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玉の輿婚を狙ったはずが、なぜかお相手の方が本気でした  作者: いか人参


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辻褄合わせ


翌朝、だいぶ陽が高くなってから目を覚ましたケルティ。

昨晩は色々あって眠れそうにないと思っていたのだが、ミカに寝支度を手伝ってもらった後そのまま昼近くまで熟睡していたことに気付く。



「なんか物凄くよく眠れたんだけど…」


皺をつけることを躊躇いそうなほど上質なシーツを敷いたキングサイズのベッド。

その素材はすべて一級品のもので作られているが、ベッドの高さやスプリングの硬さ等の使用感はケルティが自室で使用していたものとほぼ同じに出来ている。安眠できたのはそのせいだ。


セリウスが「いつか」のために彼女のベッドの型番を調べて準備していたことなどケルティは知る由もない。



「ケルティ、いいかな?」


ミカからケルティの支度が出来た報告を受け、セリウスが部屋を訪れた。


昼食の時間帯はとうに過ぎていたが、お腹を空かせているであろうケルティのためバスケットに入れた軽食を手にしている。



「あ、うんはいっ」


もっと自然に返事をしようと思ったのだが、不覚にも声が上擦ってしまった。


ー あぁかわいい…


彼女の動揺が手に取るように分かり、ドアの外に立つセリウスは必死に笑いを噛み殺す。

ニヤけそうになる表情筋に力を込め、ドアを開けるといつもの穏やかな笑みにすり替えた。



「お腹空いたよね。食事にしよう。」


持参したバスケットからサンドイッチやサラダ等を取り出して手際よくテーブルの上に並べた。


芳醇なバターの香りを漂わせるパンに、その間に挟まれている厚切り肉の香ばしい香り。

食欲を唆る見た目と香りにケルティの目が釘付けになっている間に、セリウスは紅茶の用意まで終えていた。



「美味しい。」

「良かった。」


ケルティの精神状態を心配していたが、美味しそうに食べる姿を見てセリウスはバレないように安堵の息を吐いた。

彼女の笑顔を見てようやくセリウスも自分の食事に手を伸ばす。


昨日のことが嘘だったかのように、二人で食事を楽しむ穏やかな時が流れた。



「昨日のこと、少し話してもいいかな?」


「えっと…」


ー まだ答えを出せてない…ううん、たぶん答えは出てる。でも覚悟を決められてないだけ…


セリウスの言葉とミカの言葉が頭の中を駆け巡った。頭ではダメだと分かっているのに、このまま一緒にいたいと心が言う。


そうだよ、ただ一緒にいるだけならいいんじゃない?迷惑を掛けるわけじゃない。誰にも知られなければこのまま二人で…



「嫌な事を思い出させてごめん。犯人が分かったんだ。」


「え?何の話…?」


「昨日のアレースト家への襲撃の件だよ。」


「あ、そっちね…」


結婚話の続きだと思っていたケルティは、勘違いした恥ずかしさで勝手に頬を赤く染めている。

セリウスはしっかり気付かないふりをして、冷めた紅茶を入れ直しケルティの前に差し出した。



「やはりスロットル家の仕業だったよ。侯爵家を没落させるため、僕の婚約者である君の家に目を付けたらしい。実行犯お呼びスロットル家当主の身柄は王宮で拘束されているから安心して。そして今回ケルティの父君にも嫌疑がかかる可能性があったから、彼は持病の療養という名目でうちの領地に匿っているよ。落ち着くまでその方が良いかなって。」


「そうだったんだ…お父様のことまで気にかけてくれて、何から何までありがとう。セリウス様が助けに来てくれなかったら今頃どうなっていたことか…」


「スロットル家の動きが怪しかったからね。ケルティの邸の側に侯爵家の斥候を配置していたんだ。間に合って良かったよ。だけど、あの場に僕がいたことは秘密にしてほしい。」


「どうして?セリウス様が助けてくれたのに。」


「跡取り息子である僕が自ら現場に行くなんて、父にバレたら叱られてしまうからね。」


「それもそっか。」


すんなり納得したケルティは茶菓子に手を伸ばした。少しずつ状況が見えてきて、それらが片付いた後であること知り、菓子を味わう余裕が出てきた。



「ケルティのことも、僕の家にいて難を逃れたことになってるから話を合わせてね。君に醜聞が立つといけないから。学園も休んでいたし、気にする者もいないだろう。」


「うん、分かった。」



ー あぁ、疑われなくて良かった


僅かに目を細めたセリウスは、指先が震えそうになるのを堪えながらティーカップを口に運んだ。


心の中で深く深く息を吐く。

限界まで張り詰めていた糸をゆっくりと元に戻すように。


ー だが、まだ気を緩めてはいけない。二人だけの箱庭に閉じ込めるまでは。たった一つの綻びが、疑念が、大切なものを失うきっかけとなってしまう。そんなことは絶対にさせない。



「セリウス様?」


ティーカップに口をつけたまま黙り込んでしまったセリウスに、ケルティが不思議そうに視線を向けた。



「君といられる幸せを噛み締めてるんだ。」


青い瞳に溢れ出しそうなほどの愛情を込め、蕩けるような甘ったるい視線をケルティに向ける。

途端に彼女の頬は赤くなり、思い切り視線を晒した。



「ふふふ、可愛い。このまま一生眺めていたいけど、ケルティはしばらく休んだ方がいい。身体に障るといけないから、また夕飯時に部屋に行くよ。結婚式の日取りの話はその時にでも。」


「もうっ。大袈裟なんだから。うん、また夕飯の時にって…え?今結婚式って言った??」


「また後でね。」


「え、あのっ…」


ケルティの質問に答えないまま、セリウスはあっという間に部屋を出て行ってしまった。



「え…結婚って、返事をしないまま進むものだったっけ…」


彼の言葉に混乱したケルティが一人取り残された。



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