表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/16

第十五話 全裸の少女

 空中にて固まる聖竜、竜に人間と同じ表情があったのなら、さぞかし酷い顔をしていることだろう。


「――馬鹿な……」

「なんだ? もう万策尽きたのか?」

「……人間風情が……図に乗るでない……!!」


 ヤケになったのか、俺に向かってその身一つで突っ込んでくる聖竜。


「潰れて死ぬがいい!!!!」

「馬鹿が」

「――ガハッ!?」


 俺は突っ込んでくる聖竜を角度を付けながら反射させ、民家に向かって吹き飛ばす。


 瓦礫の下敷きになる聖龍。


「もう分かっただろう? お前じゃ俺には勝てない。

 さあ、さっさと奪った生気を元に戻せ。

 大人しく返すなら俺のペットとして城で飼ってやってもいい」


 俺は瓦礫の中で大の字に倒れる聖竜を見下ろし、そう交渉する。


「はっ!! 薄汚く脆弱な人間の手に落ちるくらいなら死んだ方がマシじゃ!! 殺すならさっさと殺すがいい!!」


 聖竜はそっぽを向き不貞腐れた態度を取る。


「強情なトカゲだぜ。なら仕方ないな。お前には死よりも辛い屈辱を味わってもらう」


 俺は竜の体に手のひらを当てる。すると触れた場所が輝き始める。


「俺のスキルは反射だけじゃないのさ」

「何を――――おっおっおっおおおおおおおおおお!!!??!」


 魔法書で得た、神殺し、反射に次ぐ三つ目のスキルを使う。それは、自信が触れた生物を若返らせるスキルだ。


「――妾が妾でなくなっていく……!!?」

「このスキルは精神にも作用するからな。早く生気を戻さないと身も心もガキになって、最後にはお前という人格そのものがなくなるぞ」

「――ぐぅ…………ま、参った……」

「何だって?」

「――だから……! 降参すると言ってい――あああああああああああ!!!?? 妾の体が――!?」

「――は……?」


 小さくなっていく聖竜の体が突如として爆発する。

 あたりには白い煙がもうもうとし、何も見えなくなる。


「お、おい……死んだんじゃないだろうな……?」


 生気を取り戻すために、この強情な竜をギリギリまで追い詰めようとしたのだが、まさか爆発するとは――

 

「……まずいな」


 あの聖竜から生気を取り戻せなければ、俺が集めた貴族令嬢たちも、この国の人間も全員死んだままだ。

 俺は瓦礫に座り、途方に暮れる。


 次第に辺り一面を覆っていた煙が晴れていった。


「――誰だこいつ……」


 するとそこに聖竜の姿はなく、代わりに全裸の少女が寝息を立てながら瓦礫に倒れていた。


「おい、おいガキ! 起きろ!」

「――ふにゃ……?」


 眠っている少女を揺らし無理やり目覚めさせる。目を擦りながら起き上がる少女は俺を見てギョッとする。

 すると何かを確かめる様に自分の体をペタペタと触り始めた。


「――わ、妾の……妾の美しい竜の姿が……も、戻っているのだぁぁああああああ!!?!」


 驚きの声を上げる少女。

 まさかとは思ったが――


「――お前があの竜なのか……?」

「そうなのだ!! お主のせいで、竜へ変化する前の竜人の、それも子供の姿にまでなってしまったではないか!? あの姿になるのに一体何千年かかると思って――きゃあっ!?」


 俺は少女の首根っこを掴み、持ち上げる。


「ならさっさと生気を元に戻せ。このまま消滅させてやろうか? ん?」

 

「わ、分かったのだ! 分かったからもう離すのだ!! この、は、はなせー!!」


 俺の腕の中で暴れる少女。

 あの大きな竜の面影は微塵もないが、この傲慢な態度と妾という一人称は間違いなくあの聖竜だ。


「――はぁ……はぁ……こんな痛いけな少女の姿になっても容赦がないのか主は……」


 俺の腕から逃れた少女はぶつくさと悪態を吐く。


「ほら! 生気を元に戻してやったぞ!」

「何もしてないように見えたが?」

「妾が国中から生気を奪った時も目に見える様な変化はなかったであろう」


 確かに俺は城の奴らが倒れているのを発見するまで、異変に気づかなかった。

 なんならこいつから聞いただけで、本当に王国の人間全てが生気を失ったのかも分かっていない。


「わかったら早く妾を元の姿に戻すのだ」

「それは無理だ。俺は生物を若返らせることは出来るが老化させることはできん」

「――え……」


 目を見開き絶句する少女。

 何を驚いているんだこいつは。若返りが出来るならその逆である老化もできると勘違いしていたのか? 

