新たな脅威
秋葉原の夜が更ける中、レイジとイリスは魔物の発生源を壊滅させたものの、二人の表情には安堵よりも、かすかな緊張感が残っていた。地上に戻り、彼らはまだ完全には消え去っていない不安を胸に、街の明かりの中を歩いていた。
「何かがまだ足りない気がする」
レイジが呟くように言う。魔物の発生源を封じたにもかかわらず、彼の直感は何かを警告していた。いつもなら、この瞬間には達成感があるはずだが、今回は違う。何か、もっと大きな存在が影を落としているような感覚だった。
「あなたの感覚は正しいわ」
イリスが静かに口を開く。彼女は先ほどから何かを考え込んでいるようだったが、その目には確信の光が宿っていた。
「魔物を操る力はまだ存在している。それが完全に消えるまで、私たちはまだ戦いの途中にいるのよ」
「やっぱりか」
レイジは立ち止まり、空を見上げた。秋葉原のネオンが夜空を照らし、街はいつも通りの喧騒に包まれている。だが、その下には、再び魔物が現れる気配が隠れているのかもしれない。
「それで、次はどうするんだ?」
レイジが問うと、イリスは静かに首を横に振った。
「私もまだ全てを把握しているわけじゃない。ただ、ある場所に心当たりがあるの」
「どこだ?」
「秋葉原の南にある、廃工場。そこに何かが隠されているはずよ」
レイジは少し考え込み、やがて頷いた。魔物が現れた原因を追う以上、彼女の勘を信じるしかなかった。何か大きなものが裏で動いている――その確信だけは、二人の中にあった。
その晩、二人はすぐに行動に移すことにした。廃工場は秋葉原の南端、かつて電子部品の倉庫として使われていた建物だったが、今では長らく放置され、無人のまま荒れ果てている。街のネオンが遠のくにつれ、空気は次第に冷たくなり、静寂が辺りを包んだ。
「ここか」
レイジが低く呟きながら、工場の入口に立った。朽ちた鉄の扉が、彼らを歓迎するかのように薄く開いている。嫌な予感がする。だが、引き返すわけにはいかない。
「注意して」
イリスが短剣を手に、工場の中に入る。レイジも銃を構えながら、慎重にその後に続いた。
中は予想以上に広く、機械が錆びつき、床には割れたガラスや壊れたコンソールが散らばっていた。だが、それだけではない。空気に何かしらの不穏な気配が混じっている。まるで何かがここで彼らを待っているかのような、異様な雰囲気だ。
「ここに何かがあるのか?」
レイジは辺りを見回しながらつぶやいた。イリスは無言のまま奥へと進んでいく。
その時、突然足元から不気味な振動が伝わってきた。建物全体が震えるような感覚が走ると同時に、床の下から巨大な装置が音を立てて現れた。
「何だ……これは?」
レイジが驚きの声を上げる。そこにあったのは、古代の文字が刻まれた巨大な石碑のような装置。装置の中心には、赤い結晶のような物が埋め込まれており、そこから脈動するかのような赤い光が放たれている。
「これが……魔物を呼び寄せる装置よ」
イリスの声は静かだったが、その言葉には確信があった。
「どうやって動いているんだ?」
レイジが尋ねると、イリスは装置を見つめたまま答えた。
「この装置自体は、古代の魔術で作られたもの。だが、誰かがそれを再び目覚めさせ、魔物を秋葉原に送り込んでいる」
「つまり、誰かが背後でこの装置を操ってるってことか……」
レイジは目を細めた。魔物の発生は偶然ではなく、何者かの計画だったということが、徐々に明らかになってきた。そして、その黒幕を見つけ出さなければ、秋葉原に平和が戻ることはない。
その瞬間、装置が大きく振動し始めた。赤い光がさらに強まり、工場全体を覆うような不気味なオーラが立ち込める。
「動き出した……!」
イリスが声を上げ、二人は急いで装置から距離を取った。次の瞬間、床の下から無数の魔物が湧き出すように現れた。小型の魔物たちが群れをなし、牙をむき出しにして襲いかかってくる。
「来たな!」
レイジは素早く「散弾」を装填し、群がる魔物たちに向かって引き金を引いた。銃声とともに魔物たちが吹き飛び、数匹が地に崩れ落ちたが、次々と湧き上がる魔物の数は止まらない。
「これじゃキリがない……イリス、何か手はあるか?」
レイジが焦りながら尋ねると、イリスは魔物を一閃しながら答えた。
「装置を止めるしかない。あの赤い結晶が核よ!あれを壊せば、全てが終わる!」
「なるほどな……じゃあ俺がやる!」
レイジは意を決し、魔物たちの群れをかいくぐって装置に向かって走り出した。周囲には次々と魔物が襲いかかってくるが、彼はその攻撃をかわしながら、装置の赤い結晶に狙いを定めた。
「これで終わりだ……!」
レイジは、銃に「破壊弾」を装填した。この弾丸は、強力なエネルギーを持ち、硬い物質さえも粉々にする力を持っている。
結晶に照準を合わせ、レイジは迷わず引き金を引いた。轟音と共に放たれた破壊弾が結晶に直撃し、閃光が工場全体に広がる。
次の瞬間、結晶は粉々に砕け散り、装置全体が崩壊していった。魔物たちも次々と力を失い、姿を消していく。
「やったか……!」
レイジは息を整えながら、その場に立ち尽くした。装置は完全に破壊され、魔物の気配も消え去った。だが、イリスの顔にはまだ険しい表情が残っている。
「これで全て終わったわけじゃないわ」
イリスは静かに言った。
「確かに装置は壊れたけど、これを操っていた存在はまだ健在よ。これからが本当の戦いになるかもしれない」
レイジはイリスの言葉に深く頷いた。彼女の言う通り、この事件はまだ終わっていない。黒幕が誰なのか、そしてその目的が何なのか――それを突き止めるため、彼らの戦いは続く。
「さあ、行こう。次の手がかりを追うために」
二人は再び足を踏み出し、秋葉原の夜に消えていった。