真実の道
三つの道のうち、“絆の道”を抜けたフォスたちは、
迷宮の中央に戻ってきた。
だがそこには、もう二つの道しか残っていなかった。
一つは黒い霧に包まれた「恐怖の道」。
もう一つは静かに光を放つ「真実の道」。
ティアが息をのむ。
「……次は“恐怖”か。」
ノクスがフォスの肩に乗り、心配そうに呟く。
「ねぇフォス……入る前に言っとくけど、
この道、ただの幻じゃないと思う。
“心が生んだ恐怖”が現実になるタイプのやつ。」
フォスは静かに剣の柄を握った。
「怖がっても進まなきゃ、出口はない。
それに……もう逃げるつもりはない。」
彼の瞳に、ほんの一瞬、過去の影が揺らめく。
――闇に呑まれ、ティアを傷つけかけた、あの夜の記憶。
ティアはフォスの腕を掴み、力強く言った。
「一緒に行く。今度は絶対、ひとりじゃ行かせない。」
フォスは頷き、三人で“恐怖の道”へと足を踏み入れた。
――その瞬間、霧がすべての光を飲み込んだ。
* * *
次にフォスが目を開けた時、そこは荒れ果てた村の跡地だった。
焼け焦げた家々、崩れ落ちた塔、風に舞う灰。
見覚えのある風景。
フォスの喉がひくりと動く。
「ここは……俺の……村……?」
ティアもノクスも、どこにもいなかった。
代わりに、焦げた地面から黒い手が伸びてくる。
「フォス……どうして助けてくれなかったの……?」
「お前がいなければ……こんなことには……」
亡霊たちの声が、フォスの耳に刺さる。
「やめろッ!!」
叫んでも、声は霧に吸い込まれるだけだった。
フォスの心に、かすかな声が響く。
「恐怖とは、逃げた心の記憶。」
振り向くと、そこに立っていたのは――“闇の王”の姿をした自分自身だった。
その瞳は深い闇のように黒く、
フォスの動きを見透かすように微笑んでいた。
「お前は変われていない。
光を求めながら、闇を憎みきれずにいる。」
フォスは剣を構える。
「俺はもうお前には負けない!」
闇のフォスが笑い、同じ剣を構える。
二つの刃がぶつかり合い、闇と光の火花が弾けた。
その時、ティアの声が遠くから聞こえた。
「フォスっ!! どこにいるの!!」
その声に、フォスの瞳がわずかに揺れた。
一瞬の隙――闇のフォスの刃が肩を貫いた。
「ぐっ……!」
血が霧に落ち、地面が赤く染まる。
闇のフォスが囁くように言う。
「お前は“光”ではない。
お前は――“闇と共にある者”だ。」
フォスの膝が地面につく。
だが、再びティアの声が届いた。
「フォス! 立って! あなたは私たちの“光”なんだよ!!」
その瞬間、霧の中にティアの姿が現れた。
彼女の掌には、淡い光の粒が宿っている。
フォスは震える手でその光を掴み取る。
「俺は……光も闇も、どっちも否定しない。
だってそれが――俺だ!」
一閃。
フォスの剣が闇を貫き、もう一人の自分が霧となって消える。
静寂。
ティアが駆け寄り、彼の傷口に手を当てる。
「もう……無茶ばっかりなんだから。」
フォスは息を整えながら微笑む。
「悪い。でも……少し、楽になった気がする。」
ノクスが小さく笑った。
「恐怖を越えたね、フォス。」
その時、迷宮の壁に金色の紋章が浮かび上がる。
『己を知り、恐怖を超えし者に、次の道が開かれん。』
霧が晴れ、奥へと続く道が光に包まれていく。
フォスは立ち上がり、剣を背に戻した。
「残るは“真実の道”……だな。」
ティアが頷く。
「きっとそこが、この迷宮の核心ね。」
ノクスが軽く翼を広げて笑う。
「じゃあ、行こう。“出口”を探しに。」
三人は光の中へと歩き出す。
だが、遠くの暗闇で、何かが小さく笑った。
「真実を知れば――もう戻れぬぞ。」




