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第十三話 多大なる犠牲

 私は娘のアイリスを置いて走り出す。


 アイリスは私のために犠牲になろうとしている。こんな愚かな父親のために。それだけは絶対に駄目だ。娘はこの世界でたった一人の私の希望なのだから。

 それをあんな男に好き勝手されるなど断じて許せるはずがない。

 もういい。アイリスが助かるのなら、私の命も、この国の未来も何もかも全て捨ててやる。


 私は儀式の間の扉を勢いよく開けると、息を整えながら、中へと入る。

 そこには昨晩、徹夜で準備した聖竜を呼び出すための聖具が並んでいた。


「貴族殺しめ、目に物を見せてくれる!!」


 私は豪奢な装飾が施されたナイフで自分の手首に傷を付け、滴る血を銀で作られた盃へと注ぐ。

 それを魔法陣が描かれた部屋の中心へと置き、竜族から授かったと言われている縦笛を吹く。

 すると盃の中に入った血液が波紋を呼び、それは次第に血柱へとなった。

 その柱は空中で蛇の様に舞い始めると、一匹の竜の形へと変化する。

 これが聖竜グリムノアと交信するために必要な竜の血像だ。


「聖竜グリムノアよ!! 私の声が聞こえるか!?」


 私は血像に向かって呼びかける。


『――ふぁあ……五月蠅(うるさ)い……誰じゃ、妾の安眠を妨げる阿呆は?』


 血像がまるで本物の竜であるかの様に動き出し、大きな欠伸をした。


「私の名はラオニダス・ヴァレンシア!! 

 ヴァレンシア王国の現国王である!!」

『……ヴァレンシア? ああ、妾と盟約を結んだ国じゃったな。妾に何の用じゃ?』

「盟約に従い、どうか其方の力を私に貸してほしい!!」

『――妾に救いを求めるということはどういうことかわかっておるのじゃろうな?』

「もちろんだ」

『何を滅ぼしてほしい?』

「この城にいる貴族殺しと呼ばれる男と、王都に迫る帝国軍を!! そして我が娘アイリスを救って欲しい!!」

『それだけの人間を殺すなら見返りは大きいぞ?』


 聖竜の眼光が鈍く光る。

 何とも恐ろしい眼だが、最早私の覚悟はそんなものでは揺るがない。


「この私の命と、我が娘以外の王国の民の命、全てを捧げる」


 儀式の間に静寂が訪れる。

 代償としては十分な筈だが、まさかまだ足りないというのだろうか。

 そう思い私は冷や汗を流すが、血像は突然笑い出した。


『――フワーハッハッハッハッハ!!!!

 イカれておるなお主!!!!

 よかろう、その願いこの聖竜グリムノアが聞き届けた!!!!』


 私は聖竜の言葉を聞き安心する。これでアイリスは救われる。

 そしてすぐに意識が途絶えた。 





 ラオニダス王が儀式を完了させてすぐに、聖竜グリムノアが王都上空に顕現する。

 同時に王女アイリスを除く、ヴァレンシア王国にて生を受けた全ての人間の命の灯火が、聖竜グリムノアへと捧げられ――――消えた。





 同刻、スターはアイリスを連れて、三人の令嬢たちの元へと向かう。

 だが、そこには大勢の兵士と共に、床に倒れる女たちの姿があった。


「どういうことだ……? おい!? 二番! 三番! 五番!!」


 スターは倒れ伏す女たちの名を呼ぶが返事は無い。

 口元に手をかざすと女たちは息をしていなかった。


「――死んでる……そっちの兵士共も同じかアイリス? ……アイリス?」

「――そんな……まさか……」


 眠るように倒れている兵士たちの状態を確認したアイリスは、何かに気付いたのかうわごとを言いながら放心している。


「――おい!! アイリス!! この惨状に心当たりがあるのか――」


 怒鳴り声を上げ、アイリスに状況の説明を求めるスターだが、次の瞬間、轟音と共に天井が崩れ落ちた。

 スターは一瞬の判断で落ちてくる瓦礫とアイリスの間に割って入る。そして反射のスキルで瓦礫を全て弾き飛ばした。


「……あ、危ねえ……一体何だってんだ……。

 おい、アイリス……大丈夫か……?」

「――ウソ……まさか、お父様があれを呼び出したの……」


 スターの呼びかけに反応せずに崩れてきた天井を怯えた目で見つめるアイリス。


「――何だあれは……」


 スターも視線をアイリスと同じ方向に向けると舞い上がった砂埃の奥に巨大な影があることに気づく。


「――聖竜グリムノア……」


 アイリスがそう呟いた瞬間、砂埃の奥がカッと光り、スターの体に熱線が直撃する。

 だが、熱線はスターの体に当たると反射し、熱線は王城の壁を焼き切りながら遥か彼方へと飛んでいった。


「――チッ…………ふざけた火力だな……石壁が融解してやがる……何者だテメェ!!!!」


 影に向かって怒号を上げるスター。


「妾の炎を喰らって生きているとは……人間にしてはやるではないか」


 砂埃が晴れるとそこには銀色に輝く巨大な竜の姿があった。


「……随分デカいトカゲだな。俺の女を殺したのはお前か?」

「いかにも。竜の盟約に従い、この国の民全てを殺し、その生気を奪ってやった。お陰で今の妾の力は最高潮よ」


「――おいおい……この城の人間だけじゃなくこの国の人間全てだと……? 

 ふざけやがって……全部吐き出させてやる!!」

「フワーハッハッハッ!! 威勢のいい人間じゃ!! やってみるがいい!!」


 超越者スターと聖竜グリムノアの王国の命運を賭けた激闘が今始まる。

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