表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/70

第2話 PRESS START BUTTON

 ブラックシップ・トルーパーズと呼ばれる艦隊の襲撃は一瞬だった。

 漆黒の船団がアストロナス宙域に出現。


『全面降伏か、死か。どちらかを選べ』


 一方的な通告を、聖王国全域に行ったのである。

 そのような話など言語道断だ。

 受け入れられるわけがない。


 第一、突然現れてそんな事を言うとは何を考えているのか。

 交渉の余地はないのか?


 聖王国側が、抗議の意を示した瞬間……。

 ブラックシップ・トルーパーズは攻撃を開始したのだった。


 エーテル宇宙に、光が満ちる。

 空を焼き、触れたものを蒸発させるビームの輝きだ。

 それは聖王国の艦を直撃すると、巨体を真っ二つにへし折り轟沈させる。


 迎撃のために出撃するのは、聖王国の戦闘機メイガスシリーズ。

 対するはトルーパーズ側が放つ数々の怪マシン軍団。


 小惑星の合間を縫って駆ける、巨大な鋼のムカデ。

 そのあまりにも硬い表皮には、メイガスのビーム機銃が通用しない。


『な、なんだこの化け物はーっ!!』『は、速い! 追いかけてくるーっ!!』『ウグワーッ!!』


 三機編隊のメイガスが、鋼のムカデに貫かれて爆発した。


『がははははははは!! 貧弱貧弱貧弱!! 機甲宙蟲きこうちゅうちゅうセンティピーダー!! 一番槍ぃぃぃぃっ!!』


 鋼のムカデが突進する。

 無数の足でメイガスを叩き潰し、大アゴが戦艦の先端を食い破って破壊した。

 大爆発の中を貫き、宇宙を駆けるムカデの威容が輝きに照らし出される。


 バラバラになって宙域の戦闘機に衝突して叩き落とし、再び合体して哄笑するセンティピーダー。


 悪夢のような光景だった。


 そしてまた……。

 傍らで星々が瞬いたように見えたら……それら全てが砲門となって火を吹いた。


『な、なんだーっ!?』『小惑星帯と同じ大きさの超巨大戦艦!?』『こ、こんな馬鹿げたものが……!』『ウグワーッ!!』


 メイガスと艦隊を次々に火球に変えながら、異常な程の巨大さを誇る戦艦が姿を現す。


『ただ一隻のみで第三艦隊を構成する、この自走衛星戦艦バックノヴァ!! 皇帝陛下も人が悪い。我らだけでこの星の征服は事足りよう。しかし、それだけでは遊び甲斐がないゆえに、弱小の他艦隊を派遣なされたのか』


 衛星軌道上まで後退を余儀なくされた聖王国艦隊。

 だが、そこにもブラックシップ・トルーパーズの魔の手は到達していた。


『ば、馬鹿な! 既に敵性人工衛星が軌道上に……!!』『その中心にいる、あのバカでかい目玉はなんだ!?』『ああっ、まぶたが開く……!!』『輝きが……!!』『ウグワーッ!!』


 巨大な眼球から閃光が放たれ、それを人工衛星群が増幅し、天を覆い尽くした。

 それは聖王国から、唯一人も逃すまいとする敵性バリアーである。

 触れた聖王国艦隊が次々に爆発をした。


 もはや何者も、聖王国へと帰ることは出来ず、聖王国から出ることも出来ない。


 バリアの発生源である、巨大な眼球状の人工衛星。

 それはキューッと三日月状に目を細めた。


『ホホホホホ……! 天眼魔球バリガンダー!! 一匹も逃しませんよ! 皇帝陛下の降伏勧告を蹴った愚か者には、死、あるのみですからねえ!!』


 衛星からは地上に向けて、ビームの雨が降り注ぐ。

 それによって、聖王国各地が壊滅的な打撃を受けることになる。


 状況打破のため、聖王国からは船が浮上しようとするのだが……。


『艦長! 甲板上に何かが立っています!』『何かだと!? 報告は正確に行え!』『その……。槍を装備した全高16メット(メートル)の……機械の巨人が……!!』『な、なにぃっ!?』


『愚かなり。寛大なる皇帝陛下の言葉に異を唱えた時、貴様らの命運は尽きたと知れい! 我ら銀甲騎士団。貴様らには僅かな希望も残さぬ。騎士団、抜刀!!』


 十六体の、武器を装備した機械の巨人が出現する。

 それらは、発進した迎撃機の射撃を盾で防ぎ、あるいは得物で切り落とす!


