祠の囁き
森を抜けた先、フォスたちは山あいの小さな村へとたどり着いた。
しかし、村は静まり返っていた。
人の気配も、焚き火の煙も――何もない。
ティアが不安そうに辺りを見渡す。
「誰もいない……。昨日まで普通に暮らしてたはずなのに。」
ノクスが小さく震えながらつぶやく。
「空、見て……」
三人が見上げると、空には巨大な“黒い円”が浮かんでいた。
まるで太陽を喰らうようなその黒い影――黒月。
ゆっくりと形を取り、淡い闇の光を放っている。
フォスは眉をひそめた。
「……あれが“予兆”か。」
そのとき、村の中央にある井戸の中から低い唸り声が響いた。
フォスが剣を抜き、近づく。
次の瞬間――闇の手が飛び出し、彼の腕を掴んだ!
「くっ……!」
ティアがすぐに光の魔法を放つ。
「“ルミナ・バースト”!」
井戸の周りが一瞬明るくなり、闇が霧散した。
だが、そのあとに現れたのは一人の少女。
黒い瞳に銀色の涙を浮かべ、何かを呟いている。
「……逃げて。もうすぐ、“夜が降る”。」
ティアが駆け寄ろうとしたが、フォスが制止した。
「待て、あれは……闇の気配が強すぎる。」
少女の周囲の空気が歪み、地面に闇の紋章が浮かぶ。
ノクスが青ざめたように震える。
「……あれ、“影の印”だ。影の王が印を刻んでる。」
少女は涙をこぼしながら言った。
「影はもう目覚める。あの月が満ちたとき……
“全ての願い”が、代償を払うの。」
フォスの目が鋭く光る。
「願い……だと?」
少女の体が崩れ、黒い光が霧のように空へ吸い込まれていった。
ティアが手を伸ばすが、もう遅い。
「……消えた。」
フォスは空を睨む。
黒月は、さっきよりも大きく、強く輝いていた。
「祠の契約で得た“調和の力”が……この黒月を呼び寄せたのかもしれない。」
ノクスはうつむき、小さく震える声で言った。
「……ボクの中に、黒月の気配がある。
ボク、何かに“繋がってる”。」
ティアがその肩に手を置いた。
「大丈夫。私たちで断ち切ろう、ノクス。」
フォスは剣を握りしめ、空に向かって言葉を吐く。
「黒月の主が何者でも、必ず見つけ出す。
この世界を……再び闇にはさせない。」
その瞬間、黒月が強く輝き、
空から黒い羽が舞い降りた。
その羽に触れた木々が、瞬く間に枯れ落ちていく。
フォスたちは無言でそれを見つめた。
そして、ゆっくりと歩き出す。
その背後で――影の中に、
“人の形をした黒月の従者”が静かに彼らを見つめていた。




