第19話 5thSTAGE 皇帝御前・小惑星帯
黒船皇帝は目を覚ます。
眼の前で今、彼の懐刀とも言える戦士と、聖王国から現れた謎の戦士の戦いが行われようとしていた。
『ほう……。ここまで攻め上がって来たか。星から離れることも出来ぬ下級種族の割にはやるようだ』
オーバーロードと言われる、惑星の重力に縛られることが無い超種族。
それが黒船皇帝だった。
圧倒的な力を持つ彼は、己の帝国を築き上げ、ただひたすらに宇宙を突き進んだ。
知的生物の暮らす惑星を見つけては侵略し、滅ぼす。
また新たに惑星を発見して滅ぼす。
この繰り返しだ。
目的などはない。
遠い昔はあったのかも知れない。
だが、今はそれも忘れてしまった。
理由をつけ、宣戦を布告し、圧倒的な武力で滅ぼす。
一方的な殲滅戦争こそが、黒船皇帝の存在理由だった。
それが今、己の御前とも呼べる場所まで侵攻を許している。
騎士団は全滅した。
バリア発生装置は全てが砕かれた。
忠実な剣と認めていたバックノヴァも破壊されている。
前代未聞のことだ。
黒船皇帝は、手勢の全てを失いつつある。
『なんともはや、長く生きては来たが……このようなことは初めてだ』
眼の前では、センティピーダーがその無敵の肉体を嵩に着て、どんどんと敵を追い詰めていっている。
敵は軍勢ではない。
ただ一機の、旧式としか思えぬ戦闘機だ。
それが、黒船帝国の軍隊、ブラックシップ・トルーパーズの主戦力を壊滅させた。
これもまた前代未聞。
皇帝は見たことも聞いたこともない。
あんな、触れれば砕けてしまうような脆い戦闘機が、己よりも遥かに強力な戦機群を無傷で蹴散らしてきたとは……!
『だが、ここで終わりだ。無敵の外皮を誇るセンティピーダーは余が手ずから生み出した破壊兵器。遅れた文明の火器がこれに傷一つでもつけることは叶わぬ……!』
事実、小惑星帯を駆け回るセンティピーダーに、戦闘機はなんら有効な打撃を与えられていないように見えた。
……否。皇帝は気づかなかった。
その戦闘機……メイガスはただの一発たりとも、センティピーダーに向けて射撃をしてはいなかったのである。
※
『仕込み完了。ラスト直前でギミックステージだもんなあ。初めての頃は面食らったよ。だけど今は慣れたもんだ』
周囲に浮かぶ、小惑星要塞の破片。
それらは全て、まだ生きていた。
小惑星要塞そのものが、AIの群体に管理された無数のパーツの集まりなのだ。
これにエネルギーを送り込めば、活動を再開する。
例えば……。
接近してきた敵機への攻撃を行うとか。
『逃げるなぁーっ!! どれほど逃げても追いかけるぞぉー!! それにこのセンティピーダーの方が貴様よりも速ぁぁぁい!! 大人しく観念しろぉぉぉぉっ!!』
準備が整ったその場に、センティピーダーが飛び込んできた。
『わははははは!! 皇帝の処刑人センティピーダー! 今ここで、貴様を処刑してくれるわぁぁぁぁぁ!!』
この鋼のムカデは、そこが自分にとっての処刑場であることに気付かない。
メイガスが射撃を開始した。
ビーム機銃はセンティピーダーに向かい……。
僅かに外れて行った。
『ぬははははは! 恐怖から狙いを誤ったか! 先程から、小惑星要塞の破片ばかり撃ちおって! 無意味なことばかりする余裕なぞ無い……』
背後にあった小惑星要塞の破片が、射撃を開始した。
ビーム機銃のエネルギーを吸収し、センティピーダーに反射的な攻撃を行ったのである。
『ぬおっ!? なんだ!? わしは味方ぞ!? よもや、処刑された事を恨んで攻撃か! 生意気な!! かーっ!!』
センティピーダーの顎が開き、そこから強烈な閃光が飛び出した。
宇宙空間を薙ぎ払うビームは、小惑星要塞の破片を今度こそ、何の機能も残らぬ瓦礫に変える。
だが、その時には既に、さらに破片が二つ起動していた。
センティピーダーにビームによる射撃の雨を降らせる。
