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3話 新しい居場所

 到着した領都は思っていた以上の賑わいを見せていた。

 行商人の出店が立ち並ぶ大通りは賑やかな人だかりに満ちており、肌の色や格好を見るに、他国からやってきた商人や移民も多くいるようだ。


 現在の領主は貿易を率先して行っているという話は聞いていたが、それでも辺境と聞いて、無意識にもっと閑散とした場所だと想像していたレティカは少し申し訳なく感じた。


「ほら、ねえちゃん。ここからでも見えるだろ。アレが領主様の屋敷だよ」


 ダストに促され、レティカは見上げると、そそり立つような山に沿うように大きな屋敷が建っているのが見えた。


 ――さすが領主様、私の家の倍近くはある……。


「なるほど。教えてくれてありがとうございます。それでは――」

「つれない事言うない。最後まで送らせてくれよ」


 言いながら、楽しそうについてくるダスト、その姿を見てレティカは人懐っこい犬を連想する。

 とりあえず命を救われた恩もあるので、無下にはできず、結局屋敷まで同行してもらうことになった。


「ようこそいらっしゃいました、レティカ・シュガードナ様。話は既に伺っております。こちらへ。旦那様がお待ちです」


 そして目的地の屋敷に到着するやいなや、レティカは使用人のメイドに応接間の前へと案内された。

 振り返ると、いつの間にかダストの姿はなかった。

 流石にここまでついてくる気はなかったようだ。


「遠路はるばるよく来てくれた、魔法士殿。歓迎しよう」


 応接間に入ると、中央に置かれたテーブルの向かいのソファーに壮年の偉丈夫が座っていた。

 燕尾服の下からでもわかる筋骨隆々の身体つき、頬に走る傷痕、若かりし頃は魔物や他国との戦争で武勇を轟かせていたと聞いたが、なるほど、いかにも歴戦の勇士といった感じの風体である。


「あっ、はい。どうも……」


 威圧されて、思わず気後れしてしまったが、レティカは改めて気を取り直して姿勢を正す。


「本来ならば、ゆっくり歓待したい所だが、この地は人手不足。客人を燻ぶらせておく程、今の我が領と家は余裕はない。――問おうか。あなたは何ができる?」


 領主様からのストレートな問いかけ。

 当然ながら自分の王都での評判も聞いているはずだ。

 その上で自分を見極めようとしている、そう察したレティカはできる限り毅然とした対応を心掛ける。


「……魔法は勿論、魔力を持つ生物や植物に鉱物の知識は一通りあるので、魔法薬の精製にマジックアイテムの作成、まあそっち関係は大体できると思います」

「……ふむ」


 簡潔にわかりやすく最低限に。レティカの自己PRに辺境伯は一人頷いた。

 不安を覚えるレティカだが、やがて彼は今までの厳つい雰囲気が一転させて、朗らかに微笑んだ。


「……いやはや結構。丁度、魔法に明るい人材が欲しかったのだ。今後ともよろしくお願いしようか」


 打って変わった態度に逆に不安を覚えたが、いちいち勘繰ってもしょうがないとレティカは細かい業務内容の話や今後の生活について相談を進めていく。


「……ほう。本当に借家でいいのか? 貴女は貴族の出であろう? 我が屋敷に使われていない部屋が幾つかある。住み込みとしてそちらを使ってもらっても構わないのだが」

「いえ、既に貴族籍なんて無いようなものですし、そこまで世話になるわけにはいきませんよ」

「そうか。ならばそちらの方の世話はダストに任せるとしよう」


 言われ、レティカはさっきの青年の顔を思い出す。

 やたら気安い男だとは思ったが、まさか領主とも懇意にしていたのか。


「アレは中々に見所のある奴だ。何か用があれば頼るといい」


 しかも、随分と信用されているようである。

 彼の素性について興味が沸いたが、藪蛇になりそうなのですぐに思考を打ち切った。


「それでは失礼します」


 レティカは会釈して応接間を出ると、大きく息を吐いた。


「ふぅ――まず第一関門はクリアですかね」


 少なくとも、向こうはこちらをどうこうしようという害意はなさそうだった。

 単に何も期待していないだけかもしれないが、それならそれで気楽でいい。

 こちらも好きにさせてもらうだけだ。


「よう。ご苦労さん。どうだったよ、領主様はおっかなかっただろ?」


 回廊を歩いていると、ホールで立っていたダストが出迎えた。

 姿が見えなくなったかと思ったら、どうやらずっとそこで待っていたらしい。


 ……正直、放っておいてほしい。どんだけ暇なんだろうか。


「ええ。まあ、ですが、話してみると穏やかで優しそうな人でしたね」

「ははっ! 初対面のあの人を見て、それを言えるのかよ」


 穏やかで優しそう、というのは世辞としては見え透いていたのかもしれない。

 それでも、悪い人間には見えなかったのは本当だ。

 無論、それで全面的に信じきれるかは別問題だし、なんなら目の前の男すらまだ信用しきれない。


「――なるほど。お前さんの世話を俺が仰せつかったわけか」

「はい。そういうわけです」


 正直気乗りしなかった。

 領主のお気に入りらしいし、もしかしたら自分の見張りかもしれない、そう思うと気が滅入る。


 そこまで考えて、自分が思っていた以上に人間不信になっている事を自覚して、レティカはさらにゲンナリした。


「なんだよ、その顔……ま、いいか。それじゃ今後ともよろしくな」

「えっ⁉ え、ええ。よろしくお願いします……」


 不意に声をかけられ、我に返ったレティカはできる限りの笑顔を作った。


「そういう作り笑いとかいいって。お互い気楽にやろうぜ」


 秒でバレた。

 ダストは特に気にした様子もなく、バンバンとこちらの背中を叩いてくる。

 もしかして、この先もこの青年は自分にこんな感じで接してくるつもりか?


 ……身が持つでしょうか。


 そう不安を覚えつつも、こうしてレティカ・シュガードナの新しい生活は幕を開けた。

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