第18話 飛び込めラスト一歩手前
「次で最後なのですか? つまり、黒船帝国の皇帝との戦いが……」
「実はあと1ステージだけあるんだ。ムカデのお化けみたいな分離合体を繰り返すやつと戦うステージ」
「まあ! そんな相手がいるという報告は受けていませんが……」
「ラスボス一歩手前なので、聖王国まで話が届いてなかったんだと思います。まあ普通にやると面倒な相手なんで……。ガワには攻撃が通じないし、コアの部分は動き続けてて、すぐに隠れちゃうし」
「はあ」
「ええと……つまり、ビーム機銃もレーザー砲も、ビームジャベリンも効かない」
「それは大変ではありませんか!! どうやって戦うのですか、遊!?」
「これはコツがあってね。だから小惑星帯が舞台なので……。まあ見ていて欲しい。すごく面白いステージだから」
「面白い……!?」
皇帝一歩手前、恐らくは、帝国の守りも最も厚くなっているであろう戦場を面白いとは……!
なんという豪胆な人なのだろうか。
日常の彼とは、全く別人だとセシリアは感心した。
店長が彼に見えないところで、頭の上でくるくる指先をやってる。
なんと失礼な。
ボディブローのジェスチャーをしたら、サササーッといなくなる店長なのだった。
「じゃあ、行こうか」
「はい! 参りましょう!」
遊がスタートボタンを押すところに、セシリアも指を伸ばした。
「えっ!?」
驚く彼を横目に、一緒にスタートボタンを押す。
世界がギュンッと加速したように感じた。
気付くと、あちらの世界の服のまま空母の中に立っている。
窓から見える周囲は、宇宙空間だ。
傷一つないメイガスが、眼の前に鎮座していた。
「本当に……。あれだけの戦いを繰り広げて、ただの一度の被弾も無いなんて……」
『当たったら死にますからね』
「それはそうですけども……」
彼の言葉からは、死の重さを感じない。
戦うのが怖くはないのだろうか?
いや、彼は戦うことそのものを恐れてはいない。
では、死が怖くないのだろうか?
戦いに臨む遊の顔を思い出す。
彼にも恐怖があるのだ……とはとても言えない。
多分彼は、死と勝利を天秤に賭けて、迷いなく勝利を掴もうとする人だ。
『それとセシリア、言うの忘れてたんだけど』
「はい」
なんだろうか。
出撃前に伝えるのだから、きっと大事なことに違いない。
身構えるセシリアに……。
『美味しい食堂があるんだ。帰ってきたら一緒に行こう』
「はい!? は、はい! 行きましょう!」
『良かった。美味しいからきっと気に入ってくれると思うんだ。じゃあ、出撃する』
「楽しみにしてますね! 遊、お気をつけて!」
メイガスが出撃する。
空母を飛び出すと、そこは一面の宇宙。
小惑星が無数に浮かび、その一部はブラックシップ・トルーパーズによって要塞化されていた。
そこから、次々に戦闘機群が出撃してくる。
どうやら空母は、何らかの力でステルス状態になっていたようだ。
メイガスには何の処理もされていないらしい。
おかげで、いい的だ。
要塞からの砲撃と、押し寄せる迎撃機による挟撃がメイガスを襲う。
『お陰で空母が安全でいられる。一安心だ』
リラックスした口調で呟き、遊は戦いを開始した。
飛来する迎撃機群を、射程に入るや否や連続撃墜。
どこに出てくるかが分かっているのだ。
そこにビーム機銃を適切なタイミングで置いておくだけでいい。
一編隊。
二編隊。
三編隊……。
『十六! このゲームの開発者、十六って数字が好き過ぎるよね』
十六の編隊を撃墜した。
これで即応できる迎撃機全てを落としたことになる。
要塞群がにわかに騒がしくなった。
警戒の光が瞬き、次々に砲台を展開してくる。
全ての迎撃機が落とされるなど、前代未聞である。
しかも敵機は単独の戦闘機。
被弾ゼロのまま、要塞群に迫ってくる。
そして当然のように、対空射撃がかいくぐられる。
肉薄したメイガスが、砲台を破壊。
そこから要塞の全ての火器を撃破し、最後に格納庫にレーザー砲を叩き込んだ。
内部から爆発する要塞。
ほんの一呼吸ほどの間である。
爆発する要塞を突き抜けたメイガスが、次なる要塞に攻撃を仕掛ける。
またも破壊、爆発。
破壊、爆発。
破壊、爆発……。
小惑星に陣取ったブラックシップ・トルーパーズの軍勢が、猛烈な勢いで駆逐されていく。
ついにその大部分が撃破された時点で、要塞群は撤退を開始した。
『さて、いよいよ出てくるか、合体ムカデ……』
遊が大きく伸びをする。
ここからがノンストップの戦いだ。
※
『なんということだ!』『衛星要塞がこうも容易く……!』『まるで要塞の弱点を知っているかのようだった……』『うう、通信機から流れてきた立て続けのウグワーが今も耳に……』『あれが、たった一機で戦況をひっくり返した、聖王国の戦闘機……!』『有り得ん……あんなものが存在していていいはずがない!』
移動する要塞群から、泣き言が漏れる。
彼らは死を恐れ、持ち場を離れたのである。
その職務怠慢を、皇帝は許さない。
宇宙のどこかがギラリと輝いたと思ったら、何か巨大なものが振り下ろされた。
『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』
要塞3つが、真っ向から両断された。
『げえっ!? 皇帝陛下の剣!?』『お許しください皇帝陛下!!』
そこに響き渡ったのは、下卑た笑い声。
『ならぁぬ!! 皇帝陛下の軍に、負け犬はいらぬぅぅぅぅぅ!!』
小惑星を渡りながら、巨大なムカデが出現する。
機甲宙蟲センティピーダー!
ブラックシップトルーパーズ最強の機動兵器である。
『げえっ、皇帝陛下の処刑人!!』『ええいムカデごときにやられるか!』『勝ってしまえば無罪放免よ!』『撃て! 撃て撃てーっ!!』
要塞群の射撃、砲撃!
だが、これらを受けて、センティピーダーが不敵に笑う。
そして猛烈な勢いで進撃を開始した。
『こ、こっちに来るなウグワーッ!!』
『一つ!』
要塞が食い破られる。
『ひいっ、逃げ……ウグワーッ!!』
逃げようとした要塞を、ムカデから分離した大顎が食い破る。
『二つ!!』
戻ってきた大顎が、ガシィーンッと合体した。
胴体の奥底で、コア部分がギラリと光る。
『ひいー、お助けーっ!!』『砲撃が、砲撃が効かぬーっ!!』『やはり皇帝陛下の処刑人は噂通り無敵……ウグワーッ!!』
負け犬共の処刑は済んだ。
センティピーダーは振り返る。
青き惑星、聖王国を背に、一機の戦闘機が彼と向かい合っていた。
『待たせたな、カトンボが! 同じ蟲同士、仲良くやろうではないかあ!』
これより第五ステージ本番。
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