『貴様も! 貴様らもか!! 身の程というものを……』
センティピーダーの視界の端で、ビーム機銃の光が閃く。
それは小惑星要塞に突き刺さるとそれを強制起動。
射撃がセンティピーダーへと降り注ぐのである。
ムカデは全てを理解し、激昂した。
『きっ、きききききっ!! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!! 誇り高き我ら帝国の要塞を! 手足のように使って同士討ちをさせるかーっ!! 卑怯、卑劣、なんたる邪悪!! 許してはおけぬ!!』
全ての攻撃を無視して、メイガスに攻撃を……と思うが、己に向けられているのは黒船帝国の誇る火器である。
生半可な攻撃は装甲を抜けぬとは言っても、装甲と装甲の隙間に当たる可能性もゼロではない。
センティピーダーは己を襲う攻撃を無視できなかった。
『わしの手で仲間を倒させるつもりか! いや、既にわしが処刑した者たちではあっても、処刑を二度やらせるとはなんたる恥辱か!! ぐおおおおおお! 許さん! 許さんぞカトンボーッ!!』
そのカトンボ……メイガスが、気付くと小惑星要塞の影に隠れているではないか。
『貴様ぁ! そこから攻撃をすればわしが届かぬと思うたかあ!! 馬鹿め馬鹿め馬鹿めーっ! かーっ!! 分離攻撃!! セパレーション!!』
その瞬間!
センティピーダーがバラバラになる。
その全てが小惑星要塞目掛けて一瞬で飛来し、粉々にする。
もちろん、影に隠れていたメイガスも……。
いない。
メイガスは攻撃と同時に、センティピーダーが開けた穴をすり抜けて前方に飛び出していたのである。
接触ギリギリという距離で、センティピーダーのボディとすれ違うメイガス。
前方には、戦場に残ったセンティピーダーの胴部。
『なんだと!? 貴様まさか、これを狙って! ええい、戻れ戻れ!!』
猛スピードで戻って来る、センティピーダーのボディ。
全てがメイガスよりも速い。
そして戻り際に攻撃を加えんと、直撃コースでやって来る。
これをメイガスはギリギリで回避しつつ、前進を続けた。
最後に飛来するのは、センティピーダーの頭部。
これがメイガスを大顎で挟まんと大きく口を広げ……。
『ブレーキ!』
遊は急停止を掛けた。
センティピーダーを掠めながら、その場に留まる。
頭上を飛び越えていったムカデの大顎は、勢い余って己の胴部にぶつかってしまった。
『しまった!!』
焦りの叫びが漏れる。
センティピーダー最大の破壊力を持つ大顎を自ら喰らっては、無敵の装甲も持たない。
一部に大きな亀裂が生じた。
メイガスは既に動いている。
亀裂目掛けて、正確無比のビーム機銃射撃。
ここにきて初めて、メイガスはセンティピーダーへ攻撃を行ったのである。
そして亀裂の奥にあったのは……。
鋼のオオムカデ、センティピーダーの肉体で、唯一の弱点。
コアである。
『なんっ……!? まるでっ! こ、こにっ! 亀裂、できることをっ! 知ってたようにっ……!! わ、わ、わしはまさかっ! こやつの、手のひらの上でずっとっ!! こここ、皇帝陛下、申し訳ございませぬーっ! このセンティピーダー、まさか処刑場に送り込まれるとはーっ!!』
絶対に破れぬ無敵のボディに、逃げ場などない。
そして亀裂が生じ、ひしゃげた肉体は分離命令を聞いてはくれなかった。
コアは瞬く間に穴だらけになり……。
『ウグワーッ!! ウグワワワーッ!!!!』
絶叫とともに、センティピーダーは内部から爆発。
粉々になったのだった。
『ぬうううううう!! ぬうううううううう!!』
唸り声が聞こえてくる。
真っ暗闇からだ。
そこだけ、宇宙にあるはずの星の輝きがない。
そこは闇なのではない。
そこに、皇帝がいたのである。
ついに最終ステージ。
黒船皇帝が姿を現す。
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