 残念ながら俺のスキルは年齢を自在に操ることができるほど万能ではない。


「そもそも生気を戻せば、お前を元の姿に戻すなんて一言も言っていないしな」

「――だ、だまされたのだーーー!!」

「騙してない」

「この姿でこの先どうやって生きていけというのだ!? あの姿でなければ住処がある竜の巣にも帰れないし……びええええええんんん!!!!」


 少女は地面に大の字に寝転がるとジタバタと四肢を振り回し大泣きし始める。

 スキルの影響で精神年齢まで幼くなっているせいか。


「……うるせえな。今すぐ泣き止まないなら殺すぞ」

「――ぐす……ぐす……」


 俺が脅すと少女はピタリと泣き止み鼻を啜り始める。

 こいつ……嘘泣きじゃないだろうな。


「……お前その姿では何もできないのか?」

「……羽を生やすことは出来るのだ……」


 少女は背中に羽を生やし、パタパタと動かして見せてくる。

 

「飛べるのか?」

「――飛べるけど……この姿だと短時間しか無理なのだ」

「ほう……他には? あのふざけた破壊力の熱線とかは出せないのか?」

「――ファイヤーブレスのことか? 生気を吸い取れれば、できなくはないけど……大した威力は出ないぞ? せいぜい民家を消し炭にするぐらいだ」

「それなら十分利用価値はありそうだな。

 ちょうどいい、戦闘能力に秀でた女が欲しかったんだ。俺と来い」

「――え!? いいのか!?」


 少女は興奮した様子で目をキラキラとさせる。 

 尻尾があったのなら犬のように振っていそうだ。


 期待してた剣姫はしばらく使い物にならなさそうだし、適当なスキルを与えた貴族令嬢よりは役に立つだろう。

 それによく見れば容姿もそれなりに整っている。人間ならあと数年もすれば俺の妻に相応しいだけの美貌へと成長するだろう。

 まあ、竜がどれぐらいの速度で成長するのかは知らんがな。


「未来の妻への先行投資だ」

「――ツマ……? もしかして……(つがい)のことか?」

「そうだ」

「聖竜である妾と、妾以上の強さを持つ主が番になる……それは……最強の竜の子が生まれるということだな!!」

「俺は人間だから人間と竜との混血になるがな」


 まあ、俺の強さの根幹はスキルによる後付けなので、俺の血は最強への不純物でしかないだろうが。


「主と(つがい)になる!!」


 軽すぎる。今から一緒に遊びに行くぐらいのテンションだ。こいつ体よりも精神がガキすぎないか? そもそも人間の手に落ちるぐらいなら死んだ方がマシだ! とか言ってた気がするが。

 それだけ若返りのスキルは精神への影響が凄まじいということか。

 今後、自分や女たちに使う時には注意して使わなければ。


「まあいい。時間はたっぷりある。俺を愛する事ができる様になるまで、じっくり待ってやるか」


 幸い、若返りのスキルで歳を取らないので、このガキが大人になるのに数百年かかろうが問題はない。


「アイはわからないけど、主は人間なのに妾よりもずっと強いオスだから好きだぞ?」

「そうかよ」

「そうなのだ! メスは強いオスに惹かれるものだからな!」

「生存本能って奴か。

 ガキの癖に本能は働くんだな」

「妾はガキじゃないのだ! それとグリムノアって名前があるんだから、名前で呼んで欲しいのだ!」


 頬を膨らましプンスカと怒る少女。


「……長い。ノアでいいだろ」

「……ノア……ノア……うん! 主がそう呼びたいのなら、それでいいのだ! 妾も気に入ったのだ!」

 

 ノアはよっぽど気に入ったのか、新しい呼び名を何度も口ずさむ。


「そうだ! 主の名前はなんていうのだ?」

「ギャング・スターだ。スターでいい」

「スター! これからよろしくなのだ!」


 ノアは俺を見てニッと無邪気に笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