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パートナー


「は………」


「良かったわね、ケルティ。さっそく相手が見つかって。じゃあ後はお若い二人で…」


「ちょ、ちょっと!!勝手に話をまとめないでよ!!」  


セリウスに突然誘われてケルティがパニックになっているうちに、レナはさらりと言ってのけ自然な動きで席を立とうとする。


彼女はこちらに近づいてくる人影に気付いており、こうなることは予想通りの結果だったらしい。



「僕、ケルティに嫌われるようなこと何かしたかな…?」


快諾してくれなかったケルティに、セリウスは両眉を下げてあからさまにしょげている。

美しく輝く青の瞳から一切の光が消え去ったかのようにすら見えた。


落胆を通り越して狼狽しているセリウスに、さすがのケルティも胸が痛み当たり障りのない言葉を必死に掻き集める。



「ええと別に、セリウス様が何かしたってわけじゃなくて…それはその…うちは没落寸前の貴族だからパーティーに行くような余裕なんて無くて…ましてや貴方みたいな飛び抜けて高貴な方と一緒になんて…」


「良かった。」


「え?」


今にも泣きそうな掠れ声が頭上から聞こえてきて、ケルティは驚いて視線を上げた。


そこには、微かに目元を赤くして嬉しそうに微笑んでいるセリウスの姿があった。


いつも貴族の微笑みを絶やさない彼が始めて見せたあどけない表情に、ケルティは思わず見惚れてしまった。

彼の背景に花が咲き誇っているように見えるほど美しい光景に、彼女はつい状況を忘れて見入ってしまう。



「当日の衣装は全てこちらで用意するよ。もちろんアクセサリーや靴などパーティーに必要なものは全て。君が望むなら当日うちから支度の為の侍女も派遣しよう。迎えに行くから、ケルティはただ待ってるだけで良いからね。ふふふ、どうしよう楽しみ過ぎて今日から眠れないかも。本当にありがとう。心からの感謝を君に。」


キラッキラの笑顔で言いたいことだけをひと息に言い終えたセリウスは、ケルティに満遍の笑みで手を振ると次の授業に向かうため教室を後にした。


すでに他のクラスメイト達は教室を出ており、ケルティとレナだけが取り残される。



「え、今の何…アレ決定なの…??私一言も行くだなんて言ってないんだけど…え、私言ってないよね?」


「彼はそのつもりでしょうね。」


「嘘でしょ……私の最後の出会いのチャンスがこんなに簡単に奪われるなんて…少しくらいは望みがあるかもって思ってたのに…」


「なぜか彼は貴女に執着しているみたいだし、このまま上手くいけば侯爵家の嫁だから好条件なんじゃないかしら?」


「それは絶対ないって。大した話したこともないのにありえないよ。私のことを面白がってるだけだと思う。はぁ…憂鬱…」


「良いじゃない。そんなに悪い人には見えないし。流れに身を任せなさい。まだ若いんだから!」


レナが、悲しそうにしているケルティの肩を励ますように軽く叩く。

まだ納得のいっていないケルティだったが、授業の開始を告げる鐘がなってしまい、慌てて教室から出て行ったのだった。



***



キンベラー家の門をくぐり正面玄関前に停車した馬車の中、セリウスはひとり深呼吸をして心と表情を整える。

その後外から扉が開けられ、彼は姿勢を意識した優雅な足取りで外付けのステップを降りて外に出た。


すぐ脇に控えていた執事に、歩きながらカバンと上着を渡して邸に入る。

そして、邸の玄関にある大きな姿見でタイとクセのある前髪を整えると階段を上がっていった。


広い廊下の突き当たり、天井まで続く重厚なドアを丁寧にノックする。



「失礼いたします。」


控えていた使用人が扉を開けると、セリウスは綺麗な姿勢で頭を下げた。



「ただいま戻りました。」


「おかえり、セリウス。」


広い部屋の奥で書類仕事をしていた50代くらいの男が顔を上げて目尻に皺を作った。

年齢の割に艶やかな黒髪と青い瞳を持つ柔和な表情の彼は、セリウスの風貌とよく似ている。



「たまにはお茶でもどうだ?」


「ええ、喜んで。」


セリウスの返答とほぼ同時に紅茶の華やかな香りが室内に漂ってくる。

その香りは次第に強くなり、気付いたらテーブルの上に二人分のティーセットが並んでいた。


促され、ティーカップの置かれたソファー席に腰を下ろすセリウス。

相手がカップに口を付けるのを待って、自分も同じように口に運んだ。

流れるような所作は気品に溢れており、幼い頃からよく躾けられてきたのだろうと想像が容易い。



「学園はどうだ?困っていることはないか?」


「ええ、おかげさまでとても充実した日々を過ごしております。僕の我儘を聞いて頂き、感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございます。」


心からの感謝を伝えられているはずなのに、男は少し困ったように眉を下げた。

カップをソーサーに戻し、両手を組んだ上に顎を乗せてセリウスのことを真正面から見据える。



「お前は昔から欲がないな。親が子を学園に通わせることなど当たり前だ。もっと甘えてくれていいんだぞ?」


最後は冗談めかして言ってきたが、セリウスは緩やかな微笑みで首を横に振った。



「お父様にはもう十分過ぎるほどに頂いていますから。そろそろ息子としてお返しをしないと割りに合いませんよ。」


茶目っけたっぷりに言い返してきたセリウスに、お手上げだとばかりに男は声を上げて笑っていた。


その後も二人はティーカップ二杯分ほどたわいもない話を続け、久しぶりに親子水入らずの時を過ごしたのだった。



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