 返す刃が、あるいは巨大な矢が、大鎚が、機体群を叩き落とした。

 そしてまるで首を跳ねるように、艦橋は飛ばされた。


『ウグワーッ!!』


 宙を舞った艦橋を、銀甲騎士団の指揮官機が一刀両断する。


『愚かなり!! 貴様らは絶望とともに地を這い、そのまま死ぬ以外の道は残されていない!! 我らの名を聞いて冥土の土産とするが良い! 我らは最強! 皇帝陛下の剣! 無敵の銀甲騎士団なり!!』


 次々に陥落する、聖王国の都市。

 まさに、瞬きするほどの間である。


 悪夢のような戦いだ。

 ほんの少しの反撃も許されることなく、聖王国は王都まで押し込まれてしまっていた。


「なんということだ! ブラックシップ・トルーパーズ……黒船帝国だと!? 何者だというのだ!」


 国王は焦りとともに叫ぶ。

 彼の前には、大型のテーブルに映し出された戦場勢力図が表示されていた。

 赤が敵、白が味方。


 表示は真っ赤だ。

 一面の、赤。


 白は一箇所のみ。

 即ち、聖王国の王都。


「王都以外が全て落とされたというのか!? なぜだ! なぜ、抗うことができぬ!」


「お父様、技術力があまりにも……あまりにも違います……! 世代にして……およそ十世代は先を行っているのです……。いえ、それ以上かも知れません」


 王に言葉を告げたのは、まだ年若い女性だった。

 少女と言っていいだろう。


 聖王国の王女にして、特級技官でもある彼女。

 セシリア・タカチホ。


 黄金の美しい髪を、今は一つにまとめ、作業服に身を包んでいる。


「お父様……いいえ、国王陛下、どうか避難を! あなたと私がいれば、まだ王国は負けてはおりません。彼らは降伏を受け入れません。今はただ、命を繋ぎ、彼らと戦う術を探る時……!」


「セシリアよ! このまま負け通しでいいと言うのか!? この千年の歴史を持つ聖王国が! こんな、たった数日で滅びようというのに……!」


「陛下!! どうか、冷静に……!」


「冷静でいられるものか!! トップエースのユータも、タカシ将軍も皆死んだのだぞ!? 我が国にはもう戦力など残されてはいない! わしが避難したところで、反撃の目などないのだ……!! ならば、せめて一矢報いて……!」


「陛下! お気を確かに!! 残された戦力はプロトタイプのメイガスが一機……! パイロットとして戦えるものは、僅かしかおりません! ですが、ですが……!」


 気休めだと分かってはいても、セシリアはそう言うしか無かった。

 性能で劣り、使用にもクセがあるプロトタイプ・メイガス。

 ただ一つの利点は、戦闘を行って敵を撃墜することで、そのエネルギーを回収できるというものだ。


 これによって、継戦時間は理論上無限大となる。

 だが……。

 技術力で圧倒的に勝り、物量にしては比べ物にもならぬ敵軍を相手に、たった一機でどうやって戦えと言うのか。


 それでも、諦めるわけにはいかない。

 これまで戦い、散っていった聖王国の人々のためにも、諦めるわけにはいかないのだ。


 そこへ、無情にも絶望が舞い降りる。


『おやおや、聖王国はついに反攻の力を失ってしまったようですなあ~!!』


 いやらしい男の声が聞こえた。

 下卑た響きだ。


 城の窓から、その姿が見える。

 無数の触手を生やした、半円状の巨大な船だ。


 今も、触手は王都の街を破壊していっている。

 逃げ惑う人々を叩き潰し、あるいは弾き飛ばし。

 殺戮を楽しんでいるようだ。


 触手の周囲には、ブラックシップ・トルーパーズの戦闘機群。

 既に敵などいなくなった王国の上空を、我が物顔で飛び回る。


「お、お前は何者だ!!」


 国王が叫んだ。

 触手戦艦から、半笑いの声が返る。


『死にゆく小国の王なれど、問われたからには名乗りましょう。みどもは八腕鉄蛸はちわんてっしょうオクトパリス!! 第六艦隊を率いておりますぞ! 冥土の土産にはなりましたかなあ!』


