影の咲く場所
深い霧の森を抜けた先、
フォスたちは不思議な花畑にたどり着いた。
夜にもかかわらず、地面一面に黒く光る花が咲いている。
その花は、風に揺れるたびに淡い光を放ち、
どこか“生きているような”うねりを見せていた。
ティアが息をのむ。
「……綺麗。でも、怖い。」
ノクスが小さな声で答える。
「これは、“影花”だよ。
光の届かない場所にだけ咲く……闇の力を吸って咲く花。」
フォスは花に近づき、手を伸ばした。
その瞬間――花びらが光り、
彼の腕に黒い模様が浮かび上がる。
「……また、あの声が。」
耳の奥に、あの“もうひとりのフォス”の声が響いた。
「見えるだろう? これが、俺の世界だ。
光に怯えず、闇を咲かせた地。」
フォスが歯を食いしばる。
「やめろ。お前の世界なんて、誰も望んでない!」
「違う。ティアもノクスも、いずれ気づく。
光がすべてを救うわけじゃないってな。」
その声と同時に、影花が一斉に動き出した。
まるで意思を持つように、茎が絡みつき、
フォスたちを包み込もうとする。
ティアが杖を構える。
「“ライト・サージ”!」
白い光が花を焼くように弾けるが、
花はすぐに再生し、闇を増していく。
ノクスが叫ぶ。
「この花、フォスの“影”と繋がってる!
フォスが闇を拒むほど、力を増してるんだ!」
フォスは一瞬、目を閉じて深呼吸をした。
「……なら、俺が向き合う。」
彼は剣を地面に突き立て、両手を重ねる。
「闇よ――もう逃げない。俺の中で、眠れ。」
黒い光がフォスを包み、花々の動きが止まる。
一瞬の静寂。
そして、花の色がゆっくりと“灰色”に変わっていった。
ティアが呆然とつぶやく。
「……闇を、吸収した?」
ノクスが驚いたように目を見開く。
「フォス……本当に、光と闇の“均衡”を取ったの?」
フォスは微笑みながらも、瞳の奥に小さな影を宿していた。
「わからない。でも、感じた。
“もうひとりの俺”は、この花畑の奥にいる。」
ティアが頷き、前を見つめる。
「行こう。闇を滅ぼすためじゃなくて、
共に“理解”するために。」
フォスが剣を握り直し、ノクスが肩に乗る。
霧が晴れ、花畑の先に黒い扉が現れた。
そこから、声が聞こえる。
「ようこそ――“影の庭”へ。」
黒い風が吹き抜け、扉が静かに開かれた。




