契約の影
第16話:契約の影
夜明け前。
森の奥に、黒い霧がゆっくりと漂っていた。
その中心に立つフォスとティア。足元のノクスは、不安そうに小さく震えている。
「……ここだな。闇の囁きが導いた場所は。」
フォスの声に、ティアはうなずいた。
空気が重く、息を吸うたびに胸の奥に冷たさが染みていく。
突如、地面から黒い影が立ち上がり、形を持つ。
あの“闇の使者”だ。
「よく来たな、フォス、ティア。」
その声は静かで、しかし底知れぬ力を感じさせた。
ティアは一歩前へ出る。
「……あなたは何者なの? 何を望んで私たちを呼ぶの?」
「望むのは均衡だ。」
闇の使者は目のない顔をこちらに向け、ゆっくりと手を差し伸べた。
「光と闇。どちらか一方に傾けば、この世界は壊れる。
だが、お前たちは“光”に偏りすぎた。だからこそ、闇が目覚めたのだ。」
フォスはその言葉に息をのむ。
「……闇が、目覚めた?」
「そう。お前たちの中にも、眠っている。」
闇の使者は、フォスの胸に触れようとする。
ティアが思わず剣を抜いた瞬間、黒い影が地面から噴き出し、ティアを包もうとした。
「ティアッ!!」
フォスが手を伸ばすと、闇は一瞬止まり、まるで“選ばれるのを待っている”ように形を変える。
「闇は敵ではない。だが拒むならば、永遠に恐怖となる。」
闇の使者の声が響く。
「選べ。力を分け合うか、拒んで滅びるか。」
フォスは迷った。
ティアのことを守りたい。
けれど、また闇に呑まれたら――。
ティアはフォスの手を握る。
「……フォス、私は信じる。光と闇、どっちもあなたなら導ける。」
その言葉に背中を押され、フォスは一歩前へ。
「……わかった。俺は、闇の力を使う。けど――この力に支配はさせない。」
闇の使者は静かに頷いた。
「ならば契約を。お前の闇が、お前を守るだろう。」
その瞬間、フォスの腕に黒い紋章が刻まれた。
ティアの瞳も、ほんの一瞬、闇色に光った。
空気が震え、森が沈黙に包まれる。
新たな契約が結ばれた――。
だがその影の中で、ノクスだけが小さく鳴いた。
「ピィ……(この契約……何かが違う)」
フォスとティアの知らぬところで、闇の奥にはまだ“別の存在”が蠢いていた
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