空飛ぶ岩盤だね。この上でパワーアップしたりするんだ』


「その姿で説明してくれるの、なんだか不思議な心地がしますね」


『うん。でも行けるよ。それじゃ、ゲームを始めようか!』


 ドラゴンソウル、ゲームスタートである。

お読みいただきありがとうございます。

面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
硬い板出てきそう
なるほど、遊はシューティングの鬼とか呼ばれそうな感じですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