 次の瞬間、触手が伸びた。

 巨大なそれが、城を突き崩す。


「セシリア、危ない! ウグワーッ!!」


「お、お父様ーっ!!」


 国王はセシリアを突き飛ばし、触手に打たれて粉砕された。

 さらに、触手は屋内で暴れ、床を破壊する。


「ああーっ!!」


 落下していくセシリア。

 落ち行く先には、彼女の研究室がある。


 そこには、ただ一機だけ残された聖王国の戦力が。


「くっ……!」


 セシリアはすんでのところで、作業服に装備されていたフックを起動させた。

 それは壁に引っかかり、彼女の落下を軽減してくれる。


 ようやく床に降り立ったところで、セシリアの足は力を失い、崩れ落ちた。


「ううう……お父様……! お父様まで……! みんな、みんなやられてしまう! 聖王国が滅びてしまいます……!! 誰か……誰か……! 戦える方はいないのですか!」


 セシリアは通信機に走った。

 広域通信で、呼びかけようというのだ。


 無駄とは分かっていても、やらずにはいられなかった。

 通信は寸断され、聖王国の宙域へは何者も到達することができない。

 ヘルプ信号を発することすらできない。


 だが、通信機にすがりついたセシリアは叫んでいた。


「助けて下さい! 聖王国は今、黒船帝国によって侵略されています! あなたが……あなただけが希望なのです!」


『ははははは! 命乞いですかなあ! 無駄! 無駄無駄無駄無駄!! あなたがた聖王国は! 今、ここで滅びるのですぞぉぉぉぉぉ!!』


 オクトパリスの笑い声が響く。

 触手が研究室の上で暴れまわっている。


 ここまで到達するのも時間の問題であろう。

 聖王国はこのまま、滅びるしかないのか……?


「諦め……られるものですか……!! 私は、あがきます……!! 誰か……! 誰か聞こえていますか! 希望を……! 聖王国を救う希望を……!!」


 オクトパリスの嘲笑う声が高くなった。

 もはや王城は崩落寸前。

 城内で生きているものは、セシリア唯一人だけ。

 救いなど絶対に来ない。

 そのはずだった。


 だが。


 その時、世界に響き渡る音がある。


 カランッ。

 チャリーン。


『なっ、なんだ!?』


 オクトパリスは空を仰いだ。


『何ッ!?』


 銀甲騎士団は、言い知れぬ感覚に身震いする。


『なんですってぇ!?』


 バリガンダーが目を丸く見開く。


『何だ、この音はっ!? あれは……あの表示はなんだ!!』


 バックノヴァが異変に気付いた。


『なんだ!? なんだというのだーっ!?』


 センティピーダーは何も理解できていない。


 そして艦隊の最奥。

 ブラックシップ・トルーパーズを指揮する、黒船の帝国の皇帝が唸った。


『世界の修正力だとでも言うのか? 馬鹿な。この期に及んで、オーバーロードの艦隊を相手に小さな惑星一つが何をできる』


 何も出来まい……!!

 皇帝はそう呟いた。

 まるで、そうなって欲しいと願うように。


“PRESS START BUTTON”


 空にそんな文字が表示されていた。

 それは、聖王国に関わる全ての者、そして全ての敵の目に映った。

 場所も高度も関係なく、誰もがその文字を目にした。


 点滅する文字が一瞬強く輝く。


 START!


「……メイガスが……メイガスのエンジンが入って……!?」


 今ここに、絶望の聖王国に、救世主が降り立つ。

イカれた各ステージのボスたちを紹介するぜ!


お読みいただきありがとうございます。

面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
グラディウスやりたくなるなあ
完璧な導入と感心するがどこもおかしく無い。 続きが気になりすぎる…ッ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