第11話 インターミッション2
現実感の無いまま、ふらふらと帰宅する。
いや、昨日よりは現実感があった。
なにせ、昨日は隣にセシリアがいたのだ。
女性と一緒に帰ることなど、母親以外とではありえなかったことだ。
「うーん。凄いことになってしまっている気がする……」
頭の中を、さっき別れたセシリアのことが巡っている。
次に、明日攻略することになるであろう第三ステージのことでいっぱいになった。
「家に帰ってから、ちょっと復習してみるか……!」
完全に脳内は、メイガス・バレットのことでいっぱいになる。
今や古き良きドットシューティングゲームとなったメイガス・バレットは、遊の所持しているゲームアーカイブでいつでも遊ぶことができるのだ。
「まあ、緊張感はゲームセンターの方が段違いだけど。それに今回は、本当に負けられない」
素晴らしい緊張感に、ゾクゾクしてくる。
1クレジットでクリアする。
絶対に被弾することは出来ない。
この重みを存分に感じられる今は、遊にとって何よりも生を実感できるのだ。
本日は連れもいないので、適当にスーパーの安くなった弁当で済ませる。
飲み物はコーラにした。
祖父が糖尿なので、一応気にしてダイエットコーラ。
帰宅し、レンチンもほどほどに弁当をかきこみ……。
「やるぞ」
ゲームを起動した。
今日、明日と仕事の休みの日だ。
夜ふかしをしたっていい。
それに、ゲームセンタードリフトが現れるのは夜だ。
昼寝だってたっぷりできる。
ふと、ベッドの上に畳まれた女性用の服が目についた。
どこかに仕舞ってもいいのだが……。
なんとなく手を付ける気になれなくて、そのままにすることにした。
ゲーム機が起動する。
ネットワークに接続し、ゲームアーカイブを選択。
ここに登録されたレトロゲームは、一つあたりワンコインほどの値段で、半永久的に遊ぶことができるのだ。
「ワンコインとは言っても、五百円だけどね」
メイガス・バレットが始まる。
そこには、ドット絵のセシリアがいた。
以前は空気のような存在だったが、今は本物を知ってしまったせいか、なんだか意識してしまう。
ちょっと背筋を伸ばして、彼女のチュートリアルを聞いた。
一面、二面。
既に現実ではクリアした場所を、さらっとおさらいする。
操作ミスは無い。
今まで何百回、何千回とクリアしてきた場所だ。
そして三面。
聖王国宇宙港から打ち上げられ、上昇しながらの戦いになる。
背景が猛スピードで流れる演出は、自機の速度が変わらなくても、ハイスピードバトルを展開しているのだと実感させてくれた。
素晴らしい演出だと思う。
「そうか、これをセシリアは用意してくれるんだな」
メイガスが装備するロケットユニットは、二段ある。
一段目で加速し、戦闘フェーズに入るとそこをパージ。
二段目で再加速しながら、高速戦闘を行う。
まあ、ここで左右に小刻みな移動が可能なのだが……。
「あっ、いっけね」
セシリアの事を考えていたせいか、凡ミスをしてしまった。
回避が間に合わない。
「くっそ」
屈辱感を覚えつつ、ボムを使用する。
自機は減らない。
やがてボスとの戦いに突入し……。
勝利する。
「でも、現実になるとちょっと感覚は違うもんな。なんていうか……研ぎ澄まされる感じがある」
目を閉じて、戦いを思い出す。
聖王都上空。
そして聖王国宇宙港。
なぜか、戦闘を俯瞰で眺めることができていたが、それでも臨場感は凄まじいものだった。
これが宇宙に打ち上げられるとなると、どうなってしまうのか。
「楽しみすぎる……!」
思わずニヤニヤしてしまう遊なのだった。
ここから、何度かメイガス・バレットを通しで繰り返す。
そして目を閉じて、イメージトレーニング。
ここで攻撃が来て、こう。
ここで攻撃を避けて、こう。
何度も何度も頭の中で、第三ステージの戦いを繰り返すうちに……。
遊は眠ってしまったようだった。
夢の中で、今まで遊んできた色々なゲームがごちゃまぜになった世界を飛び回った気がする。
いつもの夢だ。
魔龍たちによる進撃に抗うため、自らも龍となって戦うファタンジーシューティング、ドラゴンソウル。
地獄と天国が混じり合った現実世界で、プレイヤーキャラとパートナーとなる天使や悪魔を選択、異世界のような都市群を飛び回る新宿アポカリプス。
などなど。
そして、ハッと気づくとゲームセンターの中にいる。
遊にとってのゲームセンターは、夕方から夜だ。
外の世界の暗闇と、眩いゲームセンターの中。
このコントラストが原初の記憶に焼き付いている。
外でジュースを飲んで一息ついて……。
さて、またひと勝負しよう。
そう思って店に戻る……。
そこで、ノックの音で目覚めた。
「おーい、安曇野!」
「あ、ああ」
目覚めた。
床で寝てしまっていたではないか。
昨夜は風呂にも入っていないな。
基本的に、一人だとゲーム以外のこと全てがおざなりになってしまう。
「安曇野ー! 寝てるのかー? おーい!」
「ああ、起きた」
ふらふらと、寝起きの足取りて扉を開けると、同期の塩辺がいる。
遊より一回り大きな体格で、人懐っこい男だ。
彼は遊が出てくると、頭越しに室内を覗いた。
「どうした?」
「あのさ、昨日安曇野の家に、すげえ美人いなかった?」
「いた」
素直に答えてしまう遊である。
腹芸なんてものはできない。
「やっぱり! あれって安曇野の彼女だろ? 外人と付き合ってるのかよー! ってか、白人って言うにはほんとに肌が白いし、鼻はデカくないし、なんかアニメキャラみたいな娘だったよな」
立て続けに言われて、混乱する遊だった。
まずは最初の勘違いと思われるところを否定しておく。
「彼女では、ない」
「嘘だろ!? 彼女じゃない美少女が、彼シャツで出てくるわけねえだろうが!! ……そうかー。安曇野もいっちょまえに嘘をつけるようになったんだなあ……」
「どういう立場なんだ、塩辺は」
「まあいい、飯食いに行こうぜ! 佐藤のばあさんの飯屋、空いてるからよ。ばあさん、朝早いもんだから自分のペースで店開けて、仕込みも終わってんのな。朝六時からオープンとか正気かよ」
塩辺の誘いに乗らなければ、自分はこのまま食事をしないだろうと思った遊。
このお誘いに乗ることにしたのだった。
「今夜のためのエネルギーチャージだ。やるぞ、聖王国解放」
小さくガッツポーズをする遊に、塩辺が「お? アニメの話か?」と適当な返事をするのだった。
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