眠れる守護者
光の扉を抜けた瞬間、
空気が一変した。
そこは広大な白い空間――
壁も床も天井も、まるで鏡のように滑らかで、
遠くには巨大な石像が鎮座していた。
ティアが息をのむ。
「……ここが、迷宮の最深部?」
ノクスが低く呟く。
「ううん……ここは“迷宮の心臓”だ。
この世界の記憶が眠ってる場所。」
フォスは剣を構えずに歩み寄る。
光を反射する床に、自分の姿が映っていた。
その影が、一瞬――“別の何か”の形に見えた。
(俺の中の闇……まだ完全には消えてない。)
彼の胸の奥で、微かな鼓動が響く。
黒月の核の残滓が、静かに共鳴しているのだ。
「……この音、聞こえる?」とティア。
ノクスが頷く。
「うん、眠ってる。だけど……目を覚まそうとしてる。」
その瞬間――
地面が揺れ、天井が砕けるような音が響いた。
巨大な石像が動いたのだ。
それは六本の腕を持ち、目の代わりに光の珠が浮かぶ。
一歩踏み出すたび、空気が震える。
「……来タカ。光ト闇ヲ纏ウ者ヨ。」
その声は、まるで大地そのものが話しているようだった。
ティアが後ずさる。
「まさか……この石像が、“守護者”?」
ノクスが緊張した声で言う。
「そう。迷宮を守る“意思”そのもの。
でも、なぜ敵意を……?」
フォスは剣を抜いた。
「試されてるんだ。
この力が、破壊じゃなく“調和”のためにあるかどうかを。」
守護者の光が強まり、
無数の光の矢が空間を貫いた。
フォスが跳び、ティアが詠唱する。
「【光鎖】!」
無数の鎖が守護者の腕を縛り上げる。
しかし、それは一瞬で引きちぎられた。
「うそ……!」
フォスは地を蹴り、守護者の胸へ斬り込む。
剣がぶつかるが、火花のように弾かれた。
「硬すぎる……!」
ノクスが焦りながら叫ぶ。
「フォス! 核を探して! あの巨体のどこかに必ず――!」
ティアが光の矢を放ち、注意を引く。
「フォス、今のうちに!」
フォスは壁を蹴り、空中へ跳ぶ。
守護者の胸の奥で、微かに光る球体が見えた。
「見つけた!」
しかし、守護者の腕が先に動いた。
フォスが弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
ティアが駆け寄ろうとした瞬間、
守護者の目――いや、“光珠”がティアを見た。
「光ノ巫女……闇ト共ニ在ルカ。」
ティアの体が一瞬、光に包まれる。
「な、なに……っ!? 身体が、勝手に……!」
フォスが立ち上がり叫ぶ。
「ティアを放せッ!!」
だが守護者は動かない。
代わりに、ティアの瞳が金色に輝いた。
「――“調和”とは、破壊と創造の輪廻。」
フォスが息を呑む。
「ティア……?」
ノクスが囁くように言う。
「まさか……ティアが、守護者に“選ばれた”……?」
ティアの声が、まるで別人のように低く響いた。
「均衡を保つ者よ。光と闇、どちらへ傾く?」
フォスは剣を握りしめる。
「俺は……どっちでもない。
どちらにも染まらず、両方を抱く。」
その言葉に、ティア――いや“守護者”の声が静まった。
「ならば――その覚悟、見せてみよ。」
フォスの前に、再び守護者の巨体が構える。
しかし今度は、ティアの瞳も同じ光で輝いていた。
「フォス、来て……!
あなたの“均衡”を、証明して!」
フォスは微笑み、剣を構えた。
「上等だ。行くぞ――ティア!!!」
二人の光と闇が交差し、
白い空間が一瞬で黒と金の閃光に包まれた――。




