第21話 FINAL STAGE 黒船皇帝
「おっ、ファイナルステージモードになった。ここはずっとレーザー砲とジャベリン選択式のパワーアップ状態なんだよね」
気を取り直して、最後の戦いに挑む遊。
赤く輝くメイガスは、メイガス・バレット最終ステージの証。
実は別にオーバーロードを倒す力でパワーアップしたとかではない。
対するのは、視界いっぱいに広がる巨大な黒船皇帝。
これがいわゆる第一形態。
画面の七割を占める攻撃を断続的に繰り出してくる。
攻撃の寸前にモーションがあるので、これで攻撃してくる範囲を見切れば回避は容易い。
『喰らうが良い!! ふん!! ぬわあっ!!』
右画面七割。
左画面七割。
下方画面七割。
上方画面七割。
サクサクと避けていく遊。
回避しながら、選択する武器はジャベリンだ。
黒船皇帝の武器が画面に映っている間は、攻撃が通らない。
引っ込んだ時を狙うのだ。
つまり、最適な武器は回避中に溜めを継続できるビームジャベリンということになる。
画面を覆い尽くすほどの攻撃を、遊は次々に回避した。
そして武器が引っ込んでいくタイミングで、最大溜めのジャベリンを放つ。
黒船皇帝は画面の上部を占めているから、実に当てやすい。
さて、そろそろ黒船皇帝の化けの皮が剥がれてくる頃合いだ。
『来い、第二形態!』
※
『余の剣をこれほどまで避けるとは!! 一つの艦隊をも容易に沈めるような攻撃の連撃ぞ! ただ一機の戦闘機がこのような力を発揮していいはずがない!』
武器を戻し、再度の攻撃を放とうとした黒船皇帝の眼前に、既にメイガスがいる。
何度も己に突き立ててきたビームの刃が、強く輝いていた。
『おのれ……! この姿では勝てぬというのか! この、余が!!』
ビームジャベリンが飛来した。
それは正確に黒船皇帝の頭部を射抜く。
『ウグワーッ!! だが! だが!! これは余の外装を剥いだに過ぎぬ!! こんなものでは! 余は倒せぬぞ!!』
漆黒の影のようであった黒船皇帝の巨体が揺らぐ。
それは宇宙空間に溶けるように消え……。
次に現れたのは、宇宙戦艦だった。
三角錐状の船体は漆黒で、あちこちから金色の輝きを放っている。
『勝負だ、第二形態』
メイガスからは不敵な声が聞こえる。
『この姿をも知っているというのか! うぬはどこまで……どこまで余を舐めれば気が済むのか!! かーっ!!』
船体の全身が展開した。
それは、ビーム砲塔の塊である。
輝きが放たれ、長く長く伸び、その途中にあった小惑星を次々に破砕、蒸発させる。
その光は死そのものである。
無数の数の死が、メイガス目掛けて降り注いだ。
だが、この隙間を正確にメイガスがくぐり抜ける。
既にその武器は入れ替わっていた。
ビーム砲を合間を次々に抜けながら、レーザーが黒船皇帝の船体を穿つ。
『ウグワーッ!!』
砲塔が爆発する。
攻撃を掻い潜りながらの正確無比なレーザーは、着実に黒船皇帝を追い詰めていく。
ついに全ての砲塔を破壊され、黒い船の全身から火が吹いた。
船が落ちる……!
だがしかし。
『よもやこの姿を晒すことになるとはな……!』
戦艦の爆炎の中から飛び出したのは、漆黒の戦闘機。
メイガスより一回り大きいその姿こそが、黒船皇帝の本体だ。
一見して小さなそのボディには、今までの黒船皇帝の肉体を動かしていた動力が搭載されている。
即ち、戦闘機サイズでありながら大艦隊をも凌駕するエネルギーを持っているということだ。
『来いよ、黒船皇帝』
『強がりを!! うぬがこの姿をも知っているなど、有り得ぬからな!! ぬわあーっ!!』
戦闘機は凄まじい速度で飛翔する。
亜光速の飛行だ。
聖王国の技術であれば、レーダーであっても捉えられまい。
そして飛行しながら、全身からエネルギーを光弾として吐き出す。
周囲一帯を埋め尽くす光弾。
さらに、縦横無尽に飛び回る皇帝。
的は小さく、そして速く。
さらに攻撃は苛烈に、とめどなく戦場を埋め尽くす。
この姿を見せた相手はほんの僅かだ。
だが、その全てを皇帝は屠ってきた。
本当の姿の皇帝に勝てるものなどいないのである。
見よ、敵の戦闘機も翻弄され、ついてくることすらできない。
このまま光弾の雨の中で、朽ち果てるが良い!
うぬに逃げ場などない!!
皇帝は得意の絶頂だった。
それ故に、判断が遅れた。
メイガスはこの光弾の雨の中を前進していたのである。
亜光速の皇帝からすると、その速さは止まっているようなものだ。
だが、遅いからこそできることがある。
それこそがこの機体の真骨頂だった。
思い返してみよ。
この機体がどうして被弾しなかったのか?
遅いがゆえに、敵の全ての動きを見ることができた。
だからこそ、攻撃の隙間が分かる。
今、メイガスは光弾の間を、針の穴に糸を通すような小さな小さな隙間を、正確に正確に動きながら突っ切っていく。
まるでこの先に、皇帝が待っていると確信しているかのように。
果たして……。
空間を飛び回り、光弾をばらまき続けていた皇帝は、まるで誘い込まれるようにそこにやって来た。
レーザー砲の光り輝く、メイガスの眼前に。
『なっ!?』
亜光速の速さ故に、己の動きを把握しきれなかった皇帝。
そこに、レーザー砲が叩き込まれた。
『ウグワーッ!? おのれっ、おのれーっ!!』
慌てて飛び去る。
戦場を縦横に飛び回りながら、超高速でメイガスから遠ざかる……。
だが!
『ウグワーッ!? 攻撃が!? なぜだ! 余は奴めから距離を取り……!!』
レーザー砲は照準されたままだ。
亜光速で動き回る皇帝がどこに逃げるのか、理解しているかのように追尾してくる。
『なぜだ! ウグワーッ!! なぜ、なぜ狙いを外せぬ!! 余は亜光速で……!!』
レーザー砲は光である。
即ち、レーザーの方が速い。
そして今、メイガスは弾幕の中央にいた。
ここであらゆる光弾を回避しながら、正確に、正確に。
ただひたすら正確に、皇帝を狙い続ける。
『ウグワアアアアアアアッ!! 貴様は! 貴様は!! 貴様は一体ぃぃぃぃぃぃ!! 余は余はこんなところで! こんな辺境の星系で、誰とも知れぬ戦士に倒されるなどと……!! せめてっ、せめて貴様の名を……』
皇帝の視界に、三文字の言葉が飛び込んできた。
YOU
『そっ! それがお前の……!! ウグワアアアアアアアアアアアッッッ!!』
皇帝はレーザーの熱で白熱化しながら飛び回った。
既に己をコントロールできない。
どこまでもどこまでも飛ぶ。
そして遥か彼方まで飛翔した後、周囲一帯を巻き込む大爆発を起こしたのだった。
ブラックシップ・トルーパーズ全ての機体が沈黙。
かくして、メイガス・バレットの戦いは幕を閉じる。
『ここから、本来ならエンディングなんだけど』
遊は呟いた。
まだ、彼にはやることがある。
そしてここからは、ゲームの中では起こらなかったこと。
自ら、ゲームの世界を崩しに行くのだ。
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