再会のお茶会
セリウスのヤンデレ度が増してます汗
「レナっーー!!!」
久しぶりに目にする親友の姿に、ガゼボで待っていたケルティは立ち上がり両手を広げて駆け付ける。その勢いのまま抱き付いた。
学園が休みのこの日、事前にセリウスから言われていた通り、レナ達がケルティの元へとやって来たのだ。
晴れた昼下がり、建物で四方を囲まれた中庭で久しぶりに顔を合わせる面々。涙溢れる感動の再会となるはずが、なぜかレナは渋い顔で、セラフィーヌは生暖かい目でケルティのことを見ている。
「ケルティ、貴女ってば…」
「まぁケルティったら」
「??」
二人の感情が読めず、ポカンと口を開けるケルティ。
そんな彼女を見てレナが呆れたように息を吐いた。
「随分と色に染まったわね。」
そう言ってレナがケルティの姿を上から下まで視線でなぞる。
誰かの瞳を連想させる青色のドレスに黒のレースがふんだんにあしらわれており、首元にはブラックダイヤモンドの輝くチョーカーがしっかり巻かれている。
昼時に似つかわしくないほど華美で閉鎖的で独占欲に塗れたドレスであった。
「そうかな…?」
ケルティはこてんと首を傾げた。
セリウスに用意されていたドレスは部屋着も含めて全て青と黒を基調としており、目と感覚が麻痺していたのだ。
「まぁ、ラブラブなことは良いことですわ。」
ガゼボに用意されていた席につき、優雅な仕草でティーカップに口をつけながらセラフィーヌが微笑む。
「それはそうかもしれないけれど、ケルティに自覚がないことが問題なのよ。こんなの、彼も余計に囲いたくなるわ。歯止めが効かなくなってからでは遅いって、理解してる?」
手前にあった薄桃色のマカロンを手にしたレナがケルティに厳しい視線を向けた。
「あら。愛する者同士、同意の上なら良いのではありませんこと?」
「ケルティと二度と会えなくなるのは嫌よ。」
「それは…彼ならやりかねないですわね。」
「だから私は最初からそう言って心配をーー」
「ふふふふっ」
「「ケルティ?」」
二人の言い合いに声を出して笑みをこぼしたケルティ。心底嬉しそうな視線を向ける。
「懐かしいなぁと思って。やっぱり二人といると落ち着く。今日は来てくれてありがとう。」
「私たちも心配してましたのよ。グレンダン侯爵家とスロットル伯爵家が相次いで事件を起こして没落して、同時期にケルティが学園に来なくなったんですもの。何か関係があるんじゃないかって…でも何事もなくて本当に良かったわ。」
「本当よ。彼と一緒にいたのなら早くそう教えてくれれば良かったのに。心配して損したわ。」
二人の表情から、本心で心配してくれていたことがよく分かる。ケルティは胸に手を当て、友のありがたみを噛み締めた。
ー 本当に良い友達を待ったな…きっと大丈夫、この二人にならセリウス様との結婚について相談出来る。だってこんなの一人で答えなんて出せないから。まずは隠さずにちゃんと話そう。
ケルティは紅茶を口に含み、極度の緊張で乾いた喉を潤す。決意が揺らがないよう一息で話すため大きく息を吸った。
「レナ、セラフィーヌっ、実はね…」
「それにしても水くさいわね。結婚のこと黙っていただなんて。」
「本当ですわ。面倒ごとを避けるために直前まで隠していたのだと分かりますけれど、出来ればケルティの口から聞きたかったですわ。」
「え??何の話???」
本気で慌てるケルティをよそに、レナとセラフィーヌの二人はまだとぼける気かと顔を見合わせた。
「来月の卒業パーティーの翌日、結婚式を挙げるんでしょ?彼からパーティーの招待状が届いてるわよ。急で申し訳ないって丁寧な詫び状と一緒にね。まぁ婚約してるんだからいずれはそうなると思っていたけど、それでも驚いたわよ。」
「だから花嫁修行のためこちらに住んで、学園も休んでいるのでしょう?本当は驚かせたかったのかもしれませんが、セリウス様から全部聞いてますわよ。ふふふ…今日だって、張り切ったケルティがこんを詰めすぎているから気分転換に来てくれないかってお誘い頂いて…旦那様に愛されてますわねえ。」
「彼の愛が重すぎて、ケルティを独占するからこうなるのよ。学園くらい普通に通わせてあげればいいのに…あの見た目に反してよほど自分に自信がないのね。狭量な男。」
「それほどまでにケルティのことが魅力的に映っているのよ。はぁ…歌劇のように刺激的でドラマティックな愛ですわね。当事者にはなりたくないけれど、遠くから見ている分には素敵ね。」
「いや、ちょっと待ってよ。」
ー 本当にちょっと待って。これ完全に勘違いされてる。ちゃんと話を聞いてもらわないとっ
「二人とも、一回私の話をーー」
「やぁ、楽しんでいるかな?」
颯爽と現れたセリウスがすっと片手を上げ、ケルティの側まで歩み寄る。そして、彼女の髪を掬い上げ、二人に見せつけるように口付けを落とした。
「まぁ」「うぇ」
恋人らしい光景に、頬を赤らめて口に手を当てるセラフィーヌと分かりやすくドン引きするレナ。二人は真逆の反応を示した。
髪とはいえ、友人の目の前で口付けされケルティの耳は真っ赤に染まり、テーブルに額がくっつきそうなほど頭を下げている。何を言おうとしたかなど頭から全て抜け落ちてしまった。
そんな彼女の激しい動揺を無視して、セリウスは後ろから包み込むように抱きしめた。
「僕のケルティ、そろそろ返してもらえる?」
「ひっ」
ー ち、ちち、近い!
耳元に吐息がかかり、密着した背中から体温と鍛え上げられた肉感を感じる。勝手に焦って変な声を出したケルティの肩がびくついた。
頭上からセリウスの笑う気配がする。珍しくやけに楽しそうだ。
「はいはい、邪魔者は帰りますわよ。」
「ケルティ、強く生きるのよ。」
「えっ、ちょっと待って!ねぇってば!!」
帰らせまいと追い縋るケルティだったが、実際はセリウスに背中からホールドされているせいで微動だに出来なかった。
「なんでよ…」
「ふふ、帰っちゃったね。」
客人が去って静けさを取り戻したガゼボに、セリウスの嬉々とした声が響いていた。




