闇に咲く願い
夜の霧が静かに森を覆っていた。
フォスたちは、闇の波動が漂う古い祠のそばで野営していた。
フォスは焚き火の前で黙って剣を磨いている。
ティアはその姿を見つめながら、小さくつぶやいた。
「ねぇ、フォス……本当の“願い”って、何だと思う?」
フォスは手を止め、火の揺らめきを見つめる。
「願い……?」
「うん。闇に飲まれそうになったとき、何を願ってるのかなって。
ただ“戦いたい”とか“勝ちたい”とか、そういうのじゃなくて。」
フォスは少し考えて、苦笑した。
「……守りたい、かな。誰かを。何かを。
だけど最近、それが誰なのか、ぼやけてきてる。」
ティアは焚き火に手をかざしながら、静かに言う。
「私はね……“怖くない自分になりたい”。」
フォスが驚いたように顔を上げる。
「怖くない?」
「うん。フォスが闇を抱えてても、何もできない自分が怖い。
だから強くなりたい。フォスの隣に立てるように。」
その言葉に、フォスは優しく笑った。
「ティアはもう強いよ。」
ティアは少し照れたようにうつむき、
「……フォスって、そういうこと言うときズルい。」とつぶやく。
そこへ、ノクスがふわりと浮かび上がった。
「……ボクも、願いがある。」
二人が驚いて見上げると、ノクスの体から淡い光がこぼれていた。
「ボク……人みたいになりたい。
笑って、話して……一緒に歩きたい。」
ティアは目を潤ませ、そっと手を伸ばす。
「ノクス……」
フォスは穏やかに微笑んだ。
「きっとなれるさ。お前も、俺たちの仲間だから。」
ノクスの体が少しだけ光に包まれ、
ほんの一瞬、影の中に“少年の輪郭”のようなものが見えた。
ティアが息をのむ。
「今の……?」
フォスは頷いた。
「たぶん、願いの力だ。闇の中でも、心が本気で光を求めれば形になる。」
その瞬間、闇の祠が低く唸った。
フォスたちは構える。
祠の奥から、黒い花のような影が咲き、淡く光る花弁が空中に舞う。
「……闇にも、こんな綺麗なものがあるんだね。」
ティアの声が震える。
フォスは静かに剣を下ろし、花を見つめる。
「そうだな。
闇が悪いわけじゃない。心がどう向き合うか、それだけなんだ。」
風が吹き、花が散る。
夜空には満天の星が広がり、その中に光と闇が溶け合っていくようだった。
次回 黒き祠の誓い




