黒き祠の誓い
夜が明ける直前、霧の森の奥で、
フォスたちは“黒き祠”の前に立っていた。
祠の壁には、古い文字が刻まれている。
「光と闇、いずれも心に宿るとき、真の契約は果たされる」
ティアがそっと指で文字をなぞる。
「……契約って、何のことだろう。」
ノクスが小さく震えながら答えた。
「ここは……闇の王が封印された場所。
ボク……ここで生まれたの、たぶん。」
フォスとティアが息をのむ。
フォスは剣を抜き、祠を警戒するように見渡した。
「ってことは、ノクス……お前、闇の王の欠片かもしれないってことか?」
ノクスは静かにうなずく。
「うん。でもボク、フォスたちといたい。
闇の王みたいには……なりたくない。」
ティアがノクスを抱きしめた。
「大丈夫。誰が何の“欠片”でも、ノクスはノクスだよ。」
その瞬間、祠の扉がひとりでに開いた。
黒い光が流れ出し、地面に紋章が浮かび上がる。
フォスの腕の紋章が反応し、光と闇の両方が脈打ち始めた。
「……またか。」フォスが歯を食いしばる。
祠の奥から、低く響く声がした。
「願う者よ――その心を示せ。」
三人の前に、黒と白の光が二つの道を描く。
白は“光の誓い”。
黒は“闇の誓い”。
ティアが戸惑う。
「これ……どっちか選ばなきゃいけないの?」
ノクスが震える声で言った。
「光を選べば、闇は滅ぶ。
でも闇を選べば、力は得られるけど……心が削れる。」
フォスは目を閉じた。
そして、ゆっくりと歩き出す。
選んだのは――“黒の道”。
ティアが叫ぶ。
「フォス! なんで!?」
「俺は闇を拒まない。
もしノクスやお前を守るために必要なら、闇だって抱く。」
その言葉に、祠全体が震えた。
黒い光がフォスの体を包み、彼の影が地面に広がっていく。
ティアは彼の手を掴み、強く叫んだ。
「だったら私も行く! 光も闇も、一緒に!」
彼女の胸元から、淡い光が放たれる。
白い光が黒の闇と交わり、二つの道が一つに融合していった。
祠の奥から声が響く。
「ならば、新たなる契約を――“調和の契約”を授けよう。」
フォスの紋章が変化し、黒と金の混ざった文様が腕を包む。
ノクスもまた、その光に包まれ、形を少し変えた。
耳が伸び、瞳に淡い蒼が宿る。
ティアが微笑む。
「……これが、私たちの選んだ道。」
フォスは頷いた。
「闇を受け入れ、光を信じる。それが――俺たちの“誓い”だ。」
祠の扉が静かに閉じ、夜明けの光が差し込む。
空は灰色に染まり、遠くで鳥の声が響く。
だがその背後で、
誰も気づかない“黒い影”が一瞬、祠の裂け目から外の世界へと流れ出した。
次回 蠢く影




