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第九話 化け物になるために

 俺は部屋の中央にあるベッドに腰を掛ける。すると一番がお茶を運んできた。

 俺はそれを受け取り、一口だけ口を付けてカップを受け皿に戻す。


 すると俺の準備が整ったと判断したのか、一番は四番が居る方に目線で合図を送った。


「報告します。まず、確保対象である王女アイリスですが、城内にてその存在を確認する事ができました。今のところ王女自信に他国へ亡命する様な動きはありませんが、ラオニダス王が裏で動いてる可能性があります。

 次に、王城内の戦力ですが、城内に常駐している人間の数は二百名ほどです。しかし、その内の半数以上が使用人などの非戦闘員でした。

 おそらくは帝国との情勢の悪化を受けて、大半の兵は王都の守備に配置されているのかと」

「……報告はそれだけか?」

「――いえ、もう一つご主人様のお耳に入れたい事が……」

「続けろ」

「はい、私がご主人様の命令を受けてからのここ数日間で王城内の出入りがかなり激しくなっており……いただいた隠密スキルで情報を収集したところ、あと数日で王都が帝国軍との戦火に呑まれると……」

「それだけか?」

「――え……?」

「報告はそれだけかと聞いている」


 俺が再度問いかけると四番は冷や汗を流す。


「――え、えっと……」

「お前はここ数日、何をやっていた? 俺は王女の情報を集めて来いと言ったんだ。敵の数? 帝国軍? 知ったことか。

 王女は何を好み何を嫌うか、王女は毎日何をして過ごしているのか、王女の交友関係はどうなのか。いくらでも調べる事はあった筈だが?」


 四番の顔が次第に青ざめていく。


「――そ、その……も、申し訳ございません!!

 も、もう一度私にチャンス――――を……ゴホッ、ゴホッ!?!!」


 俺は四番のみずおちに右腕を貫通させると、四番は口から大量の血を吐き出した。


「チャンス? そんなもんねえよ」


 俺が右腕を引き抜くと四番は床に倒れ痙攣する。だがすぐにピクリとも動かなくなった。


「――ちっ……部屋が汚れたな……お前ら片付けておけ」

「――はい……」


 一番の返事しか聞こえないが、まあいいだろう。俺は硬直し震えるニ番と三番の間を通り部屋を出た。





 数時間後、部屋に戻ってきた俺は死体が片付いているのを確認すると、四人の女たちを見据えた。

 一番以外の顔が青くなっているのは、四番の死体を処理した影響だろう。死体なんて何回も見ただろうに、まだ慣れていないのか。

 

「……俺の前でその顔はやめろ。不愉快だ」


 俺の言葉を聞き、一瞬顔が引き攣るが、青い顔のまま三人は無理やり笑顔を作った。


「……まあいい。今から今後の方針を伝える。まず、王城への襲撃は明日の朝に行う。本当は最後のお楽しみにとっておきたかったが、帝国軍とやらにびびって逃げられても困るからな。

 そして俺と共に来る者は二番、三番、五番とする。王族以外の人間を全員殺せ。

 さっきの様にびびって動かなければ俺がお前たちを殺す。分かったな?」


 俺の問いかけに震えながらも、首を縦に振る三人。俺はそれを見て満足する。

 これでこいつらも多少は人の死に慣れるだろう。


「ご主人様、私はどうすればいいのでしょうか?」

「ああそうだった。一番、お前はこの宿でセレナを守れ。明日の朝もセレナは起きれないだろうからな」

「かしこまりました」


 一番は自分の役割を理解すると、それ以上追求せずに引き下がった。


「以上、解散だ。明日の朝までは好きにしていろ」


 四人が「はい」と返事をするのを後ろで聞きながら、俺は部屋を出てセレナが待つ隣の部屋へと向かう。ちょっと早いがセレナとのお楽しみタイムといこうか。





 スターが出ていった後、私は二番、三番、五番と話し合いをしていた。


「何度も言っていますが、死にたくなければご主人様を不快にされる様な行動は控えてください」

「――すみません……」

「気持ちは分かりますが、慣れるしかありません。明日はあなたたちが自分の手で死体を作るのですよ?」


 自分が人を殺す光景を想像したのか、顔を青くする三人。五番に至っては嗚咽し、今にも吐き出しそうだ。


「いいですか。少しだけあなたたちよりご主人様の女として長く過ごした私からの助言です。二度は言いません」


 まだ覚悟が決まっていない三人にスターの女として生きていくため、生き残るための術を教える。


「心を捨てなさい。この先、人間のままでいる事はできません。ありとあらゆる感情を捨て去り、ご主人様に言われた事だけを忠実に遂行する人形となるのです」


 人間の心を持ったままではこの先、長くはもたない。

 化け物の女として生きていくには自分も化け物になるしかないのだ。


「あなたたちは家族を殺されたのに、のうのうと生きる事を選んだのです。なら、人間を捨てるぐらいの事はやりなさい」


 地獄を見て、死を恐れ、家族の仇に屈した。 

 その代償は、払わなければならない。


「分かりましたね?」

「はい!」


 そう簡単に化け物になる覚悟は決まらない。私だってまだ化け物を装っているだけだ。

 だが、私の助言で三人は何かが吹っ切れたのかさっきよりは幾分かマシな顔をしている。


「それでいいんです」


 同じ境遇を共有する彼女たちが少しでも長く生きられればいいと、そう願うばかりだ。

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