表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/57

不穏な動き



翌日の昼休みのカフェテリア、目立たない席に座ったケルティは、昨日の放課後の出来事をレナに勢いよく話した。


本当は朝一番に伝えたかったのだが、キャメリアの視線が怖すぎてとてもじゃないが教室の中では口に出来なかったのだ。


朝から彼女の様子がおかしいことに気付いていたレナは、早口で話すケルティに黙って耳を傾ける。



「だから、セリウス様とは関わらないようにしたいってそういう話かしら?」


要約したニナに、ケルティはアイスティーをがぶ飲みしながらうんうんと首を縦に振った。

一気に話し過ぎたせいで相当喉が渇いていたらしい。

そのままの勢いでサンドイッチを手に取り、大きくひと齧りした。



「なるほどねぇ…でもお相手は貴女に関わる気満々みたいだけど?」

「は??」


ニナの言っている意味が分からず、ストローから口を離したケルティが思い切り首を傾げる。


すると、ニナはすっと人差し指を前に出し、ケルティの背後にある窓ガラスを指差した。

指の動きにつられ、サンドイッチを持ったままケルティがゆっくりと後ろにある大きな窓を振り返る。



「はあああっ!!?」


驚いて椅子から立ち上がり掛けたケルティが慌てて席に腰を下ろす。

背中から見られていると分かっているのに、身を隠すように前傾姿勢を取った。



「な、なんでセリウス様があんな所にいるの!?」


声を潜めてレナに尋ねるが、彼女はさぁ?とばかりに両手を上に掲げている。


ビビりまくっているケルティがもう一度背後を振り返ると、窓ガラスの向こう、青い芝生の上に聳え立つ大木の木陰に座るセリウスとバッチリ目が合った。


艶やかな黒髪を風に揺らし、ケルティに向かって軽く手を振りながら優しく微笑んでくるセリウス。

マズイと思ったケルティが慌てて視線を前に戻す。



「でも、目的は貴女で間違いないわね。」


セリウスの真っ直ぐな微笑みを見て確信したレナ。

動揺するケルティに構わず、呑気にサンドイッチを手に取り口に運んでいる。



「一体私が何をしたって言うの…もう関わりたくないのに…」


ケルティは食べかけのサンドイッチを皿の上に戻すと、膝の上で両手を握りしめ、震える声で漏らした。

だが、すぐさま眉を吊り上げて正面を向く。



「とにかく!なるべく関わらないようにする!もう脅されるのも嫌だし、家族を危険に晒されるのも嫌。そんな危険な橋を渡るくらいなら、私は金持ちの好色ジジイを選ぶ!そっちの方が数百倍マシだっての。」


吹っ切れたケルティは、食べかけのサンドイッチを手に取り勢いよく胃の中に入れていった。



「…好色ジジイは流石にやめなさいよ。」


レナは間違った方向にギアを入れるケルティのことを呆れた顔で見ながら、食後の紅茶を啜っていた。




***




「セリウス様」


中庭から教室に戻る途中、後ろから呼び止められたセリウスが足を止める。


聞き覚えのある声に感情が沸騰しそうになるのを理性で抑え込み、当たり障りのない微笑を作ってゆっくりと振り返った。



「昨日はお礼も言えずに大変失礼致しましたわ。」


予想通りそこにはキャメリアの姿があった。

表情も言葉も予想通りで吐き気がするが、セリウスは感情を押し殺して柔らかく首を横に振った。



「いや、迷惑を掛けたのは僕の方だから気にしないで。」


「いえでも…お借りした上着もそのままお返ししてしまいましたし…」


話を終わらせようとしたセリウスにキャメリアが必死に食い下がってきた。

一秒でも早くこの場を去りたかった彼は舌打ちを堪え、最も効果の高い言葉を吟味して口にする。



「ああ、それなら買い換えたから問題ないよ。アレはもう処分したから。」


「え…………」


一瞬にして、キャメリアの顔から表情が消え去る。


長年侯爵令嬢として厳しい淑女教育を受けて来た彼女は、いつだってその心を取り繕って生きて来た。

誰にも本心を悟られてはいけない、弱みを見せてはいけないと親に言い聞かせられながら。


だが、誰にも蔑ろにされたことのなかった彼女にこの状況は耐え難いものであった。周囲の音が遠のき、キーンっと耳が痛くなる。



「授業の準備があるからそろそろ行くね。」


セリウスは穏やかな微笑みを残すと、また前を向きその場から立ち去って行った。




「信じられない…セリウス・キンベラー、絶対に許さないわ。」


一人残されたキャメリアは自分のことをぞんざいに扱ったセリウスに対する怒りで血を激らせ、相手を呪う言葉を口にしていた。




「キャンベラ嬢?そんな所に突っ立って、何してんだ?」


廊下のど真ん中で立ち止まっているキャンベラを見かけたダリクが後ろから声をかけて来た。



スロットル伯爵家とグレンダン侯爵家では本来家格が違い過ぎて気安く話せる関係ではないのだが、この両家の関係性は少し特殊であった。


スロットル伯爵家は昔からグレンダン侯爵家の諜報の役割を担っており、信頼が厚い。

家同士の会合で、幼い時から度々顔を合わせていた二人も例外ではない。



「ダリク、丁度いい所に来てくれたわ。急ぎ調べて欲しいことがあるの。頼まれてくれるかしら?」


キャンベラは、有無を言わせぬ圧を出しながらにっこりと可憐に微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